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N-アセチルシステイン ほとんど知られていないメンタルヘルスにおける役割

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N-アセチルシステイン

ほとんど知られていないメンタルヘルスにおける役割
By: Philip Rouchotas MSc, ND

Bolton Naturopathic Clinic
64 King St W, Bolton, ON L7E1C7
www.boltonnaturopathic.ca
info@boltonnaturopathic.ca



N-Acetylcysteine Little-Known Role in Mental Health


はじめに

昨年一年間ほどにわたり、自然療法の潮流では、ビタミンD、コリン、GABAといったメンタルヘルスに関する重要ないくつかの新薬を取り上げました。この記事では、もう一つの新進の薬剤であるN-アセチルシステイン(NAC)について検討します。N-アセチルシステインが、うつ病、躁鬱病、依存症、統合失調症といった様々な精神医学的状態に対して強力な効果を持つことを示唆する、多くの新規エビデンスが存在します。

N-アセチルシステインは、肝臓の健康および解毒経路におけるその役割で最もよく知られている魅惑的な栄養素です。N-アセチルシステインはシステイン供与体(硫黄含有アミノ酸)としてまたグルタチオン合成の前駆体として機能します。グルタチオン(GSH)は、肝細胞(肝臓細胞)のような細胞内に存在する強力な抗酸化酵素で、重金属、毒素および代謝副産物の代謝に不可欠です[1,2,3]。その肝防御作用から、N-アセチルシステインはアセトアミノフェン(ティレノール)中毒の解毒剤として一般に認められています[4]。アセトアミノフェンを分解するためには、大量のグルタチオンが必要です。万一過剰摂取した場合には、グルタチオンは枯渇し、アセトアミノフェンの有毒代謝産物が蓄積し、肝細胞に永久的な損傷を与えます[4]。N-アセチルシステインはグルタチオン合成を増加させることから、ティレノール過剰摂取の治療にはN-アセチルシステインを高用量投与します。グルタチオンは他の多くの薬剤、環境有害物質およびに細胞代謝副産物の解毒にも不可欠です[5]

脳内では、グルタチオンのレベルが高くなると酸化性ストレスの軽減を助ける可能性があります。トロント大学の研究者Ana Andreazzaは、酸化性ストレスが精神病に果たす役割についての研究を発表しました[6]。うつ病、躁鬱病および統合失調症の患者たちの脳内で高レベルの酸化性ストレスが確認されましたが[7,8,9]、これは特定のミトコンドリア・プロテインや輸送体に対する損傷と関連付けられ、これらの細胞によるエネルギー代謝障害を引き起こす可能性があることが確認されました[10,11]。免疫組織化学およびフェルスター共鳴エネルギー転移(FRET: Forster resonance energy transfer)と呼ばれる画像処理を用いたある死後研究で研究者たちは、躁鬱病および統合失調症の患者たちの前頭葉前皮のドーパミンの多い部位で、タンパク質酸化およびタンパク質ニトロ化のレベル上昇を、発見しました[7]。もう一つの研究では、躁鬱病および統合失調症の患者たちの脳内で、脂質過酸化反応の主産物である4-ヒドロキシノネナール(4 HNE: 4 hydroxynonenal)レベルの上昇が確認されました[8]。最後に、もう一つの研究では、大うつ、躁鬱病そして統合失調症といった精神病患者では、脳内のグルタチオンのレベルが低いことが分かりましたが、これは患者たちが酸化性ストレスへの影響をより受けやすいということかも知れません [9]。N-アセチルシステイン補給は、脳内グルタチオンレベルを上昇させることが示されましたが[2]、これは酸化性損傷からニューロンを保護する可能性があります。

脳内でのN-アセチルシステインの二番目の役割は、グルタミン酸のシグナル伝達の調整です。グルタミン酸は脳内の主要な興奮性神経伝達物質です[12]。グルタミン酸は、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA: N methyl-D aspartate)受容体との相互作用を介して、脳内での神経可塑性および学習の仲介に重要な役割を果たします。しかし、グルタミン酸が高レベルで存在する際には、細胞を過剰に刺激し神経毒性をひきおこす可能性があり、興奮毒性と呼ばれるプロセスにより神経細胞死やグリア細胞死でさえ引き起こすかも知れません[12]。数々の精神安定剤は興奮性毒を減少させるか、あるいはリチウムやバルプロエートのようにグルタミン酸系をターゲットとしており、今では過剰のグルタミン酸は、躁鬱病や統合失調症といった精神医学的状態に何らかの役割を果たすと考えられています。例えば、陽子磁気共鳴分光画像処理を用いた研究のメタ・アナリシスでは、健康な被験者たちと比較して躁鬱病患者たちには、脳内の全ての部位でグルタミン酸およびグルタミンのレベルが有意に高いことが分かり、これは投薬の有無とは無関係でした[12]

N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA: N methyl-D aspartate)受容体に対する異常な刺激、とりわけNMDA機能低下は、統合失調症のモデルとして提案されてきました[13]。NMDA受容体シグナル伝達の減少は、グルタミン酸放出抑制の減少と関連しており、ですからNMDA受容体シグナル伝達の減少はニューロンによるグルタミン酸の過剰放出を引き起こします[13]。興味深いことに、NMDA受容体は特に酸化に対して敏感です。特にグルタチオンやリポ酸のような抗酸化物質(還元剤)がNMDAの活性を増加させる一方で、酸化促進剤が活性を減少させます。それに加えて、シナプス前性の代謝型グルタミン酸受容体(mGluR2/3)はグルタミン酸の放出を減らし、それにより興奮毒性を抑えます[13]。N-アセチルシステイン補給は、代謝型グルタミン酸受容体の活性を刺激し、興奮毒性を軽減させることが示されました[13]。このように、N-アセチルシステインは、精神医学的状態に関連する根本的な代謝の問題を、抗酸化物質グルタチオンの生成およびグルタミン酸シグナル伝達の調整という二つのメカニズムにより改善します。次に、これらの病態におけるN-アセチルシステインについての臨床研究のいくつかを見てゆきましょう。

Fish-Derived Omega-3s 双極性うつ病

いくつかの研究では、双極性うつ病に対するN-アセチルシステイン補給の効果を調べました。Magalhãesらによるある研究では、毎日2gのN-アセチルシステインを24週間投与するその有効性について調査しました[14]。大うつエピソードのある双極性うつ病患者合計17人が無作為にN-アセチルシステインあるいはプラセボに振り分けられました。この研究によると、抑うつ状態には “非常に大きなエフェクトサイズがN-アセチルシステインに好意的”であり、プラセボの7人中たった1人と比較して、N-アセチルシステインの処置を受けた患者では10人中8人に治療反応が認められたことが報告されました。この研究では一つのサブグループの分析が行われ、抑うつ状態が優性である特徴の変種である双極性II型障害の患者14人の評価が行われました[15]。これらの患者たちの中で、プラセボの投与を受けた7人中たった2人が寛解したのに比較すると、N-アセチルシステインの投与を受けた7人のうち6人が抑うつ症状および躁症状との両方で完全な寛解を達成しました。ここから結論を導くにはこの研究は規模が小さすぎますが、有望で将来の調査のための強力な基礎を提供しています。

Berkらによるある研究では、躁鬱の維持療法としてのN-アセチルシステインの評価のための無作為対照試験で、N-アセチルシステイン2gあるいはプラセボの投与を受けた中程度のうつ病の人々149人を調査しました[16]。ベースラインでの双極性鬱病評価尺度(BDRS: Bipolar Depression Rating Scale)の予想平均値は19.7でしたが、8週間後の非盲険フェーズでスコアは11.1に低下しました。機能性および生活の質で改善が認められました。

Berkらは、躁鬱病患者75人を調査した無作為対照試験も発表しました[17]。N-アセチルシステイン2gあるいはプラセボを24週間、通常の投薬の補助として与えました。24週間の治療の後、N-アセチルシステイン投与を受けたグループでは、モンゴメリー・アスペルグうつ評価尺度(MADRS: Montgomery Asberg Depression Rating Scale)、全体機能および社会的・職業的機能で有意な改善が示されました。次に患者たちはN-アセチルシステイン投与のない4週間の洗浄期間を過ごしました。この後、改善が失われたことが観察され、N-アセチルシステイン治療の因果的役割が確認されました。一般に、確認された改善は“中から高”といった採点でした[17]

従来の治療法へN-アセチルシステインを追加することについての安全性と付加的効果を示唆する臨床研究に加えて、N-アセチルシステインが従来の抗うつ剤と相互作用するメカニズムに関する予備的動物実験が存在します[18]。ある研究では、N-アセチルシステインをマウスの抗うつ剤治療に追加した際の影響を調査しました[18]。この研究では、“無効量のN-アセチルシステインにより、イミプラミンおよびエスシタロプラムシュウ酸塩の最小有効量が減少したものの、デジプラミンおよびブプロピオンの最小有効量はその限りではなかった”ことが分かりました[18]。同量の無効量のN-アセチルシステインによりフルオキセチンの最小有効量は増加しましたが、この結果はこの分野でさらに研究が必要であることを示しているのかも知れません。

うつ病に加えて、双極性躁病や軽躁病におけるN-アセチルシステインの精神安定効果についての研究が行われました[19]。合計15人の患者が、無作為対照試験に参加し、N-アセチルシステイン2gあるいはプラセボの投与を、躁鬱あるいは軽躁の間の24週、通常の投薬に加えて受けましたが、通常の投薬はリチウム、精神安定剤、非定型抗精神病薬、抗うつ剤そしてベンゾジアゼピンといったものでした。結果によると、試験期間にわたりN-アセチルシステイン群で、ヤング躁病評価尺度(TMRS: Young Mania Rating Scale)で評価した躁症状について有意な改善が示された一方で、同じ期間中プラセボ群では、躁病に有意な変化はなく抑うつ症状の悪化(抑うつスイッチ)が見られました。24週の治療期間の終わりには、プラセボの患者たちではたった15%で寛解したのと比較して、N-アセチルシステインの治療を受けた患者たちでは60%で寛解が見られました。この研究は規模が限られているため、これらの効果を確認するためにさらに調査が必要です。

統合失調症 統合失調症

いくつかの研究では、N-アセチルシステインは、グルタチオン前駆体とグルタミン酸モジュレーターとの両方として働き、統合失調症に効果があるかも知れないことが示されています。ある原理証明研究でCarmeliらは、統合失調症患者たちにN-アセチルシステインを補給すると、脳内の電気的活動の尺度である脳電図(EEG: electroencephalogram)共時性を調整することが可能であったことを発見しました[20]。もう一つの研究では、脳内の聴覚処理に対するN-アセチルシステイン3gの効果を調査しました[21]。この研究でN-アセチルシステインは、脳機能に対してケタミンが及ぼす影響を抑制しない一方で、聴覚ミスマッチ陰性電位(MMN: auditory mismatch negativity)の振幅を減少、P3振幅を増大させることが分かり、認知増強効果がある可能性が示されました。

ある無作為二重盲険プラセボ対照試験では、抗精神病薬維持投薬中の統合失調症患者84人のデータを分析しました[22]。この研究では、毎日N-アセチルシステイン2gを補給することにより、統合失調症に関連する陰性症状、病気の重さについての臨床全般印象そして静座不能に改善がもたらされることが分かりました。統合失調症の陰性症状には、平坦な情動(顔の表現や一本調子の声)、毎日の生活での喜びの欠如、予定したアクティビティを開始したり続けたりする能力の欠如、そして会話や人との触れ合いの欠如といったものがあります。静座不能というのは内面に落ち着きのない感覚があり常に動きたい衝動がある状態を言います。これは抗精神病薬投薬の結果として起こる可能性があります。この研究では、統合失調症の陽性症状に対しては影響がないことが分かりました。陽性症状には、幻覚、妄想、運動障害(興奮)や思考障害(支離滅裂な思考)といったものがあります。効果のエフェクトサイズは一貫して“中程度”でした[22]

もう一つの無作為二重盲険プラセボ対照試験では、N-アセチルシステインがミスマッチ陰性電位に及ぼす効果を調査しましたが、このミスマッチ陰性電位というのは聴感覚処理のマイナス分に関する指標で、統合失調症患者に現れます[23]。プラセボと比較してN-アセチルシステインによる治療では、聴覚ミスマッチ陰性電位の生成を有意に改善することが示され、認知処理に改善があることが示されました。

最後に、最近の2013年の研究では、統合失調症治療においてN-アセチルシステインはリスペリドンに対する安全で効果的な追加治療薬となることが分かりました[24]。慢性統合失調症患者42人で、N-アセチルシステイン2gを補給すると、プラセボと比較して有意に陰性症状スコアを低下させることができました。プラセボと比較して、有害イベントの発生率に差異はなく、N-アセチルシステインはリスペリドンの安全なアドオン治療であることが示されました。

依存症 依存症

私たちが検討する最後の分野は依存症です。N-アセチルシステインの使用は、マリファナやコカインといった物質使用障害に加えてギャンブルの治療においても有望であることが示されました。ある無作為試験では、大麻依存の若者たちを対象として、週一回のカウンセリング(両群)に加えて一日2回のN-アセチルシステイン1200mgによる治療を行ったところ、プラセボに対してマリファナ停止の成功がより多かったことが分かりました[25]。もう一つの研究では、コカイン依存による3日の入院期間中にN-アセチルシステインを使用したところ、プラセボと比較して、コカイン使用に対する欲望が減少し、コカインのスライドが示された際により少ない興味が示されることが分かりました[26]。最後に、病的賭博者27人を対象としたもう一つの研究では、N-アセチルシステインによる治療の後、病的賭博用修正イェール・ブラウン強迫観念スケール(PG-YBOCS: Yale Brown Obsessive Compulsive Scale)での評価を行うと、ほとんど50%の減少が見られることが分かりました。プラセボで治療を受けた被験者たちの28%と比較して、N-アセチルシステインで治療を受けた参加者たちのほとんど83%が、14週の後に治療反応を見せました[27]

結論として、これらのデータは広範な精神医学的状態の治療においてN-アセチルシステインが有望であることを示しています。N-アセチルシステインはグルタチオン状態を改善しかつグルタミン酸神経伝達を調整することにより作用します。N-アセチルシステインは安全で躁鬱病および統合失調症の治療に使われる薬物の効果性を増強します。N-アセチルシステインは、さらに規模の大きい臨床研究を行う価値があるでしょう。