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筋萎縮性側策硬化症-穿刺の取り組み

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筋萎縮性側策硬化症-穿刺の取り組み
By: Maria Shapoval, ND

Integrated Healthcare Centre
1255 Sheppard Ave East
Toronto, ON, M2K1E2
mshapoval@ccnm.edu
http://ccnmihc.ca/practitioners/maria-shapoval



Amyotrophic Lateral Sclerosis - A Needling Approach



筋萎縮性側策硬化症(ALS: amyotrophic lateral sclerosis)は、大脳皮質、脳幹、そして脊髄の運動ニューロンを冒す神経変性疾患です。これは年齢55-75歳の患者さんを苦しめ、女性よりも男性で僅かに多い疾患です。初期段階で現れる症状には、片側だけの衰弱、筋肉の強調の問題、そして指先の微細運動が困難になるといったものがあります。この病態は進行するにつれ、筋萎縮、麻痺、引きつり、そして痙攣を発症します。このように、ALSは、上部運動ニューロン疾患(線維束性攣縮および痙性)の要素に加えて、下部運動ニューロン疾患(筋衰弱、麻痺、そして反射の喪失)の要素を有しています。ALSの始まりには、“四肢発病”および“延髄発病”の二種類があります。四肢発病は、その名前が示唆する通り、腕および足から始まります。延髄発病は、脳幹内の皮質延髄ニューロンのことで、発話および嚥下の困難が見られます。この病態が進行するにつれ、患者さんが移動するための介護士への依存が増大し、発病の種類に関わらず窒息の可能性があることから食事が危険となり、胃瘻造設術を受けることになります。呼吸筋の衰弱は、呼吸不全、低酸素症、そして呼吸性アシドーシスに加えて他の合併症を引き起こすため、この疾病の決定的な要素です。患者さんは人工換気が必要となりますが、これは患者さんを感染のリスクに追いやります。リルゾールは、予後改善および呼吸器合併症を遅らせることが明らかにされた唯一の治療です。しかし、これは病気の進行を止めることはありません。ですから、この病態の第一の死因である呼吸機能を改善させるような付加的な治療を求めることが重要です。


鍼の概要

Amyotrophic Lateral Sclerosis - A Needling Approach

研究で調査された鍼には、日本式および韓国式といった幾つかの形式があります。鍼の背景にある理論によると、ALSのような病態は“気”の動きがブロックされたり、不足したりするのが原因です。針の挿入により“気”は、通り道が開放されて流れるようになり、その結果、症状が改善します。“正常化”というのは、エネルギーあるいは“気”を特定の器官に送って、その器官を強くすることです。ですから、鍼のプロトコルは、酸素飽和度や呼吸数といった呼吸パラメターが改善するよう、肺機能を正常化することに重点が置かれるでしょう。鍼は単独、ハーブや注入物質と組み合わせて、そして電気刺激と組み合わせて用いることが可能です[1]。これは、特定周波数の電流を一つの針から別の針へと流して行われます。強度は、痛みとなるほどの刺激は避けつつ最大耐量まで増加します。この電流刺激により、鍼の効果が増大するでしょう。


鍼に関する研究論文の概要

パーキンソン病のような運動障害における鍼の利用について、肯定的な結果を示す相当量の臨床試験が存在しますが、ALSに関する研究は大半が動物実験に限られています。人間を対象とした鍼の治療法について調査した研究が二つ存在しますが、二つともサンプル数に制限があります。以下はこれらの研究の概要です。


人を対象とした電気鍼療法

この研究では、電気鍼療法がALS患者さんの呼吸機能に及ぼす効果について調査しました。ALS患者さん18人が一日2回の治療を5日間受け、各治療の前後で呼吸パラメターを評価しました[2]。治療は、肺を正常化するSP-3、LU-9、HT-8、そしてLU-10の4つのツボから構成されました。周波数100Hzの電流がSP-3およびLU-9に加えられました。呼吸数や二酸化炭素のレベルに有意な変化はありませんでしたが、心拍数に統計的に有意な低下があることに加えて、酸素飽和度の上昇が注目されました。しかし、この上昇は極めて小さいため、臨床的な意義には疑問が残ります。


ツボ注射の症例報告

ALSに苦しむ二人の患者さんのツボに、Enercelと呼ばれるホメオパシー注射を、週5回、4週間行いました[5]。Enercel製品は、Cacus grandiflorus 4×, Aloe socotrina 4×, Abies nigra 4×, Arnica 6×, Lachesis 11×, calcium carbonate 6×, and Pulsatila vulgaris 6×といったホメオパシーのレメディで構成されています。ツボは、GV 20, EX 21, GV 14, LI 11, SJ 5, GB 34, ST 36, ST 4, ST 6, ST 21, ST 25, ST 29, UB 17, LV 14, UB 20, UB 21, LI 4, SI 6, GB 30, ST 37, ST 41, そしてUB 60が使われました。この患者さんたちは、解毒を促す製品の投与も幾つか受けました。患者さんは二人とも、握力の改善、線維束性攣縮の減少、そして会話の改善を示しました。これらの治療法の組み合わせを考えると、この改善に寄するのがこれらの組み合わせなのか、それとも特定の一つの要素なのか、結論を下すのは困難です。


電気鍼療法の動物モデル

ALSの動物モデルには、スーパーオキサイド・ディスムターゼ1酵素(SOD1)に遺伝子異常のある突然変異のマウスを使います。この酵素にはフリーラジカルを除去する働きがあり、ですからミトコンドリアおよび他の細胞成分の健康維持に大きな役割を果たします。この遺伝子の欠損や欠陥は、神経細胞の欠損とALSに類似した症状とを引き起こすことから、動物のALSモデルを作るために良く使われます。更に、運動ニューロン喪失ALSには、腫瘍壊死因子α(TNF-α: tumor necrosis factor alpha)のような炎症マーカーの増加と、そしてミクログリア活性の上昇も関わっています。ミクログリアは、中枢神経システムのマクロファージと考えられるものです。ALSにおけるこれらの働きは、完全に明らかにされてはいませんが、ミクログリアはALSのニューロン欠損部位に多数存在し、この病態で観察されるニューロンの炎症に関係するかも知れません。

この調査では、電気刺激をST-36のツボに与えました[4]。ロータロッド試験を用いて評価したところ、この刺激による運動機能の高まりが確認されました。更に、神経細胞の細胞死が減少し、TNF-αも減少しました。興味深いことに、このツボへの刺激は、免疫システム調節との関連性があることが、他の調査において認められました。


動物モデルにおけるハチ毒のツボ注射

Amyotrophic Lateral Sclerosis - A Needling Approach

ハチ毒は、リウマチ性関節炎のような炎症性の病態の治療に、かなり長い間用いられてきました。ハチ毒は、アピトキシンと呼ばれる化合物から出来ていますが、これは、この治療法で見られる抗炎症作用の原因であると信じられています。この動物実験では、SOD1突然変異のALSモデルのマウスを用いて、ST-36のツボにハチ毒の注射を含む処置を行いました[5]。その結果、対照群と比較して、運動活性の改善だけでなく生存期間が18%延長し、脳幹および脊髄の神経の生存率が増加しました。ミクログリア活性およびTNF-αの減少も観察されました。

興味深いことに、腹腔内へのハチ毒注射も同様に効果的でしたが、これは異なるメカニズムで作用します[6]。別の動物実験では、ハチ毒の腹膜への注射とST-36への注射とを比較しました。腹腔内注射は、運動機能(歩長)および運動ニューロン生存を、ST-36 注射と同様に、改善しました。しかし、ハチ毒のST-36への注射は著しくTNF-αのレベルを減少させたのに対して、腹腔内注射はその限りではありませんでした。このように、ハチ毒には投与ルートに応じた異なる作用をもたらす可能性がありますが、この動物モデルでは両方共が運動機能を改善させる効果を有しています。

ALSに見られる損傷を引き起こすと考えられるもう一つのメカニズムは、プロテアソーム活性の低下かも知れません。プロテアソームは異常な折りたたみ構造あるいは損傷したタンパク質を細胞からの除去する酵素です。プロテアソームが正常に働かないと、α-シヌクレインのような損傷した、あるいは突然変異のタンパク質が集まって塊になり、酸化性ストレスを引き起こしたり、ミトコンドリアの働きを損ねたりして、細胞機能を妨げる可能性があります。これは細胞死に寄与あるいは細胞死の引き金となる可能性があります。メリチンはハチ毒のもう一つの構成要素で、プロテアソーム保護の働きを持つことが明らかになりました[7]。ある動物実験で、メリチンをST-36のツボに注射したところ、運動能力の改善と発病の遅延とが示されました。メリチンによって寿命が改善されることはありませんでしたが、TNF-αが減少し、α-シヌクレインの奇形が妨げられ、そしてプロテアソームの働きが40-50%回復しました。TNF-αの減少は、α-シヌクレインのようなタンパク質奇形の減少が原因かも知れませんが、これは本来炎症であり、ALSで見られるミクログリア活性の増加に寄与するかも知れません。

このようにST-36の刺激は、ハチ毒注射であろうと、あるいは電気刺激であろうと、神経生存を改善し、抗炎症作用をもたらします。これらの結果が人に適用可能かどうかは、今後の課題です。


結論

ALSの治療における鍼の利用に関する研究は、その多くが動物実験に限定されています。人を対象とした調査では鍼の安全性が示される一方、動物実験では鍼の幾つかの手順で見られる運動症状改善の背景となり得るメカニズムを明らかにしています。ツボST-36の刺激により、歩長および神経生存の改善がもたらされます。これは、このツボの免疫調整作用による可能性があります。同様に、ハチ毒注射は、腹膜内あるいはこのツボへのどちらでも、神経生存および運動機能を改善しますが、ツボを用いた治療のみで抗炎症作用が観察されました。このレビューで検討した様々なツボへの電気刺激を同様に行うと有意な臨床改善がもたらされるかどうかは不明であり、更に多くの調査が切に必要とされています。