メインコンテンツに移動

共感する人に対する共感-医療者たちのための自己共感による共感疲労対策

Louise Wilson
BSc, ND

17 August 2016
日本語

共感する人に対する共感-医療者たちのための自己共感による共感疲労対策

by Louise Wilson, B.Sc, ND

dr.louisewilsonnd@gmail.com


 共感する人に対する共感-医療者たちのための自己共感による共感疲労対策






医療における共感の重要性

“共感(compassion)”という言葉の起源はラテン語の”pati”および”cum”ですが、これら二つで”共に苦しむ”ことを意味します[16,17]。共感は、同情、感情移入、そして気遣いと同義語であるのに更にもう一歩進んで、痛み、苦しみや不幸な状態にある他人に対する感情だけでなく、この苦しみを和らげるための行動に対する私たちの欲求も含まれています。医療と共感ということになると、二つは同じ行為を異なる言葉で述べたものと言えるでしょう。医療者として働く人にとって、共感性のある治療の重要性は驚くことではありません。治療の必要な人をケアするという行為にこそ必然的に共感性が伴われます。この重要な共感性というものを利用したり表現したりする医療関係者が、仕事場で最も力を発揮するのです[27]。共感性のある治療はそれを受ける患者さんの健康転帰を改善することから、質の高い医療のベンチマークであり、患者の権利や最良の診療指針において強調されるのに充分正当な理由があります[8,26,27]。研究によって、初期医療において患者中心かつ共感に基づく診療は、不快症状や心配からのより良い回復および感情面での健康促進と関連することが示されました[26]。どの患者さんやその家族に尋ねてみても、患者中心で、対応が早く、コミュニケーションが密で共感性の高い治療というのは、支援の必要な患者さんを強くしたり楽にしたりするのに役立つ質の高い医療の指標であると、一貫して認められています[18,26]。


Source 医療専門家と共感疲労

医療における共感の重要性は、医療サービスを求める人たちにとっては疑いなく必須のものですが、その治療を提供している側の人たちの共感性についてはどうでしょうか?診療所、病院、メンタルヘルス施設、EMS、社会福祉事業、そして他の医療サービスの分野で働いている、自然療法医を含めた全ての医療従事者たちにとって、常に共感性のある治療を提供しなければならないというのは、折に触れて消耗させられるものです。衝撃的な出来事に接する機会の増加や日常化、ターゲット中心の医療ケアに加えてその日常化は、共感の表現を減少させ、医療ケアのためのこの重要なツールの効果を衰えさせてしまう可能性があります[26]。

共感疲労(CF: compassion fatigue)は、衝撃的あるいは慎重を要する出来事に対処する医療従事者のような人たちに見られる症候群のことで、このような専門家の精神的かつ身体的健康、安全、そしてウェルビーイングだけでなく、その家族や患者さんたちの健康やウェルビーイングにも悪影響を及ぼす可能性があります[9,25]。こういった職業上の危険を考慮しても、医療従事者が共感疲労を発症するリスクはより高く、より共感的な医療ケア従事者は、より共感疲労にかかり易いことが示唆されました[9,25,28]。幾つかの研究では、共感疲労の罹患率は特定の医療分野で働く人たちの間では40%という高さであることが示され [31]、同様の発見は、児童保護士や警察関係者、そしてカウンセラーのような他人を助ける職業で確認されました[1,6,14]。精神科医や社会福祉士として雇用されている人たちでは、共感疲労のレベルが最も高く、これらの分野で働く年数が一年増加する毎にこのパラメターに著しい増加があることが示されました[28]。

共感疲労に関連する症状は数多く、しばしば侵入思考、睡眠の問題、極度の疲労、怒り、興奮、アルコールやドラッグ濫用といった悪い対処行動、同情や共感する能力の低下、仕事の喜びや満足感の消失、それに加えて常習的欠勤の増加といったものがあります[9,25]。しかし、恐らく最大の懸念は、この症候群が医療提供の効果の低下と関連があることから、共感疲労にある医療従事者によって治療にあたられる人たちの健康転帰に及ぶ影響です[27]。研究によると、共感疲労およびストレスは、医療提供者の決断力や患者に対するケアを損なうのに加えて、注意および集中力を低下させることが示されました[9,15,27]。共感疲労の一要素である燃え尽きも、患者満足度の低下、次善の患者ケア、そしてより長い回復時間との関連があります[24,27,30]。ですから、共感疲労の蔓延と戦うことは、問題の医療従事者だけでなくその影響を受けやすい患者さんのためにも最も重要なことです。


Source 共感疲労の治療としての自己共感

医療専門家たちの共感疲労に取り組むことは不可欠です。この症候群に対処する幾つかの異なる方法―職場主導、戦略の確認、研修・教育、社会的支援、そして自己認識―が有りますが、一つの重要視されている治療は薬を飲むのと同じくらい簡単なことかも知れません[29]。自己共感(SC: self-compassion)-その特徴には優しさ、共通の人間性、そしてマインドフルネスの三つの属性が含まれますが-は、医療専門家をこの症候群発症から守ることの出来る効果の高い心掛けです[4]。共感疲労の影響に関する研究の最前線にあるクリステン・ネフ医学博士は、この内向きの自己治療を“他人に共感するのと実に何の違いもなく、自分が苦しみ、失敗し、十分でないと感じる際に、自分の痛みを無視したり、自分自身を自己批判で鞭打ったりするよりもむしろ、自分自身に対して暖かさや思いやりを課するもの”と言い表しています。自己共感する人は、完璧でないこと、失敗、そして人生の苦境を経験するのは避けられないと認識しているため、人生で定めた理想に到達出来ない自分に対して怒るより、むしろ苦い経験に直面しても自分自身に寛大である傾向があります[23]。

自己共感の保護効果に関する研究を詳細に見てみると、この重要な行動の及ぼす影響が分かります。自己共感について詳細に調査したある研究では、助産師学校に通う学生を対象として彼らの職業生活の質、自己共感、精神的ウェルビーイングに加えて他人に対する共感についてもアンケートを実施したところ、より自己評価が否定的なこれらの学生たちは自分自身および他人の両方に対して共感性がより少なく、ウェルビーイングがより低いだけでなく燃え尽きや共感疲労がより高いという報告のあることが分かりました[3]。その代わりに、自己共感およびウェルビーイングの尺度が高い学生たちは共感疲労や燃え尽きがより少ないことが報告されました[3]。この研究は、自分に対する共感や優しさは共感疲労に対する保護となることが暗示されることを示しています。

ネフによると、共感疲労に対する自己共感の力の背後にある根拠は、自己共感が抑うつや不安に対する回復力を築くだけでなく、人生に対する満足、楽観性、社会的繋がり、そして幸福をも高めるという事実に基づいていますが、恐らくこれらは、誰もが各々の生活にもう少し取り入れても良いものかも知れません[20]。更にこの快復力は、悪い出来事に対する医療従事者の反応を調整します[20]。テイトらにより行われた調査(2007)では、自己共感の高い個人には極端な反応がより少なく、否定的な感情がより低く、受容的な考えがより多く、自分自身の責任を認めつつも問題を大局的に見る傾向がより高いことが分かりました[13]。更に、自己共感する人々は、否定的な考えや感情を反すうしたり押さえたりする傾向が低いのです[21]。それに加えて自己共感は、幸福感、楽観性、分別、主体性、そして感情的知性のような心理学的な強さと直接関係しています[2,11,12]。別の言葉で言うと、自己共感は、この要求の多い分野でそれぞれの医療従事者がその役割を効果的に果たす体制を支えるための足場なのかも知れません。自分自身に対する心からの優しさを超えて、自己共感をより実用的に応用すると、(とりわけ親愛要素を加えた)マインドフルネス介入は、医療従事者の自己共感を高める可能性があることが研究により示唆されています[27]。ネフおよび彼女の同僚たちは、彼らの研究に基づき、“マインドフル自己共感“として知られる効果的な自己共感の教育プログラムを開発しましたが、このプログラムでは数々の異なる瞑想法(親愛、愛情のこもった呼吸)および日々の生活で用いる私的な行為(例えば、撫でて慰める、自己共感の手紙を書く)を強調しています[2]。これらの介入を利用して自己共感を発達させることの需要性を高めることで、医療従事者たちのストレスを軽減し、臨床ケアの効果を高めることが期待されます[27]。


結論 Source

“私たちは医療においては勇敢でありかつ強くあれと教えられますが、同時に感情を表現するだけでなく、泣くことすらもできる時間や場所もあるべきです。医師、看護師そして他の医療ケアチームのメンバーは、患者さんにとって安定した支援の源であるべきです。でも、一日が終わり患者さんとの接触が終わると、医師や看護師、そして社会福祉士や医療事務員は、彼らがその日に見て経験した全てを消化できなければなりません。”病人の中でも最も重い病人のために働く人たちを支える“必要がありますが、その支えはただ自分自身で始めなければならないだけなのかも知れません[7]。