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ADHD: その起源と症状の新たな光

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注意欠陥多動性障害(ADHD)は、不注意、衝動性、多動性を特徴とする神経精神障害です。1,2 一般に覚醒剤療法(様々な形態のメチルフェニデートまたはアンフェタミン)で治療されます。3 覚醒剤は脳内のドーパミン活動を増加させるため、ADHD症状に役立つ可能性があるといわれています。4 刺激薬が十分に許容されない場合、アトモキセチン、グアンファシン、クロニジンなどの非刺激薬が推奨されることがよくあります。 5

ADHD

何十年にもわたって研究されていますが、ADHDの症状、病因、進行については未だに議論されています。例えば、一般に成人のADHDの症状は、子どもとは異なる傾向があります。調査によると、成人のADHDの症状の多くは、社会的認知領域の障害に関連している可能性があり、6 成人の不注意は、混乱、物忘れ、作業に対する集中力の不足として現れることがあります。多動性および衝動性の症状は、異なる行動を通じて現れることがあり、衝動的な発言や意思決定の困難、時々考えずに行動することは、成人の多動性および衝動性行動の一例といえるかもしれません。この論文では、ADHDに対するこうした漠然とした理解を明確にすることを目指しています。より具体的にいえば、考えられる病因とADHDの成人期への進行、併存疾患についてと、ADHD 患者の治療における重要なパラメーターについて解説します。

母親の甲状腺機能と子どものADHDの発症

ADHD

0歳から17歳までの329,157人の子どもを追跡した最近の縦断研究では、妊娠中の母親の甲状腺機能低下症が子どものADHDと関連していることが示されています。7 さらに詳しく知るために、子どもの医療記録、妊娠中の母親の年齢、人種、世帯収入が交絡因子として考慮され、診断の不一致を防ぐために、同じ基準を使用して子どものADHDも評価されました。母親が妊娠前または妊娠の最初の3ヶ月の間に甲状腺機能低下症と診断された場合、その子どもはADHD になる可能性が24%高まりました。母親の甲状腺機能低下症と子どものADHDの発症率との関連は、分娩時の在胎週数、子どもの性別、人種または民族によって異なります。例えば、甲状腺機能低下症の母親から生まれた男の子のADHDの発症率 (IRD = 1.84およびaHR = 1.26; 95% CI: 1.14–1.40) は、女の子の4倍でした (IRD = 0.48およびaHR = 1.19; 95% CI : 1.01—1.40)。8

成人期へのADHDの退行 ADHD

残念ながら、ADHDと診断された子どもの多くは、かつて考えられていたほど広く症状が緩和することはなく、成人期に様々な形で現れ続け、断続的な寛解期間を伴いながら生涯続く傾向があります。ADHDのマルチモーダル治療研究では、ADHDの子ども (n = 558) を対象に、ベースラインから2~16年後のフォローアップを行い 8つの項目が評価されました。参加者は、完全に寛解した、部分的に寛解した、永続的なADHDの症状に分類されました。寛解と持続の縦断的パターンは、両親、教師、ADHDの症状、治療の利用、機能障害、薬物使用、その他の精神障害の自己報告に基づき認識されました。その結果、発達障害を完全に克服した子どもはわずか10%で(従来はADHDの子どもの50%が完治すると一般にいわれていました)、90%が成人初期も症状が残存し続けていました。9 しかし、成人になるまで発症しない人もいます。参加者2,200人以上を対象とした環境リスク (e-risk) 縦断双生児研究では、5、7、10、12歳の小児期のADHDの症状について、母親と教師の報告をもとに評価されました。その後、参加者は18歳でインタビューを受け、ADHDの症状、関連する障害、その他の精神障害の有無が評価されました。その結果、ADHDの成人の多くが、小児期にADHDを患っていなかったことがわかりました。10

成人のADHDとその併発疾患

ADHDを患う成人は、ADHDが発症した時期にかかわりなく、神経疾患、呼吸器疾患、筋骨格疾患、代謝疾患などの様々な疾患のリスクが高まります。ADHDを患う400万人以上の患者とADHD患者の35種類の健康疾患のリスクを調べた縦断的研究(およびADHD患者の兄弟とADHDを患っていない人の兄弟を比較)の結果は、ほぼあらゆる研究において統計的にADHDを持つ人では健康疾患のリスクが大幅に増加しました。 ADHDは、神経系疾患や筋骨格、呼吸器、代謝疾患と強く関連しています。アルコール関連の肝疾患、睡眠障害、慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、てんかん、脂肪肝疾患、肥満も、ADHD と最も強く関連していた他、ADHD患者はパーキンソン病、心血管疾患、認知症のリスクがわずかに高いこともわかりました。12

ADHDは睡眠障害?

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ある研究で、ADHDが定期的な概日機能の欠如と関連している可能性があるという新しい理論が示されました。13,14,15最近のデータは、概日遺伝子の一塩基多型がADHDの症状、見当識障害、睡眠障害と関連していることを示しています。ADHDを患う人は、夕方に注意力が増す傾向があります。そのため、朝日を浴びて、概日生理を朝に向けて再調整し、睡眠障害を軽減すると、ADHDの症状改善に効果的であるといわれています。16 また、研究によって、太陽光強度が高い地域ではADHDの有病率が低いことも実証されていて、日中の日射強度が高いとADHDの予防効果がある可能性があることが示されています。 自己申告によるオンライン調査のデータ(n = 494)では、ADHDの成人の約70%が羞明を感じていることが示されています。この光に対する目の過敏性により、ADHDを患う多くの人々が日中長時間サングラスをかけているため、概日リズムがさらに乱れます。また、羞明によって目のドーパミンとメラトニンの生成システムが変化し、17「概日シフト」に関連する問題がさらに悪化する可能性があります。18

母親の甲状腺機能と子どものADHD発達との関係は、睡眠と概日リズムによって変化する?

妊娠初期の母親の甲状腺機能と子どものADHDの発症との関連の変化を調べるには、さらなる研究が必要です。前述したように、ADHDは概日機能障害と関連している可能性があります。19,20,21 甲状腺疾患と睡眠障害との関連を調べた文献レビューでは、甲状腺疾患が不眠症などの睡眠障害と臨床的に重複していることが示されています。22 また、予備調査では、概日時計と甲状腺機能の間に相互関係がある可能性も示されています。23 今後の研究では、妊娠初期の母親の甲状腺機能と子どものADHDの発症とのメディエーターとしての働きを持つ可能性のある、概日リズムの変化の役割を調査することが重要になるかもしれません。

成人のADHDとその併発症との関連は、睡眠と概日リズムによっても変化する? ADHD

18歳以上の成人を対象とした睡眠のタイミング、睡眠の一貫性/規則性、健康状態との関連性を調べたシステマティックレビューの結果では、一般に、睡眠のタイミングが遅く、睡眠時間にばらつきが大きいほど、健康に悪影響があることが示されています。このレビューには、2018年12月に過去10年間に出版された記事に関する4つの電子データベースの結果が含まれ、14ヶ国の92,340人の参加者を対象とした合計41の記事がレビューに含まれました。24 この論文では、ADHDと概日リズムの乱れの関連の可能性、健康転帰に対する睡眠調節の効果を考慮すると、ADHD患者に見られる併存疾患の健康への悪影響は、睡眠や概日リズムの乱れが原因となる可能性もあると推測され、これは今後の研究課題となるかもしれません。

結論

結論として、概日機能の乱れとADHDには関連性があるようです。ADHD患者に見られるように、慢性的な夜更かしと睡眠負債が、肥満、糖尿病、心血管疾患、癌と関連していることはよく知られています。この一連の健康への悪影響は、成人のADHDの併存疾患の一部を説明している可能性があります。また、研究結果では、甲状腺障害が睡眠障害と独特の関係があることも示されています。甲状腺機能低下症の母親とADHDの子どもの概日リズムの変化による改善の可能性について研究することは、さらなる調査に役立つ可能性があります。自然療法では、ADHD患者を治療する際に穏やかなアプローチを用いながら概日リズムをリセットし、患者の睡眠をサポートこともあります。