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アトピー性皮膚炎-かゆみの問題

Crystal Ceh
HBSc, ND

2 July 2014
日本語

アトピー性皮膚炎-かゆみの問題
by: クリスタル・セー名誉理学士・自然療法士

トロント、オンタリオ州
www.Crystalcehnd.com



アトピー性皮膚炎とは何か?


アトピー性皮膚炎とは何か?

皮膚炎としても知られるアトピー性皮膚炎は慢性で再発性の炎症性皮膚疾患ですが、この疾患はしばしば幼年期に始まり成人期まで続きます[1-3]。世界アレルギー協会によると、“アトピー性”という用語は、アレルギー反応を発症し、(通常はタンパク質の)アレルゲンへの曝露に反応して免疫グロブリンE抗体を生産するような、遺伝性素因を意味します[1-2,4]。皮膚炎は、食物アレルギー、季節性アレルギーや喘息のような数々のアトピー性病態と関連がありますが、これらのアレルギーは共通の病因を持つことが示唆されており、これらの病態の家族歴を持つ人々でより起こりやすいのです[1,3]。しかし、全ての湿疹性皮疹が、ツタの毒による発疹あるいは化学物質・刺激物との接触による発疹(両者とも接触性皮膚炎)のようなアトピー性のものではありません。この記事の主旨として、アトピー性皮膚炎および皮膚炎を置き換え可能なものとして扱います。

発疹は体の全ての部位に起こる可能性がありますが、湿疹は一般的に新生児の頬と四肢の外側とにでき、その一方で発疹は子供および大人で通常は、首、肘および膝の折れ目のような体の屈曲部表面にできます[3]。湿疹の兆候および症状には、乾燥肌、赤み、発疹、落屑(訳者注:らくせつ、皮膚の表層が大小の角質片となってはげ落ちること)、腫れ、毛細血管性出血、ひどいかゆみ、そして慢性的掻破(そうは、掻くこと)が原因の皮膚肥厚といったものがあります。湿疹は治りにくいひっかき傷となり、それが原因で出血、睡眠不足、集中力低下、精神的苦痛や自尊心の問題が生まれます[1-3]。他の要注意症状には、目に関する全ての発疹、掻破による二次細菌感染や、希な病態である剥脱性皮膚炎(大量の落屑を伴う発疹の広がり)といったものがあり、これら全ては直ちに専門医に紹介されるべきです。診断は一般に臨床評価および病歴から付けられ、この病態の重症度はSCORAD(scoring of atopic dermatitis、アトピー性皮膚炎の採点)あるいはSASSAD(six area, six sign atopic dermatitis、アトピー性皮膚炎の6の領域、6つの兆候)の指標を用いて評価されます[3]。湿疹は通常、乾燥した気候、熱い風呂やシャワー、ウールのような粗い生地によって悪化しますが、研究によるとストレスや睡眠不足が肌のバリアー機能を低下させ、湿疹発症率を高めることすら示唆されています[1,5]。

湿疹は、世界的に広まっている非常に良くある病態で、子供の30%および成人の3%を冒しており、症例数は特に先進国で増加中です[4]。湿疹治療に関連する経済的負荷は、てんかん、気腫そして他の慢性疾患関連治療に匹敵します[1]。多数の在来治療法があるものの、これらの治療法は一般に湿疹のみに取り組むものです。ですから、湿疹の予防および効果的な消散は、この病態の負荷を減少させるための最優先事項です。このシリーズの次のパートでは、この一般的な病態の潜在的原因について掘り下げて行きましょう。


湿疹の原因は何か? 湿疹の原因は何か? 消毒すべきか消毒しないべきか?衛生状態仮説

工業化社会では抗菌状態を保つことが病気や感染の蔓延を防ぐのを助けた一方で、疫学データにより湿疹のようなアトピー性疾患の症例数の増加があったことが示されました。90年代初頭に”衛生状態仮説”という用語を作り出した研究者のストラチャンは、世帯内数が小さいこと、それ故に病原体への曝露がより少ないことは、アレルギー性疾患の高い発生率と相関があることを観察しました[6-7]。良好な公衆衛生の基盤が存在せず、寄生虫感染が幅をきかせている発展途上国では、アレルギー性疾患の罹患は低いままです[8]。移民を対象とした研究でも、アレルギーの事例数の低い国から高い国へ移民した人たちでは、アレルギー発生率の高い次世代が生まれることが示されました[8]

この仮説は、Th1やTh2のような後天免疫細胞間でアンバランスがあることを提唱しています。幼児期早期におけるバクテリア・ウィルス負荷の欠如は、通常はTh1に大きく偏った反応をより優性にし、免疫システムはTh2に圧倒的に偏った反応に差し向けられ、これはTh1細胞を下方制御し、遂には人をアトピー性の病態へと差し向けます[6-8]。幼児期の感染は本質的に、免疫システムが一つの種類の免疫反応が他方よりも優性にする基礎です。しかしこの仮説は、携わる全ての免疫機構、あるいはそれと同時に増加する、クローン病や多発性硬化症のようなTh1性自己免疫疾患について完全に説明していません。

腸内寄生虫:微生物仮説

私たち自身の細胞数を圧倒的に上回るヒトの腸内バクテリアは、成長中の乳児にとって、最も顕著な微生物への曝露の代表です[9]。正常な条件下で、これらの善玉菌あるいは共生細菌はヒトの胃腸システム内で、未消化食物繊維の分解、必須ビタミンの放出や腸細胞成長・分化の制御のような数々の働きをしています[9,10]。腸内細菌の最も重要な働きは、最大の免疫器官である腸管関連リンパ系組織(GALT: gut-associated lymphoid tissue)を刺激する一方で、それと同時に、食物を含む無害な物質に対して耐用性を促すことです。この刺激はヒトの一生を通じて起こりますが、出産前後の段階で最も決定的であると考えられています[10]。これらの善玉菌のコロニー形成は出産直後に起こり、そして出産の種類、母体の持つ病原体、遺伝子、母乳育児や他の環境因子に影響されます[10,11]。いくつかの免疫学的研究では、腸内細菌と湿疹・アレルギー罹患率との関係が立証されましたが、衛生状態仮説と同様に微生物仮説は、湿疹および他のアトピー性病態の発症に携わる全てのメカニズムを説明するには至っていません。

フィラグリン遺伝子の役割

体の最大の器官である皮膚の第一の機能は、外的環境と宿主との間の保護バリアーとして働き、水分の損失を最小限に抑え、病原体およびアレルゲンがシステムに侵入するのを防ぐことです[12]。機能性皮膚バリアーの形成に携わる主要な遺伝子の一つはフィラグリン(FLG:filaggrin)で、この遺伝子は水分損失および細菌侵入を防ぐ皮膚中の遺伝子をコードします。ヒトを対象とした数々の試験では、この遺伝子の突然変異が不完全な皮膚バリアーと相関しており、乾燥したかゆみのある皮膚および湿疹の高発症率と相関することが示されました[13]。研究者たちは現在、機能性皮膚バリアーのこの欠陥がアレルギー感作とやがて発症する湿疹とのお膳立てをするものであると言っています[12,13]。私たちは、湿疹の悪化にストレスが果たす役割について検討しましょう。


ストレスと皮膚:精神神経免疫学の役割 ストレスと皮膚:精神神経免疫学の役割

湿疹を含む数々の慢性疾患の関連要因の一つがストレスであるということは、一般に受け入れられているものの、精神神経免疫学(PNI: psychoneuroimmunology)は現在、ストレッサーが体内でどのようにして生理学上の変化を作り出すかついてのエビデンスを提供しています。精神神経免疫学は、中枢神経システム、内分泌システムそして免疫システムの間の複雑な相互作用を研究する一分野です[14]。精神的ストレスは、個人の把握している処理能力を超えた、実際あるいは想像上の出来事あるいは環境上の要求であると広義に定義されており、さらに急性あるいは慢性ストレッサーに細分化されます[14]。急性ストレスには、“戦うか逃げるか”反応のときのように適応可能である場合もあり、ここでは視床下部-下垂体-副腎(HPA: hypothalamic-pituitary-adrenal)軸と交感神経システム(SNS: sympathetic nervous system)とが心拍と呼吸数とを上げ、骨格筋への血流を増やし、血糖値を上げ、それにより体が脅威を扱うための準備をします[15]。その一方で慢性ストレスはより有害な作用があり、つまり、慢性ストレスは感染に対する感受性と感染の重症度とを増加させ、傷の治癒を遅らせ、そして炎症性サイトカインを大きく増加させます[14]

皮膚は、数々の感覚線維のネットワークをその中に保持し、セロトニン、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンやP物質といった、中枢神経システムと同一の神経伝達物質を多数、発現します[16]。肌は免疫、神経そして内分泌システムと密接に繋がっており、これらのシステムと化学伝達物質を介して双方向情報伝達を行っています[16]。これらの化学伝達物質の調節異常は一様に、湿疹の病態生理学に寄与することが示されています。

ある研究では、研究者たちは湿疹のあるいは湿疹ではない患者たちに精神的ストレステストを受けてもらいましたが、そのテストで参加者たちはスピーチおよび計算タスクを聴衆の面前で行わなければなりませんでした。その結果、湿疹の人たちではテスト後の好酸球菌の血中濃度が著しく高いことが示されましたが、好酸球菌は慢性アレルギー性炎症および湿疹で主要な役割を果たすと見なされています[17]。それに加えてこの結果では、湿疹患者はストレッサー曝露後24時間で血中免疫グロブリンE抗体の有意な上昇があることが示されました。免疫グロブリンEは、即時型過敏反応に寄与する好塩基球およびマスト細胞を刺激することから、湿疹の病理の主要な分子であることが示されています[17]。さらに、免疫グロブリンEは他の細胞のTh2細胞性免疫反応を活性化させます。

もう一つの研究では、研究者たちはどのようにストレスが皮膚のバリアー機能に影響するのかを調査しました。被験者たちは、(冬期休暇に続く)初期の低ストレス期間中、それに続く(2月の期末試験期間中の)高ストレス期間中、最後にストレスの高い時期の後の4週間、評価を受けました[18]。蒸発計、気分状態プロフィール(POMS: Profile of Mood States)そして知覚ストレス尺度(PSS: Perceived Stress Scale)を用いて、研究者たちは、経表皮水分蒸散量増加(TEWL: trans-epidermal water loss)および皮膚の物理的損傷に続く皮膚障害の悪化を伴う皮膚バリアー機能の減少は、知覚ストレスが最も高い被験者たちで最大であることを示すことができました[18]。著者たちは、湿疹のような一般的な炎症性皮膚障害の発症や悪化でストレスが果たす役割の臨床的な関連性が立証されたと結論を下しました。


湿疹管理のための自然療法的アプローチ  湿疹管理のための自然療法的アプローチ  プロバイオティクス

相当数のエビデンスに基づく研究により、プロバイオティクスは、湿疹の予防および治療を含む数々の病態に対する治療法として注目を集めました。世界保健機関(WHO: World Health Organization)によると、プロバイオティクスは“生きた微生物で、十分量が投与されると宿主に健康上の利益をもたらします”[19]

いくつかの無作為対照試験(RCTs: randomized-control trials)では、産前産後期のプロバイオティクス補給は、年齢2歳までの湿疹の累積発生率を有意に減少させることが示されました[20-25]。さらに、授乳がアレルギー性疾患の発症を防ぐのを助けることを可能とする免疫調整の主要因子であることが示され、そして複数の研究では、生後最低6ヶ月までの完全母乳育児は、高リスク乳児の湿疹発症リスクを有意に低下させることが示されました[19,26]。最後に、母胎のプロバイオティクス補給についてのあるメタ・アナリシスでは、乳酸菌の利用はプラセボと比較して、年齢2-7歳の子供たちの湿疹発症リスクに有意な減少が示されました[27]。次の菌株に予防効果があることが分かりました: Lactobacillus rhamnosus GG, L. acidophilus ,L. sakei, L. salivarius, L fermentum, B. lactis, and B. Bifidum.[19]

同様に、プロバイオティクスは湿疹の治療でも効果的であることが示されました。2012年のある研究では、B. Bifidum、アシドフィルス菌(L. acidophilus)、カゼイ菌(L. casei)、およびL. salivariusの組み合わせを用いた補給を8週間行った年齢1-3歳の湿疹の病歴のある子供たちはプラセボと比較して、SCORAD、血清免疫グロブリンEおよびアレルギー関連のサイトカインに有意な減少があることが示されました[19]。ドラゴらによる同様の研究では、L. salivarious LS01を16週間補給している成人はプラセボと比較して、SCORADおよびTH1/Th2サイトカイン比の有意な減少が示されました[19]。しかし、複数のシステマティック・リビューやメタ・アナリシスに基づくと、湿疹に対するプロバイオティクス治療の効能は依然として決定的ではありません。この理由の一つは、研究の不均質、治験対象母集団および治験に用いるプロバイオティクス菌株の選択の両方による可能性があります。

低刺激性食事法

多くの臨床医たちは、牛乳、卵、小麦や大豆が主な犯人である過敏症が原因の湿疹の主要な誘因は、栄養上のアレルゲンである可能性を信じています[28]。低刺激性食事法では、一般的な食物アレルゲンを、3週間から数ヶ月の範囲で一定期間除外し、ゆっくりと有害な食品を再導入して悪化が起こるどうかを見極めます。卵および牛乳除去食に関して発表された一握りの研究が存在しますが、卵除去食により卵アレルギーが確定した子供で湿疹症状が最大に減少しました[28]

ドイツの欧州アレルギー・臨床免疫学会(EAACI)の方針説明書によると、少なくとも3週間にわたる低刺激性食は、重症の湿疹に役に立つ可能性があります[29]。さらに、乳児および子供たち100人を対象としたある試験的研究では、いくつかのアレルギー誘発性の食品を除外すると、SCORAD指標を用いて測定した湿疹の重症度に、有意な減少がもたらされることが分かりました[30]。最後に、成人を対象としたさらに最近のある研究では、3週間の期間、低刺激性食を推奨することにより、苔蘚化(訳者注:たいせんか、掻き壊しをくりかえして、ごわごわと皮膚が厚く硬くなってしまった状態)を除いた主観的パラメターおよび客観的SCORADパラメターの重症度に有意な減少が生じることが明らかにされました[31]。悲しいことに、ヒトを対象とした厳密な無作為対照試験の不足および食事群の除外による、とりわけ成長期の子供たちでの栄養失調の懸念により、低刺激性食は批判されています。どの場合にも、患者の湿疹に食物アレルギーが一役買っているかどうかを確定するために、最低3週間の低刺激性食を試しに処方するのに十分な理論的および観測的エビデンスが存在しますが、これは臨床医による食事と栄養の不十分な部分についての栄養補給とに対する注意深い監視を伴います。

皮膚のための特定の栄養素

いくつかの栄養素は、皮膚のバリアー機能を強化し、炎症を軽減し、湿疹の関連症状を治すことが分かりました。相変わらず局所療法は、乾燥肌、炎症やかゆみのような湿疹症状の管理の基本です。低刺激性柔軟剤は、経表皮水分蒸散量増加(TEWL: trans-epidermal water loss)を減少させるのを助け、表皮セラミド値を維持し、かゆみを軽減するのを助けることが可能です[32]。最近のある二重盲険プラセボ対照試験では、ビタミンB12外用薬を使用することにより、2-4週間後に湿疹による損傷を有意に減少させることが分かりました[33]

複数の研究では、オメガ3脂肪酸EPAおよびDHAが表皮セラミドに組み込まれていることから、肌の透過性を低下させ、乾燥とかゆみとを軽減し、皮膚内の炎症活動を減少させることも示唆されています[34]。複数の研究では、GLA 40mgおよびビタミンE 10mgを含む月見草油(EPO: evening primrose oil)500mgを用いると、16週間後に子供の湿疹症状を著しく軽減することも示されました[35]。最後に、1600 IUのビタミンD3および600 IUのビタミンE(αトコフェノール)補給により、治療60日後に湿疹患者のSCORADスコアに有意な減少をもたらしました[36]

湿疹が複雑であることを考えると、自然療法医師は様々な治療法を用いて、この病態の症状および原因の両方に取り組むことを目標とするべきです。