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全身凍結療法

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全身凍結療法 - 新しい治療法
フィリップ・ルチョタス理学修士、自然療法医師

ボルトン自然療法クリニック
64 King St W, Bolton, ON, L7E 1C7

info@boltonnaturopathic.ca



Whole Body Cryotherapy - A Novel Treatment




はじめに

全身凍結療法(WBC: whole-body cryotherapy)はマイナス100℃の空気に短時間に曝される健康促進療法です(1)。全身凍結療法にかかる時間はおおよそ2-5分で、治療頻度は使用目的に応じて様々です。患者は、キャビン横の液体窒素タンクから吸入された乾燥冷ミストを発する小部屋に入ります。これが、劇的な、しかし短期間の体温の低下を引き起こします。寒さは真皮内に非常に短い距離だけ浸透しますが、非常に冷たく耐えられないように見えるのに反して、この処置は一般に不快ではありません。これはこの寒さが、寒い冬の日に私たちが通常経験するような(ある程度の湿気がある)寒さとは反対に、非常に乾燥しているからです。この治療法は、回数を重ねる毎により耐えやすく快適になります。冷気に曝されている間、人は最低限の着物をまとって体のより敏感な部位を覆います。

凍結療法は伝統的にはアイスパックをあてたり冷水に浸したりすることでした。全身凍結療法はより利用しやすくなり、多くの運動選手が定期的に利用しています。全身凍結療法は、免疫システムに激しい刺激を講じることで筋肉、腱、そして関節の治癒を加速すると同時に、エンドルフィン放出による痛みの緩和を促すことで働くとされています。結果として、持久力および体力の改善、睡眠パターンの改善、そしてストレスや不安のレベルの低下を助けるとして、全身凍結療法は宣伝されています。同様に、体の細胞を若返らせることで肌の調子を改善するアンチエイジング療法としても宣伝されています。これら幾つかの宣伝の背後にあるエビデンスを調査したあるレビューによると、全身凍結療法は多くの健康上のパラメターを修正することが分かりました。この健康上のパラメターには、炎症性サイトカインの減少、抗酸化状態の適応変化、そして筋肉損傷に関連する筋肉酵素(クレアチンキナーゼおよび乳酸脱水祖酵素)へのプラスの影響といったものがあります(2)。しかし、この結果は、筋肉損傷について調査した数々の他の研究では見られませんでした。このレビューでは、全身凍結療法への曝露は安全で心臓や免疫の機能への有害な影響は及ぼさないという結論を下しました。そうであろうと言われている全身凍結療法の作用機構は、組織温度の直接の低下、炎症性バイオマーカーの減少、酸化性ストレスの低下、そしてノルエピネフリン濃度の上昇といったものがあります。この記事では、現存の全身凍結療法の臨床エビデンスからの幾つかについて概観しましょう。


温度低下 温度低下

全身凍結療法は、組織温度を低下させる(そして、そうすることでより高い健康促進効果を得る)のにより効果的であるとされています。アイスパック、冷水に浸すこと、そして全身凍結療法との違いについての分析では、皮膚温度の低下が最も大きかったのはアイスパックでした(1)。皮下組織温度の低下は、使われた冷却媒体に関わらず一貫して小さく、中核温度も同様でした。しかし、皮膚温度については、もし多少長い時間行えば、あるいは設定温度が低ければ、全身凍結療法の方がより低温に到達するでしょう。治療では一般的に、患者さんが更に耐えられるかに応じて度合いを徐々に上げてゆきます。全体として、科学文献に見られる全身凍結療法での温度低下の度合いはより穏やかであり、ですから疼痛緩和には効果がないかも知れません。生物組織の熱的特性のために皮膚表面下を冷やすのは困難です(1)。皮下組織には断熱効果があります。温度低下の度合いは体の部位に応じて様々で、骨張った部分では低下がより大きいことに注意することも大切です。個々の患者さんの身体組成も、全身凍結療法が最も効果的な手段であるかどうかを決める際に重要な要素です。


炎症 炎症

ある最近の研究では、著者らは受動的回復および全身凍結療法のそれぞれの効果を比較調査しました。この調査では、持久訓練を受けた男性が一ヶ月の間隔を置いて、二つの無作為交差試験を完了しました。この研究で全身凍結療法を用いた際に、毎日一回を運動後に96時間行いました。著者らは、多くの時点でインターロイキン-1、インターロイキン-6、インターロイキン-10、TNF-α、C-反応性タンパク質を測定しました。それによると、運動に続くある特定の複数時点で、インターロイキン-1およびC-反応性タンパク質は、受動的回復と比較して著しい減少のあることが分かりましたが、TNF-α、インターロイキン-10、そしてインターロイキン-6には変化がありませんでした。全体的に、全身凍結療法は炎症性プロセスを減少させるのに効果的であるという結論が下されました(3)。作用機構は、筋肉レベルでの血管収縮および炎症性サイトカイン活性の低下によって説明することが可能であると信じられています。

別のもう一つの研究では、トーナメントシーズン後のプロのテニス選手について調査が行われました(4)。この研究では、全身凍結療法を一日2回、5日間施したところ、TNF-αおよびインターロイキン-6が減少しコルチゾールが増加することが分かりました。全体として、これは全身凍結療法がトレーニングよりも回復プロセスにより効果的であることを意味します。著者らによれば、全身凍結療法は安静時代謝率に影響を及ぼさないことも分かりました。全身凍結療法は筋肉の損傷を減少させると言われていますが、現存のエビデンスによると、運動後の筋肉損傷マーカーには何の影響もないことが示唆されています(1)。数々の研究で、全身凍結療法はクレアチンキナーゼ、乳酸脱水祖酵素やアスパラギン酸アミノ酸転移酵素に何の影響も及ぼさないことが分かりましたが、これらは全て筋肉損傷のマーカーです。

機能的回復という観点から、ある研究では、激しいトレイルランニングの直後、24時間後そして48時間後に全身凍結療法を行うと、対照群に比較して体力、痛み、そして疲労の改善があることが分かりました(5)。この研究では、他の手段(遠赤外線および受動的回復)もテストしましたが、全身凍結療法が最も効果的である(施術後1時間で回復が起きた)ことが分かりました。癒着性関節包炎のための治療としての全身凍結療法の効果を吟味したある研究では、治療介入に全身凍結療法を追加することによって著しい改善があることが分かりました(6)。この研究では、全身凍結療法、理学療法および関節モビライゼーションを併せた治療と関節モビライゼーション単独治療とを比較しました。病院内の患者30人がこの2つのグループのうちの1つに割り振られ治療を行いました。その結果、視覚的アナログ尺度、能動的可動域、そして肩の評価において、全身凍結療法群の患者たちに最も大きい改善があることが示されました。


酸化性ストレスおよび副交感神経活性 酸化性ストレスおよび副交感神経活性

全身凍結療法は体内の酸化性ストレスの減少を助け、ひいてはアンチエイジング療法として利用できる可能性があるとされています。全身凍結療法が酸化性ストレスに及ぼす効果について吟味したある研究では、週一回3分の治療を気温-130℃で行いました(7)。総抗酸化状態、SOD値、非酵素性抗酸化尿酸(UA: uric acid)、そして脂質過酸化反応について測定しました。合計10セッションの全身凍結療法を終えた後、総抗酸化状態および尿酸値が全身凍結療法以外と比較して著しく増加していることに著者らは気付きました。これにより著者らは、全身凍結療法は体の抗酸化能力を改善するという結論を下しました。

一回の全身凍結療法に続く副交感神経の活性化および血中カテコールアミンの反応について調査したある研究では、全身凍結療法は大きな自律神経システムの刺激を生じさせることが分かりました(8)。この研究では、低温刺激の前および終了後20分間の熱的、生理学的そして主観的な変数を記録しました。全身凍結療法によって血圧が上昇し、心拍が低下し、そして血漿ノルエピネフリンに相当な増加がもたらされることが分かりました。著者らは、全身凍結療法は自律神経システムを効果的に刺激し、副交感神経性緊張の活性化を優性にするという結論を下しました。

ある研究では、ラグビーのエリート選手を対象として全身凍結療法に対する唾液中のステロイドホルモンの反応について調査しました(9)。イタリアのナショナルチームに所属するプロフェッショナルのラグビー選手25人が、一日2セッションで構成される7日間の低温療法プロトコルを行いました。朝の全身凍結療法前と夜の二回目の全身凍結療法後とで唾液サンプルが採取されました。これらのサンプルは多数のホルモンについて分析されました。その結果、コルチゾールおよびDHEAが初日の二回目のセッション後に減少していることが示されました。14セッションの後、コルチゾール、DHEA、そしてエストラジオールが低下すると同時に、テストステロンに加えてテストステロン対コルチゾール比も上昇しました。著者らは、全身凍結療法によって唾液のステロイドホルモンのプロファイルが二回の施術後という早さで修正されると結論を下しました。


結論

今日までに存在するエビデンスに基づくと、文献には、全身凍結療法は極めて安全で、副作用がないと記述されています。全身凍結療法がある程度の体温低下を引き起こすのは確実ですが、その程度は体の部位、施術時間や設定温度に応じて様々です。エビデンスによると、全身凍結療法には多数の炎症性メディエーターを減少させる可能性のあることが示唆されますが、一方でそれが筋肉損傷のマーカーを低下させるか否かというエビデンスは矛盾しています。機能的観点から、全身凍結療法は運動後の体力、痛み、そして疲労に役立つようです。私たちが述べた複数の研究では、抗酸化状態に加えてホルモンレベルの改善も示されました。全体的にエビデンスは未だ極めて予備的で、極端な結論を下すことができません。更に詳細な評価を得るためには自然療法医の診察を受けてください。