メインコンテンツに移動

パーキンソン病に関連する睡眠障害-新しい治療法

日本語

パーキンソン病に関連する睡眠障害-新しい治療法
By: Maria Shapoval, ND

Integrated Healthcare Centre
1255 Sheppard Ave East
Toronto, ON, M2K1E2
mshapoval@ccnm.edu
http://ccnmihc.ca/practitioners/maria-shapoval



Cognitive Health - Can Video Games Improve Your Brain?


認識機能障害とは何か?

パーキンソン病(PD)は、最も一般的な神経変性疾患の一つで、年齢65歳を超える人々の1-2%が罹患しています。パーキンソン病は、安静時の震え、歩行、椅子に座る・立ち上がるのが困難、振り向きが困難、筋肉の強張り、表情の変化、筆跡の縮小、その他多数の運動症状を呈します。非運動症状も一般的で、それらには、便秘、嗅覚消失、起立性低血圧症、疲労、抑うつ、不安、そして-特に-睡眠異常が含まれます。不眠症は一般人口、特に高齢者に非常に良く見られますが、パーキンソン病による睡眠の変化には幾つかの独特な特徴があります。


パーキンソン病の睡眠異常

パーキンソン病患者さんは、眠りに付くことや眠り続けることが難しいのに加えて頻繁な目覚めに悩まされますが、この結果、睡眠は途切れ途切れとなり、浅い睡眠から深い睡眠に移ることが出来なくなります。深い眠り(睡眠サイクルの3-4段階)は記憶の固定、正常な免疫機能、代謝調節、そしてホルモン分泌にとって不可欠です。睡眠効率(これは寝床で過ごす時間に対する睡眠時間で定義されます)も減少し、パーキンソン病で良く見られる日中の過度な眠気の原因となっている可能性があります。他の異常には、むずむず脚症候群、患者さんが夜、脚を動かさずにいられない不快な感覚、そしてレム睡眠行動障害といったものがあります。健康的なレム睡眠中には、筋肉は弛緩状態にあり、筋緊張はほとんど完全になくなっている一方で眼球と脳とは非常に活性化しています。眼球は夢を見ている際に素早く動くのと同時に、脳はその日に経験した感情および記憶を処理すると考えられています。パーキンソン病患者さんにとってのこの時間には、身体的リラクゼーション喪失という特徴があり、次のような行動を起こします:話す、打つ、殴る、叫ぶそして寝ながら起き上がって歩きさえするのです。これは夜間、患者さんに害が及ぼされるリスクとなるだけでなく、一般に睡眠中に起きるドーパミン生産の増加を妨げ、この病態の火に油を注ぎます。


Parkinson’s Disease Associated Sleep Disorders - Novel Treatments 睡眠に影響するパーキンソン病の要素

パーキンソン病の主な治療法は、合成ドーパミンのレボドパです。これは睡眠に混合効果を生じさせることが示されました。レボドパは夜間無動症に役立つ面がありますが、この夜間無動症というのは夜に動くことが出来ない、あるいは動く(例えばトイレに行くために起き上がったり、ベットで寝返りを打ったりする)ことが非常に困難な病態で、しかしもう一方ではレム睡眠時間を全体的に減少させ、その開始を遅らせます。レム睡眠は、この時間中に脳への血流が増加することから重要ですが、それに加えてドーパミンのような神経伝達物質の生産・充填も増加します。更に、レム睡眠の減少は日中の眠気の増加と関連がありますが、これが日中生活の活動と夜間の睡眠の質とに悪影響を与えます。

最近の研究では、光の欠乏は、パーキンソン病の病理の一部である睡眠異常の原因の一つであるかも知れないことが示唆されています。光は体にとって睡眠と覚醒とを司るサーカディアン・リズムの調節器です。これは視床下部、特に視交叉上核で生成され、体温、エネルギー代謝、ホルモン分泌、そして他の多くの要素においても重要です。健康な患者さんには、朝のコルチゾールの急上昇と、夜、暗い時の(光への曝露が松果体内でのメラトニン生産を抑制することから)メラトニンの急上昇とが認められます。このリズムの調節異常は、体重増加、気分の変化(不安と抑うつの両方)に加えて、過敏性腸症候群(IBS)のような幾つかの消化障害と関係しています。パーキンソン病の患者さんたちの場合、このリズムが鈍くなったり失われたりするようで、朝のコルチゾールおよび夜のメラトニンの上昇が弱まります。不十分な光への曝露の原因は、眼球の構造的変化により(白内障の発症などで)光受容体へ到達する光の量が減少するため、生活習慣の要素の結果(バランスの問題から転倒を恐れるあまり)、あるいは歩行困難(特に冬は!)が原因で野外で過ごす時間が減少するためと信じられています。十分かつ良いタイミングでの光への曝露がないと、視交叉上核はその通常のリズム生成の引き金を失い、サーカディアン・リズムの異常がもたらされます。


新しい治療法

高照度光療法は、季節性情動障害およびうつ病において非常に良い実績があり、標準的な薬物療法のオプションおよび心理療法に匹敵する結果が得られます。この高照度光療法は、痴呆患者さんたちに見られる認知の衰えをスローダウンし、うつ病の高齢患者さんたちの睡眠を改善し、健康なサーカディアン・リズムのパターンを取り戻すことが、それぞれ2008年、2011年に明らかになりました。

幾つかの研究では、パーキンソン病患者さんを対象として高照度光療法(BLT: bright light therapy)の役割が探求され、好ましい結果が得られました。患者さん12人の一連の症例で、不眠症および抑うつ症状の有意な改善が示されました。光は1,00-1,500ルクスを発光するBLT機器を、就寝前60-90分、2-5週間、使用しました。ルクスは光束発散度の単位ですが、別の言葉で言うと光強度あるいは明るさの度合いのことです。例えば、一般的なオフィスの照明は300から500ルクスである一方、日中および外科手術室は10,000ルクスです。睡眠の改善は一時的なもので、BLTを止めてからたった数日しか続きませんでしたが、抗うつ作用は数週間続きました。しかし、最も衝撃的だった改善はパーキンソン病の運動症状、特に動作緩慢(動作のスローダウンあるいは動きを開始するのが難しい)および強張り(筋緊張の増加)についてです。効果の程度は、患者さんにより極めて様々で、より若い患者さんたちはこのより著しい効果を治療法で享受しました。この改善がとても著しかったため、患者さんたちはドーパミン薬を減らす機会に恵まれ、ある症例では100%もの減少があったことを追記しておきましょう。

Parkinson’s Disease Associated Sleep Disorders - Novel Treatments

小規模(患者18人)の無作為対照試験では、一日30分、二週間、(朝)7,500ルクスの光に対して950ルクスの光への曝露を比較したところ、統一パーキンソン病評価尺度(UPDRS: Unified Parkinson’s Disease Rating Scale)のセクション1に優位な改善があり、より強い光の強度では震えに軽い改善があることが明らかになりました。統一パーキンソン病評価尺度1では、記憶および問題解決スキル、幻覚の有無、そしてうつ病の兆候およびやる気の喪失といった認知機能を評価します。興味深いことに、睡眠には最低限の改善がありましたが、これは短期間の曝露(たった30分)あるいはBLTのタイミング(就寝前ではなくて朝)が原因であると説明できるかも知れません。この調査では動作に変化は見られませんでした。

パーキンソン病におけるBLTのもう一つの観察調査では、4,000-6,000ルクスというより強度の光の一日就寝前60分、数ヶ月間の使用と、数年の使用との比較が報告されています。光療法を数年利用した被験者たちでは、動作緩慢、平衡障害、そして硬直のような動作症状に有意な改善が見られました。数ヶ月後に治療を止めた被験者たちと比較すると、光療法は病気の進行を遅らせ、動作の衰えの悪化を妨げるようです。光療法の付加的効果には、不安および抑うつの変化といったものがあります。


治療の安全性

複数の調査が極めて有望である一方で、高照度光療法の手順の詳細には殆ど合意事項がありません。照射量(光の強度など)、照射時間(30分あるいは60分)、そして一日のうちのタイミング(朝あるいは夕方)に関して疑問が残されています。BLTで知られている副作用には、頭痛、目の緊張、視力の問題、そして吐き気です。主に懸念される薬物間相互作用は、皮膚を光に対して敏感にする薬とのそれで、これらには三環系抗うつ薬、セント・ジョーンズワート、不整脈治療薬、そして四環系抗生物質といったものがあります。全身性エリテマトーデス、ポルフィリン症、光線性皮膚炎、網膜ジストロフィー、黄斑変性症、そして日光蕁麻疹のような、光への曝露で悪化する病態に苦しむ患者さんたちは、皮膚科および眼科の専門医に監視してもらわなければなりません。


結論

パーキンソン病の患者さんたちは、彼らの生活の質の課題を更に困難にするだけでなく、正常な睡眠の修復機能を妨げることから病気の進行にも寄与する睡眠異常に、しばしば悩まされます。これらの変化は、ドーパミンが睡眠サイクル調節および覚醒の一部であることから、この病態の発病過程の一部であると信じられています。症状管理で一般に用いられる薬は、(夜間の動作異常を改善することで睡眠の質を改善するという)両刃の刀として作用する可能性がありますが、同時に、レム睡眠を減少させるかも知れません。それに加えて、生活習慣の要素および視力の変化により日光への曝露が欠如すると、睡眠パターンにおけるこれらの変化の原因となる可能性があります。高照度光療法は気分および睡眠を改善することが示されました。パーキンソン病患者を対象とした幾つかの小規模な調査では、光療法は、動作緩慢、震えそして硬直といった動作症状の進行を遅らせる力があることが明らかとなりました。最も安全性が高く効果的な高照度光療法のためのプロトコルを開発し、パーキンソン病に対するその100%の効果を調査するために、更に研究が必要ですが、初期の調査結果によって、病気の進行をスローダウンしドーパミン充填療法の安全な代替療法となるような治療法の発見に幾ばくかの望みがもたらされています。