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多発性嚢胞腎

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多発性嚢胞腎-遺伝性疾患におけるナチュラルなアプローチ
By: Odette Bulaong BSc, ND
Odette Bulaong BSc, ND
Quarry Chiroporactic Clinic
2560 Gerrard St. East #103
Toronto, ON. M1N 1W8
www.quarrychiropractic.com
obulaongnd@gmail.com


Diagnosis & Symptomatology of Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease


パートI:常染色体優性多発性嚢胞腎の診断および諸症状

多発性嚢胞腎(PKD: Polycystic kidney disease)は、腎臓で複数の嚢胞が大きくなる遺伝性疾患です(1)。これら嚢胞のサイズが大きくなるにつれ、腎臓の正常な構造が侵され、腎機能が低下します(1,2)。それにより、重症患者たちでは末期腎不全(ESRD)と呼ばれる病態が出てきますが、これは透析や腎移植が必要となるほどの腎臓の濾過機能の著しい低下を意味します(2)。末期腎不全は、腎移植を受けなければ最終的に死に至る可能性のある、徐々に進行する病態です。多発性嚢胞腎に対するナチュラルなアプローチは、腎機能を保持し、更に侵襲性の高い治療が必要となるのを遅らせるのを助ける可能性があります。

多発性嚢胞腎には、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD: autosomal dominant PKD)および常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD: autosomal recessive PKD)という、疾患がどのように遺伝されたかに基づいた2つの主要な病態があります(1,2)。常染色体優性多発性嚢胞腎は、最もよくある命にかかわる遺伝性疾患の1つで、世界的には400人から1000人に1人が常染色体優性多発性嚢胞腎を患っています(1,2)。この記事では、常染色体優性多発性嚢胞腎の診断および共通の症状を理解することに焦点を当てます。 常染色体優性多発性嚢胞腎の診断

常染色体優性多発性嚢胞腎の家族歴を持つ患者たちの診断に必要なのは画像検査です(1)。一般に、常染色体優性多発性嚢胞腎の診断は、その疾患の家族歴がある人々に対して、超音波検査で少なくとも次の1つが示されたときに下されます。

  • 15-39歳の人:腎臓片方あるいは両方で3つの嚢胞
  • 40-59歳の人:腎臓片方につき2つの嚢胞
  • 60歳以上の人:腎臓片方につき4つの嚢胞(1)
常染色体優性多発性嚢胞腎の症状

PKD1遺伝子およびPKD2遺伝子は、大半の常染色体優性多発性嚢胞腎の原因として知られている2つの主な遺伝子ですが、これらの遺伝子は多少異なった症状を引き起こします(2)。PKD1およびPKD2の患者に共通の症状には次のようなものがあります。

  • 高血圧:これはしばしば最初に起こる症状です(1)。多発性嚢胞腎管理の中心は上手な血圧コントロールです(1,2,3)。
  • 腎臓の肥大:嚢胞が大きくなるにつれしばしば腎臓のサイズは正常な腎臓の2倍以上にまで肥大します(1)。
  • 肥大した腎臓、嚢胞の炎症や感染による脇腹痛と腰痛とが起こります(1)。
  • 他の臓器内の嚢胞:嚢胞はさらに肝臓および膵臓、卵巣や他の臓器にも見られる可能性があります(1)。
  • 末期腎不全:常染色体優性多発性嚢胞腎の人々のおよそ50%が末期腎不全に罹患し、さらにPKD1では54.3歳という若さで末期腎不全になる可能性があります(1)。

常染色体優性多発性嚢胞腎の人々の症状の重さは、同家族内および異なる家族間で、かなり大きなばらつきがあります(1,2)。ですから、食事、ストレス、環境有害物質、喫煙やアルコールといった、この病気の進行の一端を担うかも知れない要因が存在することは、一般に認められています(1,2,3)。常染色体優性多発性嚢胞腎を治すと言われる治療法は存在しません(1,2,3)。しかし、変えられる要因が病気の進行に影響しているかも知れないという可能性が、栄養やストレス管理といったナチュラルな治療法やライフスタイルの変化により常染色体優性多発性嚢胞腎の進行が遅くなるかも知れないという期待を与えています。


パートII:常染色体優性多発性嚢胞腎における栄養カウンセリング

Nutritional Counselling in Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease

常染色体優性多発性嚢胞腎患者では、家族内および家族間のばらつきがあることが確認されているため、この慢性変性病態の進行に対して栄養がどのように影響するかという、相当な興味が存在しました(1,2,3)。このパートでは、常染色体優性多発性嚢胞腎患者に特有な栄養面の改善を支持する幾つかの研究を紹介します。

低タンパク質食事法

多発性嚢胞腎は、低タンパク質食の効き目が最も高い腎疾患の1つであると考えられています(3)。“腎疾患における食事の修正(MDRD: Modification of Diet in Renal Disease)“研究では、研究者たちは、中程度の腎不全を伴う優性多発性嚢胞腎患者に対して低タンパク質食は効果がないものの、その一方では更に重症の腎疾患を伴う優性多発性嚢胞腎患者に対して効果があるかも知れないと、結論を下しました(3)。この研究の重要な制限事項は、関わった患者たちの病気は既にかなり進行した段階にあったということです。ですから、低タンパク質食をもっと早い段階で始めていたとしたら、病気の進行を遅くするのに更に効果があったことでしょう(4)。別の研究では、リンや窒素のような代謝老廃物の生産を減少させることを通して、低タンパク食が慢性腎疾患の合併症を改善させる可能性があることが示唆されました。リン酸や窒素のような老廃物は、腎臓の濾過機能が衰えると蓄積されます(6)。

大豆タンパク質

実験室での調査では、大豆タンパク質を基本とした食事は、動物モデルにおける多発性嚢胞腎の進行を遅くする効果があることが示されました(7)。特に、大豆タンパク質を餌とする多嚢胞腎のラットでは、カゼイン(乳タンパク質)を餌とするラットと比較して、嚢胞のサイズがより小さく病気の進行がより緩慢です(7,8)。大豆タンパク質による多価不飽和脂肪酸ステータスの改善が、その効果の潜在的なメカニズムであることが示されました(9)。

水療法

水療法では、尿浸透圧と呼ばれる尿濃度の尺度を減少できる程度に多量の水を、一日を通して均等に摂取しなければなりません(10)。この論理的根拠は、この水の量がアルギニン・バソプレシン(AVP: arginine vasopressin)と呼ばれるある重要なホルモンを抑制するであろうというものですが、このアルギニン・バソプレシンは動物実験で、嚢胞の成長、腎臓の肥大および多発性嚢胞腎の悪化を増進することが示されました(10,11)。その一方で、アルギニン・バソプレシンを抑制すると、嚢胞の肥大が縮小します(10)。免許を持つヘルスケア提供者のみが、水療法が常染色体優性多発性嚢胞腎患者自身に勧められるかを個々の場合に応じて判断すべきです(10)。水療法は、進行した多発性嚢胞腎の患者には勧められません(10)。

塩分とカフェイン摂取の制限

慢性腎疾患(CKD: chronic kidney disease)の患者では、塩分摂取を控えることにより、血圧と尿タンパク質とが減少します(12)。それとは対照的に、塩分の高摂取は腎線維症の原因となり腎機能を低下させます(13)。常染色体優性多発性嚢胞腎を含む慢性腎疾患患者にとって塩分摂取の制限は効果的である可能性があります(12,13)。

カフェインについてのエビデンスは矛盾しています。動物実験では、常染色体優性多発性嚢胞腎に対するカフェインのマイナス効果が示され (16) 、人間を対象としたある調査では同様のマイナス効果は示されませんでした(16)。しかしながら、カフェインは血圧を上昇させる(14,15,16)ため、常染色体優性多発性嚢胞腎患者がカフェイン摂取を制限するのは、特に既に高血圧であるならば、効果的かも知れません。 全ての腎疾患患者にとっての栄養上のニーズは、各人の腎機能に応じて非常に異なるということを覚えておくのは重要です。ですから、どんな小さな栄養上の変化でも、訓練を受けたヘルスケア専門家に相談し、監視してもらうことが大切です。

パートIII:常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)におけるハーブや栄養の補給

Herbal and Nutritional Supplements in Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease

世界的に最もよくある命に関わる遺伝性病態の1つ、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD: autosomal dominant polycystic kidney disease)に対して、現在のところ知られた処置や治療法は何もありません(1)。高血圧症のような共通の症状は現在、薬剤によって管理されていますが、それと同時に、症状の管理を助け病気の進行を遅くする可能性のある安全で効果の高いナチュラルな治療法に対する要望も存在します。この記事では、紹介する大半の研究が動物で行われているものの、免許を受けたヘルスケア提供者の監視下での個々の場合に応じたナチュラルな治療法は考慮に値するという理解のもと、可能な治療法を紹介します。

クルクミン

多発性嚢胞腎(PKD)のマウスを使ったある動物実験では、クルクミンがマウスに対して副作用を及ぼすことなく嚢胞の成長および病気の進行を遅くすることを示しました(2)。いくつかのメカニズムが提案されていますが、多発性嚢胞腎(PKD)において嚢胞の成長が多因性であることが知られているのを考慮すると、これらのメカニズムには有効な可能性があります (2)。提案された他の多発性嚢胞腎に対するクルクミンの効果には、ストレスに誘発される嚢胞成長の抗酸化保護といったものがあります(2)。

亜麻仁

多発性嚢胞腎の実験モデルでは、亜麻仁油を餌とするラットはトウモロコシ油を餌とするラットと比較して、嚢胞、腎臓の炎症性の変化、クレアチニン(腎臓の濾過機能のマーカーの1つ)の血中濃度、そして全体的な腎損傷がより少ないことが分かりました (3,4)。マウスでも同様の発見がありましたが、そこでは腎炎の減少により腎損傷の進行が緩慢になったことが示されました(5)。


多発性嚢胞腎のラットの研究では、高脂肪食を低脂肪食および魚油、大豆油や綿実油といった摂取脂肪のタイプも比較しました(6)。この研究では、高脂肪食は腎線維症を引き起こし、嚢胞を大きくし、クレアチニンのクリアランス(腎臓の濾過作用の尺度)を低下させることから、ラットに有害であることが示されました(6)。魚油を餌とするラットでは腎臓の重量、嚢胞の容量が減少し、コレステロール値が改善しました(6)。更に、魚油を餌とするラットは、たとえ高脂肪食の餌を摂取していても、腎炎が少なかったのです(6)。

エイコサペンタエン酸(EPA: eicosapentaenoic acid, 魚油由来)の効果についてのある小規模な研究では、多発性嚢胞腎患者の腎臓の大きさやその機能に改善は示されませんでした(7)。しかし研究者たちは、これは患者たちの病気が末期段階にあったためかも知れないと提言しました(7)。魚油の効能は病気の進行に対するものだけに限られません。魚油は心血管疾患の危険因子(この危険因子は慢性腎不全で上昇します)を改善し、気分を良くする(この病気の診断はストレスに関連があるとすると効果があるかも知れません)のを助けることも分かりました。

一般に、慢性腎不全(CKD)は、心血管危険因子を管理下に置けば改善します(8)。慢性腎疾患患者の心血管疾患のリスクを減少させることが知られている対象には、血圧コントロールやコレステロールの正常化といったものがあります(8,9)。魚油により、これらパラメターの両方が改善する(10,11,12)だけでなく、致命的かそうでないかに関わらず冠状血管にまつわる事故のリスクを減少させる(13,14)ことも示されました。

気分については、魚油は抗うつ剤フルオキセチンの投薬と同様の効果があり、魚油とフルオキセチンとが一緒に投与される際、それらの効能は単一のみを用いるよりも良好であることが示されました(16)。うつ病が、漫然腎疾患患者の間で最も良くある心理的病態である(17)ことを考慮すると、魚油は常染色体優性多発性嚢胞腎患者の全体的な健康を改善する主要なサプリメントの代表であるかも知れません。



パートIV:常染色体優性多発性嚢胞腎における精神-感情の健康

Mental-Emotional Health in Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease

いくつもの研究は、慢性腎疾患の患者で最も良く見られる心理的な病態は、1番がうつ病、2番が不安であると示しています(1)。ある研究では、常染色体優性多発性嚢胞腎の患者の間で不安とうつ病の罹患が増加し、診断後の最初12ヶ月の間に不安感や突然のパニックが共通に見られることが報告されました(1)。これは重要です。それというのも、他の研究では、慢性腎不全の初期に不安やうつがあることは、患者が更に進行した段階に達した際のより高い死亡率を予測することを示したからです(1,4)。これは、うつと不安とが治療プランを遵守する度合いを下げ、かつ独立した身体的および心理的なうつ症状を引き起こすといった事実によるのかも知れません(1,4,5)。精神-感情の健康は、常染色体優性多発性嚢胞腎を管理するにあたり優先事項であることは明白です。

常染色体優性多発性嚢胞腎への心理的影響に関する初期の研究では、遺伝性疾患を他の家族の一員に受け継がせてしまった“罪悪感”が心理面で最も大きかったことが述べられました(5)。これは別の調査で繰り返し記述されましたが、これらの調査では、常染色体優性多発性嚢胞腎の鍵となるもう一つの面として、患者たちが他の人々に病気のことを話さなかったとことが述べられました(5)。遺伝性腎疾患の人々に対応するための方法についてのある調査では、次に書かれた感情が一般的であると報告されました。
  • ある患者にとっては医学的継続管理を拒否させるような、最初の診断時のショック
  • この病気を患う近親者がいる場合は特に、病気の進行を軸として展開する恐れ(6)
  • この病気を受け継いだ或いは受け継いでいない子供たちの健康に対する不安(6)
  • 特に結果待ちの間の、遺伝子検査にまつわる心労(6)

末期の腎疾患の患者を対象としたいくつかの予備的研究では、次の戦略が慢性腎疾患初期の患者のメンタルヘルスを改善するのに有望であることが示されました。

  • 視覚的(手引きのある)画像:コンプライアンス(訳者注:患者が医療従事者の忠告に従う度合い)および患者満足度について、血液透析患者は“良好”と報告しました(7)。
  • マインドフルネスを基礎としたストレス軽減(MBSR: mindfulness-based stress reduction):健康教育単独と比較すると、8週間のMBSRテクニックの訓練で、臓器移植を行った患者の不安、抑うつそして睡眠不足が著しく減少し、生活の質が改善しました(8)。
  • 鍼: 6週間にわたり毎週治療を行うと、透析患者の生活の質、エネルギー、疲労、感情的身体的なウェルビーイング、腎疾患の影響や負担が改善しました(9)。
  • 指圧と経皮電気ツボ刺激:どちらの治療も受けなかった透析患者と比較して、これらはそれぞれ同程度に気分、睡眠そして疲労を改善しました(10)。
  • ツボマッサージ:末期腎不全患者では、ツボマッサージにより生活の質と睡眠とが著しく改善しました(11)。
  • 運動:12を超える国の20,000人以上の透析患者のデータの分析により、定期的な運動(週に1回以上)が、生活の質、睡眠の質そして抑うつ的症状を改善することが示されました(12)。

ヘルスケアの専門家が日常業務として、常染色体優性多発性嚢胞腎患者の不安や抑うつを評価し、必要に応じてメンタルヘルス専門家を紹介することが推奨されます(5)。これらの心理的要因を十分に管理することにより、患者の生活の質だけでなく、病気の転帰も改善することでしょう(5)。常染色体優性多発性嚢胞腎の患者は、この病状に伴う主要な精神-感情上の健康についての懸念事項の管理を助けるために、上記の療法を考慮すると良いかも知れません。