メインコンテンツに移動

ガン患者におけるストレスの生物学的インパクト-ストレス管理の戦略

日本語

ガン患者におけるストレスの生物学的インパクト-ストレス管理の戦略

イントロダクション
ジェッサ・ランドマン自然療法医師

自然療法センター(Centre for Natural Medicine )
1025 - 1 Ave NE
Calgary - NE, Alberta
T2E 9C6

jessalandmann.nd@gmail.com



The Biological Impact of Stress on Cancer Patients - Strategies for Stress Management



ガンの診断を受けることは、疑いなく人生を変え、他のどの診断よりもずっと大きな恐れがもたらされるでしょう。患者たちは自分の命の心配をし、それを家族、友人たちや同僚たちに話すのを恐れ、治療がどのようなものだろうかと恐れます。これはとてつもなく大きな心理的衝撃で、ストレスのレベルは劇的に増加します。

心理的ストレスの上昇が病気に悪影響を及ぼ方法については良く知られており、ガンも例外ではありません。ガンの進行にストレスが影響を与える方法は、良く研究されているトピックで、いくつかの興味深い新興の治療の選択肢が存在します。

ガン診断に続くショックは圧倒的であることしょう。患者たちは、病気を理解しようと努め、新しい医学用語を学ぼうと試み、医療システムをナビゲートすることを覚え、その一方で、相変わらず多忙なこの現代で各自の持つ他の用事をこなしています。ストレス管理は優先事項ではないように見えるかも知れませんが、記事の続きを読み進めるにしたがって、標準的なガン医療で非常に重要な一面であることが分かるでしょう。


ストレスがガンに及ぼす生物学的影響 ストレスがガンに及ぼす生物学的影響

人間のストレス反応には二つの主要な経路が介在しています。一つ目は交感神経システム(SNS: sympathetic nervous system)で、カテコールアミンであるエピネフリン(EP: catecholamines epinephrine)およびノルエピネフリン(NE: norepinephrine)をメッセンジャーとして使います。二つ目は視床下部-下垂体-副腎(HPA: hypothalamic-pituitary-adrenal)軸で、これは主に副腎皮質から放出されるホルモンのコルチゾールが携わります。人体におけるほとんど全ての細胞は、ガン細胞も含めて、これらのホルモンの受容体を持っています。心理的ストレスは交感神経システムおよび視床下部-下垂体-副腎軸の両方を活性化し、コルチゾールおよびカテコールアミンの全身的な上昇を引き起こします。試験管実験では、エピネフリンおよびノルエピネフリンに曝された細胞ではDNAの損傷が対照群と比較して有意に増加することが示されました[1]。仮定では、ストレスがDNA損傷を引き起こす活性酸素種(ROS: reactive oxygen species)の生産を増加させるだけでなく、実際にDNA修復メカニズムを損ないます[2]

ガンにおける病因的因子としてのストレスには学術論文による十分な裏付けがありませんが、ガン進行および死亡率における一要因としてのストレスについては、実際に極めて肯定的な研究があります。最近のあるメタ・アナリシスでは、高ストレスと低い生存率および高い死亡率に、正の有意な相関があることが報告されましたが、発症率の上昇とは相関がありませんでした[3]。試験管実験では、胃ガン細胞株をノルエピネフリンに暴露したところ、インターロイキン-6(IL-6: interleukin-6)値の上昇が示されましたが、このインターロイキン-6はガンの進行と関連があります[4]。エピネフリンに曝された直腸ガン細胞では、成長率の加速に関連する遺伝子発現が増加し、シスプラチン誘導性アポートシスに対してより高い耐性がありました[5]。より高いストレス下にある肺ガン患者には、より高い死亡率およびより好ましくない臨床転帰が見られました[6]

腫瘍組織およびその間質は交感神経線維の支配を受けており、例えば心理的ストレスで交感神経線維が刺激されると、カテコールアミンが放出されます。病気の実験モデルでは、ノルエピネフリンおよびエピネフリン値の上昇には、血管形成増加、湿潤および転移、そして細胞外基質(ECM: extracellular matrix)から分離された際のプログラム細胞死であるアノイキスからの保護との関連がありました[7]。マウスモデルでは、ノルエピネフリン上昇により、アポートシスの抑制を引き起こすシグナル情報伝達経路を活性化することが分かりました[8]。交感神経システムによる影響に加えて、糖質コルチコイド、主にコルチゾールが、免疫細胞の増殖、分化およびエフェクター機能に影響を及ぼし、サイトカイン、ケモカインおよび接着分子の多くの遺伝子発現を調節することを示す多数の研究が存在します[9]

主にβアドレナリン作動性受容体を介したアドレナリン作動性のシグナリング情報伝達は、血管内皮増殖因子(VEGF: vascular endothelial growth factor)、IL-6、IL-8およびマトリクス・メタプロティナーゼ-9(MMP-9: matrix metalloproteinase-9)のようないくつかの増殖因子の調節することから、これらの作用の多くのメディエーターであるとされましたが、後者は転移に携わります。βアドレナリン作動性受容体は、ノルエピネフリンおよびエピネフリンの生物学的影響を媒介しますが、数々の研究では合成βアゴニストによってこれらの受容体を刺激すると、ガン細胞の増殖および移動を刺激することが示されました[10]。興味深いことに、慢性気管支炎(COPD: chronic brochnitis)、肺気腫、そして喘息は、特定の種類の肺ガンのリスク因子であるという記録がありますが、これらの病態に対する主な治療法がβアドレナリン作動性受容体を刺激する薬剤であるという観察に対してほとんど注意が向けられていないようです[11]。さらに、数々のレトロスペクティブ研究では、β阻害薬の慢性的利用は、乳ガン、悪性黒色腫の再発率および死亡率の低下および一般的なガンの減少と関連があることが分かりました。この背後にあると考えられているメカニズムは、交感神経システムの働きが抑制されることで、末梢のナチュラルキラー細胞およびマクロファージの濃度が増加するのに加えて抗炎症サイトカインのレベルも上昇するかも知れないというものです[11-14]

ガンにおけるストレスについては、ガン患者のうつ病に関する議論なしには語ることはできませんが、両方は類似した心理的状態です。ストレスと抑うつとの両方は、IL-6、MMP-9、エピネフリンそしてノルエピネフリンのレベル上昇および免疫システムの下方制御と関連があります[15]。うつ病は、ガンの人たちに最も頻繁に認められる心理的症状で、重いうつ病は、入院延長、生活の質不良および短い生存期間との関連性があります。社会的に隔離された卵巣がん患者についてのある研究では、社会的な支援を多く受けている卵巣がん患者と比較して、腫瘍内のノルエピネフリン値がより高いことが示されました[16]。ある研究では、深刻なストレスおよび社会的支援の少なさが合わさると、9倍高い乳がん罹患率と関連するという報告がされました[17]。うつ病は過小診断される可能性があり、疲労、不眠や食欲不振のようなガン症状の多くがうつ病の症状と類似していることから、ガン患者人口ではきちんと治療されていない可能性があります[15]。ですから、この病態のスクリーニングもガンの日常治療の一部であるべきです。


ストレス管理の戦略 カモミール カモミール

カモミール抽出物を用いたハーブのレメディは古代に遡りますが、これは主にカモミールの沈静効果が目的でした。カモミールは非常に有効なハーブで、高い安全プロファイルもあります。カモミール抽出物を、しばしば抑うつ障害を併発した不安の人に用いる効果に関する最近のある研究では、統計的に有意な症状の減少を示す結果となりました[18]。この研究では実際、ストレスそれ自体についてだけではなく、DSM-IVで診断される全般性不安障害(GAD: generalized anxiety disorder)について調査が行われましたが、全般性不安障害に要する多くの診断基準は、ほぼ間違いなく慢性的にストレスを受ける人が呈する症状です。ストレス減少のためにカモミールを考慮すべきもう一つの理由は、ノルエピネフリンを調節し、HPA活性増加により誘発されるストレスを減少させるその作用です[19]。カモミールは抗炎症および抗酸化物質としても働きます[20]

鍼

鍼は広く使われている補完医療の手法で、不安、抑うつやストレスのレベルが上昇したと報告している人たちでは、通常の治療への不満から、この療法を利用する傾向にあるようです[21]。ある研究では、初期医療の場で心理的ストレスを示した患者102人に対して、鍼を毎週、8週間施し、従来療法と比較しました。鍼治療を受けた患者たちは、対照群よりも苦痛が少ないと報告し、この結果は追跡6か月後も維持されました[22]。同様の結果が、ガン患者の間で報告されましたが、それによると鍼は苦痛を和らげ生活の質を改善するのを助けたということです[23]

鍼のストレスを減少させる性質に加えて、鍼が免疫システムに及ぼす作用に関する多数の魅力的な研究が存在します。最近のある研究では、鍼を5つのツボに行った後、白血球亜類型の数が統計的に有意に増加し、ガン関連の疲労が減少することが報告されました[24]。他の多くの研究がこの研究を再現しましたが、一週間の鍼治療の後に白血球およびナチュラルキラー細胞の増加を示しています[25]アシュワガンダ アシュワガンダ

アシュワガンダ(WS: Withania somnifera)は、不安障害、ガンおよび神経変性疾患におけるその役割に関して多くの注目を集めているアーユルヴェーダのハーブです。アシュワガンダは、抗酸化および抗炎症物質として分類されます。最近のあるシステマティック・リビューでは、人を対象としてアシュワガンダ抽出物を用いた治療の前後における不安およびストレス症状を調査した5つの試験について報告されました。ベック不安インベントリーおよび知覚ストレス尺度のようないくつかの尺度の評点に改善が見られ、ある試験ではこの改善が44%にも及びました[26]

アシュワガンダは、抗ガン性のある化合物も含んでおり、このメカニズムに関する議論はこの記事の目的には大き過ぎるテーマであると同時に、それはアポートシスに寄与し、細胞周期を妨げ、ガン細胞の生存や死に携わる遺伝子を調整するということに言及する価値があります。 運動 運動

ストレス減少、不安および抑うつに関する気分を改善するための運動の効能については、数千、でなければ数百の研究記事が出版されています。それはストレス減少の効果に加えて、抗ガンという効能もあります。最近のある回帰研究では、ガンを克服した人たち2863人にインタビューを行ったところ、筋肉トレーニングを行った人たちでは全死因死亡リスクが33%低いことが分かりました[27]。何百もの研究によって、運動はガン患者の生活の質を改善するだけでなく、ガン関連症状を軽減するという事実が裏付けられています。考えられるこれに関連した生物的なメカニズムは、体重減少、血中ホルモン値低下と抗腫瘍免疫の増加といったものです。


結論

ストレス反応は、ガンと同様に、極めて複雑です。ストレス反応を阻害し、ストレス関連ホルモンを低下させることが、ガンを予防する、あるいは自然に治癒させるということを確信を持って述べることはできません。しかし、ガンを慢性疾患とみなすべきであるという考え方は増えています。心血管疾患のような他の疾患では、ストレス軽減法は定期的に指示されますが、ここで検討したエビデンスを仮定すると、ストレス管理がガン統合治療の日常的な一環であるべきではないという理由はありません。