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プロバイオティクス-腸・脳軸

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プロバイオティクス-腸・脳軸
サラ・キング自然療法医師
Upper Beach Health and Wellness
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サラ・キング自然療法医師


はじめに

私たちの多くは、胃腸管(GIT: gastrointestinal tract)を過小評価しがちです。私たちに関する限り最も基本的な意味において、胃は私たちが食べた物を消化し、その後それをポンと出す非常に効率の良い簡潔なシステムに見えます。しかし、胃腸管内部の世界は実際一つの完全なエコシステムであり、常に一定のレベルで活動しています。このシステム内のバクテリアのコロニーは私たちが送った食物と相互に作用し、生息環境を作り出し、そして腸の内層と共に腸内スペースを占有し、信号を送出し、私たちと情報の伝達をしています!文字通り数兆の生きた微生物があなたの体内に、あなたに提案する力を持ちつつ存在しているのです。あなたは常に甘い物が欲しいと感じていますか?不安あるいは気分が落ち込んでいますか?不安あるいはストレスを感じている時、お腹が痙攣したり急な便意を感じがちですか?これらの経験は全て腸・脳軸によって誘導されています。

腸・脳軸は本質的に腸神経システムと中枢神経システムとの間を繋いでおり、それは胃腸管と脳の間の全ての情報伝達を含みます。腸の微生物叢は、この軸だけでなく炎症のコントロールから腸バリアーの正常な機能や透過性に対する免疫反応といった、他の多くのプロセスにおいて、非常に重要な役割を果たしています[1]。“腸微生物叢”という用語は、胃腸管内の多数のバクテリアやイーストの種そしてコロニーを表すのに用いられます。腸微生物叢の構成は食事、ストレス、そして環境的要素に影響を受け、かつ代謝副産物の生産に影響を与え、宿主の恒常性を維持するのを助けています[2]

私たちの腸内の栄養物がバクテリアの餌になることから、腸微生物叢は私たちの食事に非常に大きく影響を受けます。これは、よりエネルギー生産に特化した他のバクテリアのための炭水化物の発酵および短鎖脂肪酸の放出の原動力となっています[3]

バクテリアの菌種のバランスは私たちの健康に極めて重要です。多くの健康問題には腸内毒素症との因果関係がありますが、腸内の菌種のアンバランスやバクテリアの欠乏が原因で、腸壁の正常性および輸送時間に影響が及ぼされる可能性があります[4]。例えば、小腸の細菌異常増殖(SIBO: small-intestine bacterial overgrowth)というのは、胃腸管に多数の病原バクテリアと比較的少数の共生バクテリアが宿っている状態を表します。小腸細菌異常増殖は腸の輸送を損ない便秘の原因となるだけでなく、輸送時間を加速して下痢を引き起こすことも示されました[4]。この腸内毒素症は、食事、睡眠の質、そして体内のストレスを反映しています[4]

この微生物叢は、腸の透過性および運動に変化をもたらすのに加えて、粘膜の免疫機能、そして神経システムのシグナリング分子であるGABAおよびセロトニンの生産においても、主要な働きをしています[1]。 セロトニンは、腸神経システム、腸機能、そして中枢神経システムとの重複において主要なシグナリング分子の役目を果たします[1]。セロトニンの前駆物質であるトリプトファンは、種子類、大豆、肉、そして魚に含まれています。私たちの食事に含まれるトリプトファンは、腸で吸収され血液脳関門を通過しますが、そこでセロトニンに転換されます[1]。面白いことに、私たちの体内のセロトニンの大部分は実際には腸に存在し、クロム親和性(EC: enterochromaffin)細胞によって合成されています[1]。このように生産されたセロトニンは、分泌、蠕動、血管拡張、そして痛みや吐き気の知覚を介して、胃腸管の機能を調節するのに用いられます[1]

セロトニンを合成するのはクロム親和性細胞だけということはなく、腸微生物叢にもトリプトファンからセロトニンを生産する力があり、腸・脳軸内でセロトニンを信号として用いることによって、宿主の行動に変化を与えています[1]。腸・脳軸を利用することで、セロトニンは脳、そして気分に影響を及ぼすだけでなく、腸内層構造の成長の調節もしています。微絨毛は、腸内叢の表面積を増加させる非常に小さい突起です。この余分な表面積は栄養素の吸収に利用され、そしてその成長はセロトニンの前駆物質である5-HTPによって誘発されます[5]

これらの相互作用は、腸微生物叢がどのようにして腸の健康だけでなく栄養素の吸収に対して影響を及ぼし、どのように腸や中枢神経システム内でのシグナリングに寄与しているのかをはっきりと表しています。


健康な腸微生物叢のイニシエーションと維持

胃腸管での微生物叢によるコロニー形成の始まりは、誕生時の分娩形態によって決まります。自然分娩の赤ん坊には、母親の膣および糞便の微生物叢に由来する乳酸菌種優性の微生物叢が見られます[1]。それと比較して、帝王切開分娩で生まれた赤ん坊には、母親の皮膚の微生物叢に主に影響を受けた微生物叢が見られます。この微生物叢は通常、ブドウ球菌、コリネバクテリア、そしてプロピオン酸菌属といった、クロストリジウム・ディフィシルに非常に感染し易い菌種で構成されています[6]。これらの赤ん坊には、ビフィズス菌種の量が非常に少ないことも示されました。しかし、母乳育児を行うことで大量のビフィズス菌種を供給することが可能です[1]。この微生物叢は、子供が後に離乳して固形食に移行するにつれ、より多様になるでしょう。

Benefits of Probiotics on the Gut-Brain Axis

上述のように、善玉腸バクテリアの維持にあたり食事は主要な役割を果たします。結局のところ、これらのバクテリアは私たちの腸内に存在する化合物および栄養素を餌にしています。食物繊維にはとりわけ重要な働きがあり、食物繊維がなければバクテリアは別の場所に移動してしまいます。もしバクテリアの好む食物源が利用出来なければ、微生物叢はアミノ酸のような他の化合物を餌にしようと試み、その代謝中に有害な可能性のある物質を放出します[3]。これらの物質は炎症や“漏れる腸”、腸の透過性の問題や腸細胞間の密着結合の正常性の喪失に寄与するかも知れません。このプロセスは、食物過敏症やアレルギーに加えて、過敏性腸症候群や結腸ガンの発症に影響する可能性があります[3]


抗生物質と腸の健康

成人の微生物叢は、食事の選択によって非常に大きな影響を受け、抗生物質の利用によって容易く乱れる可能性があります[1]。常ではないものの、医師が患者に抗生物質の投薬治療中や後にプロバイオティクスを服用するよう助言することは、ますます一般的になりつつあります。プロバイオティクスを抗生物質とは別に服用することは、抗生物質によって一掃された腸微生物叢を正すのに役立つでしょう。しかし、健康的な腸バクテリアの再増殖を行うことなく、度重り抗生物質の利用をすることは、腸内を恒久的に変化させてしまうかも知れません[1]

とりわけ、抗生物質の子供への投与は、ビフィズス菌や乳酸菌の菌種のコロニー形成を減少させます。これらのバクテリア菌種は、免疫システムをシフトさせ、免疫性のホメオスタシスであるTh1反応とTh2反応とを変えるのに一役買っています[1]。早期かつ高頻度の抗生物質の利用には、アレルギーおよび過敏性腸疾患(IBD: irritable bowel disease)との関連性があることが認められています[1]

子供や若者の脳の発達は、セロトニン作動性の神経伝達に依存しており、扁桃体、海馬、前頭皮質のような脳構造の働きを必要としています。そしてセロトニンのシグナリングは睡眠、性行動や気分に影響することから、健康的な腸微生物叢への要求は高くなります[1]


腸・脳軸におけるプロバイオティクスの利点 腸・脳軸におけるプロバイオティクスの利点

脳と腸との相互関連性は言い尽くしきれません。腸微生物叢において、善玉バクテリアのコロニーが病原性菌と比較して極めて少なくなる腸毒素症は、不安およびうつ病との因果関係があります[1]。介入にプロバイオティクスを利用することで、心理的苦痛やうつ病に効果が示された研究が存在します[7]

定義によるとプロバイオティクスとは、“宿主に健康上の好ましい効果をもたらすために十分に高容量で投与される生きた微生物”です[8]。プロバイオティクスの胃腸障害への利用は広く研究されてきましたが、プロバイオティクスの神経システムに対する働きについての研究はこの10年で大きく増加しました[8]。人を対象とした幾つかの研究によると、複数菌種のプロバイオティクスにより不安および抑うつに加えて認知の症状を改善することが可能なことが示されました[4][8]

視床下部・下垂体軸(HPA: hypothalamic-pituitary axis)による成人のストレス反応も、腸微生物叢との関連性が認められています。腸内毒素症の成人で異常なストレス反応が観察されましたが、これは適切なコロニー形成および腸微生物叢の修復によって覆すことが可能です[4]。複数菌種のプロバイオティクスは、コルチゾールや副腎皮質刺激ホルモン(ACTH: adrenocorticotropic hormone)を減少させることが示されました。

人を対象とした調査は現在進行中ですが、そのうちの幾つかは、自閉症、パーキンソン病、そして慢性痛のような領域における腸微生物叢の働きについての調査です[4]。胃腸の不調軽減に加えて不安、抑うつ、そしてストレス反応を改善する能力で最も名高い菌種には、ビフィドバクテリウム・ロンガム菌、ビフィドバクテリウム・ブレーベ菌、ビフィドバクテリウム・インファンティス菌、ラクトバチルス・ヘルベティカス菌、ラクトバチルス・ラムノサス菌、ラクトバチルス・プランタルム菌、そしてラクトバチルス・カゼイ菌といったものがあり、その服用量は一日当たり1000万から400億コロニー形成単位(CFU: colony-forming unit)です[8]

胃腸管内のバクテリア菌種によるコロニー形成は、消化、気分、そして行動といった私たちの全体的な健康の複数分野に影響を及ぼします。私たちの腸細胞および腸微生物叢がセロトニン合成を調節する力は、腸と中枢神経システムとの間のシグナリングにおいて主な役割を果たしています。過敏性腸症候群は、消化機能障害として現れますが、これはストレスや不安に非常に大きく影響され、その症状は腸の微生物叢の構成にまで遡ることができます。人を対象とした研究では、プロバイオティクスがメンタルヘルスやストレス反応に果たす役割について調査が続けられており、不安およびストレスに関連のある胃腸障害に対する非常に望ましい介入であることが確認される可能性があります。抗生物質を利用した後の腸にバクテリアを再増殖させることは、子供や若者の脳内構造の発達を含めた全体的な健康に極めて重要です。