腸内細菌叢とその宿主への影響 Sarah Zadek ND https://www.sarahzadeknd.com 1 August 2020 言語 日本語 結腸には、約1,500gの細菌が存在することを知って驚かれますか? [1]この微生物叢は、独自の器官で、免疫系や神経系を備えた生態系として機能し、腸管の内腔から吸収された物質に影響を与えます。 腸は、信号、神経、化合物、その他の分子で身体の内外部をつなぐ、いわば架け橋です。胃腸管(GIT)は、身体の端から端へと延びる管で、摂取された物質と吸収された物質とのバリアの役割を果たし、栄養素を吸収して病原体から身体を守ります。しかし、同時に、何兆もの細菌が存在します。こうした細菌は、胃腸管の内膜に沿って活動しながら、健康に影響を与えています。 腸の内壁は、体内に入った食物をしっかりと制御し、血流に流れ出ないようにし続けなければなりません。腸内の細胞は、体内に入った食物(細胞が直接触れるもの)や存在する菌株による変化や炎症により影響を受けます。 プロバイオティックの補給により、腸の内壁のバリア機能を強化できるといわれています。[2]このバリアには、感染を減らすだけではなく、食物抗原に対する反応を阻止して、食物過敏症やIgG免疫反応を防ぐ働きがあります。こうした反応により、ガス、膨満、下痢、湿疹などの様々な症状が生じる可能性があります。 しかし、腸内細菌叢の構成を左右するのは、プロバイオティクスだけではありません。栄養価の低い食事により、腸内でコロニーを形成する種の構成が変化します。腸内細菌叢は、残物を腸の上部から消化するのに役立つだけではなく、実際に健康に影響を与える栄養素や神経伝達物質、その他の化合物を生成します。 腸内細菌叢の宿主に対する役割 「腸内細菌叢」は、胃腸管内に数多く存在する細菌や酵母菌の種やコロニーを表します。腸内細菌叢の構成は、食事やストレス、環境要因により影響を受けますが、[3]中でも食事による影響が最も大きく、腸内細菌叢の60%が食事により左右されます。[4] 腸内細菌叢の多様性や密度は、細菌が大腸内にある未消化物を食べていることから、食事により影響を受けます。 [5]こうした未消化物には、セルロース、ペクチン、ガム質などの非デンプン性多糖類や「プレバイオティクス」と呼ばれる難消化性オリゴ糖が含まれます。[6] これにより、結腸で炭水化物が発酵されて短鎖脂肪酸が放出され、より特殊な細菌のためにエネルギーが生成されます。[7]腸内細菌叢によって生成される代謝産物は、宿主の健康に重要な役割を果たします。こうした代謝産物には、主な栄養素(葉酸など)や神経伝達物質(GABAやセロトニンなど)が含まれ、サイトカイン、炎症、免疫系を調節したり、オピオイド変容体やカンナビノイド受容体を誘導して内臓痛を緩和したりします。[8][9] 乳酸菌は、様々な酵素やビタミンを放出する他、腸内のpHに影響を与え、サルモネラや大腸菌などの侵襲性病原体の発生を抑制します。[10] 食事や病原菌、抗生物質によってこうした生態系が損傷を受けると、腸内細菌叢の機能が低下する可能性があります。これにより、腸壁の働きが損なわれて、食物が胃腸管を通過する時間が変化し、宿主の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。[11][12]また、腸内細菌叢の異常によって、不安症や抑うつが生じ、動物実験では、プロバイオティクスの補給が、こうした精神疾患の治療に役立つ可能性があることが示されています。[13] 腸と脳のつながり 腸脳軸は、胃腸管と脳の間のあらゆる情報伝達を含む、腸管神経系と中枢神経系(CNS)のつながりを示します。腸内細菌は、この軸と視床下部-下垂体-副腎軸の機能、つまりストレスホルモンの放出に重要な役割を果たします。[14][15] 神経伝達物質セロトニンは、腸管神経系の主要なシグナル伝達分子で、中枢神経系の伝達物質として働きます。[16]セロトニンの前駆体であるトリプトファンは、種子、大豆、肉、魚に含まれています。 トリプトファンは腸で吸収され、血液脳関門を通過してセロトニンに変換されます。興味深いことに、体内のセロトニンの大半が腸内にあり、腸クロム親和性細胞によって合成されます。こうしたセロトニンの生成により、分泌や蠕動運動、血管拡張、痛み、吐き気にかかわる胃腸管の機能が調節されます。[17] 腸クロム親和性細胞がセロトニンを合成するだけでなく、腸内細菌もトリプトファンからセロトニンを生成し、それを腸脳軸内の伝達物質として用い、宿主に影響を与えます。[18]セロトニンは、微絨毛の発達の調整にも役立ちます。微絨毛は、腸の内壁の表面積を増やし、栄養素の吸収を高めます。[19] 健康な腸内細菌叢の発達と維持 前述したように、食事は腸内細菌叢の健康維持に重要な役割を果たします。なぜなら、こうした細菌は、胃腸管にある化合物や栄養素を食べているためです。特に食物繊維が重要で、不足すると細菌が移動する可能性があります。細菌は、好物の食物源がないとアミノ酸などの他の化合物を食べ、代謝の際に潜在的に有害な物質を放出します。[20]こうした物質により、腸管壁の透過性が変化して、細胞間結合が不完全になり、炎症やリーキーガット症候群が生じる恐れがあります。これによって、食物過敏症や食物アレルギー、炎症性腸疾患、結腸がんが発症する可能性があります。[21] ヨーグルトやケフィアなどの乳酸菌の発酵乳製品は、健康に様々な効果があります。発酵により、ヨーグルトのビタミンB2とビタミンB3の濃度が増加します。[22]ラクトバチルス・ブルガリカス菌が含まれるヨーグルトに関するある研究では、毎日摂取することで、高齢者の風邪の発症率が大幅に減少することが示されています。[23]こうした発酵乳製品は、乳糖不耐症の症状の緩和にも役立ちます。 [24] 現時点において、発酵食品が認知機能の健康を促進して記憶力を高め、神経毒性を防ぐのに役立つ可能性さえあることが研究により示されています。[25]腸内細菌は、ストレスホルモンの分泌と密接なかかわりがあることから、プロバイオティクスを豊富に摂ることで、ストレス解消にプラスの効果をもたらせます。[26] プロバイオティクスとプレバイオティクス プロバイオティクスは、「十分量を摂取したときに宿主に有益な効果を与える生きた微生物」と定義されています。[27]プロバイオティクスは、GABA、グルタミン酸、セロトニンを生成して抗不安作用をもたらし、ストレスホルモンの分泌を減少させます。[28][29]異常なストレス反応は、腸内細菌叢の異常により生じるため、腸内細菌叢のコロニー形成を正常な状態に戻すことで回復できます。[30]プロバイオティクスなどの有益な腸内細菌は、コルチゾールをサポートおよび調節してストレス反応を低下させ、社会不安障害を緩和させるといわれています。[31] 人体実験が進められていて、そのうちの一部では、自閉症、パーキンソン病、慢性疼痛などに対する腸内細菌叢の関与について研究されています。[32]胃腸の不調や不安症、抑うつ、ストレス反応の改善に最も有効なのは、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ブレーべ、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ラクトバチルス・ヘルヴェティックス、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・カゼイ、1日あたり1000万~400億のコロニー形成単位(CFU)です。[33] プレバイオティクスは、微生物叢の細菌により使用・消費および発酵される難消化性の食物繊維で、結腸内の微生物叢の成長や活動にプラスの効果をもたらします。[34]ビフィズス菌は、オリゴ糖を好み、サプリメントやプロバイオティク製品があります。プレバイオティクスは、ネギ、アスパラ、チコリ、キクイモ、ニンニク、タマネギ、オートムギなどの食品にも含まれています。[35] 宿主の健康に役立つ食物繊維には、イヌリン、β-グルカン、キシロオリゴ糖(XOS)などがあります。こうしたプレバイオティクスは、それぞれ独自の炭素源を提供し、異なる細菌種を特定したり選択したりします。つまり、単独で用いた場合でも併用した場合でも、特定の細菌種の集団やコロニーを形成できます。 キシロオリゴ糖は、野菜や果物、牛乳、蜂蜜、タケノコに含まれるプレバイオティクスで、単独で摂取すると、腸内細菌叢内のビフィズス菌が増加し、プラスの効果があるといわれています。最も注目すべき点は、臨床治療において、排便の頻度と便の硬さを改善するために用いられていることです。[36]キシロオリゴ糖は、イヌリンと比べてガスの生成量が少ないため、摂取許容量がより多いです(約12 g / 日)。 キシロオリゴ糖を腸に導入すると、24時間以内にビフィズス菌が大幅に増加することが研究により示されています。また、ビフィズス菌は、イヌリンやβ-グルカンよりもキシロオリゴ糖を好むといわれています。[37] 結論 胃腸管の細菌コロニー形成によって、消化や気分、行動など、健康全般の一部が左右されます。サイトカインを調整し、栄養素や神経伝達物質を生成する腸内細菌叢の働きは、下部−下垂体−副腎軸、免疫系、中枢神経系など、腸と他の組織間のシグナル伝達に重要な役割を果たします。また、腸内細菌叢の存在により、体の外側(摂取する食物など)と内側(血流や体組織内)を隔てる腸細胞のバリア機能が強化され、感染を防げます。 チコリやイヌリンなどのプレバイオティクス食品成分やヨーグルトやケフィアなどの発酵食品により、善玉菌を増加できる可能性があります。しかし、同様に重要なのは、善玉菌の栄養源である食物繊維が豊富な野菜や穀物を多く摂り続けることです。これにより、健康に非常に有益な代謝産物を生成できます。 References : van Kylckama Vlieg, J.E.T., et al. “Impact of microbial transformation of food on health — from fermented foods to fermentation in the gastro-intestinal tract.” Current Opinion in Biotechnology, Vol. 22, No. 2 (2011): 211–219. 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