メインコンテンツに移動

自閉症-微生物叢の役割

日本語

自閉症-微生物叢の役割

ミシェル・ヘーゲル理学士、自然療法医師

Docere Wellness Centre
15-7750 Ranchview Dr. NW
Calgary, AB T3G 1Y9

403-452-6262
drmhagel@gmail.com



Autism - The Role of the Microbiome

はじめに

人の微生物叢は“人体内の全ての微生物の遺伝子の集合”と定義され、人の細胞数の10倍を上回る“10-100兆個の共生微生物細胞から構成され “ています[1]。ある人の遺伝子の99.9%は他の人の遺伝子と同一ですが、彼らのそれぞれの微生物叢はたった10-20%の類似性しか示しません。これは、微生物叢が各個人を互いに異なるものとならしめている非常に重要なものであることを説明しています。私たちの微生物叢の大半は腸内で生まれ、そこに常住します。

微生物叢は体内の多くのプロセスに、生理学的そして免疫学的な影響を与えていますが、実際80%の免疫システムは腸内に存在します。微生物叢生成に最大の影響を与えるのは生誕時で、それは分娩様式に依存します[2]。自然分娩で生まれた20分後、赤ん坊たちの腸内には母親の産道と類似した微生物叢が存在していることでしょう。しかし、帝王切開で生まれた赤ん坊たちの微生物叢は外皮や病院内に存在するバクテリアのものと類似しているでしょう。次に、新生児の胃は獲得したバクテリアを育てる培養器となります。ですから、自然分娩で生まれた新生児たちは帝王切開の赤ん坊たちによりも非常に有利なのです。


caesarean births

カナダでは、1995年から2010年にかけて帝王切開分娩が17%から27%へと増加しました[5]が、これは公衆衛生において私たちの社会が直面している問題のトップに挙げられました。分娩様式の次に微生物叢への影響が大きいのは、新生児が母乳であるか人工乳なのか[2]ですが、人工乳は新生児が培養する微生物叢に対して良いバクテリアを供給することは殆どありません。

カナダでは、1995年から2010年にかけて帝王切開分娩が17%から27%へと増加しました[5]が、これは公衆衛生において私たちの社会が直面している問題のトップに挙げられました。分娩様式の次に微生物叢への影響が大きいのは、新生児が母乳であるか人工乳なのか[2]ですが、人工乳は新生児が培養する微生物叢に対して良いバクテリアを供給することは殆どありません。


ASD

自閉症スペクトラム障害の率の増加の原因は何でしょうか?この話題は過去10年の間、激しい論争となりました。自閉症スペクトラムは多様な障害で、多数の要因が存在するもののようです。複数の研究では、自閉症の兄弟姉妹は同一の自閉症リスク遺伝子を保有していない可能性があることが示されました[7]。これに従えば、自閉症スペクトラム障害には遺伝的要因があるものの環境的要因の影響の方がより強いということになります。では、微生物叢および腸の健康はどこに関わってくるのでしょうか?国立衛生研究所は2012年に何らかの形の自閉症スペクトラムであると診断された子供たちを対象としてある研究を行いました。これらの子供たちの92%に胃腸障害があることが分かりました。CDCは自閉症スペクトラム障害の子供たちには慢性的な下痢や便秘がある可能性が3.5倍であると推定しました[7]。明らかに、子供の腸の健康と自閉症スペクトラム障害とは関連がありますが、これが原因なのか結果なのかは、はっきりしていません。確実に分かっていると言えるのは、微生物叢を変化させて腸の健康を改善することで私たちの健康に良い効果が及ぼされるであろうということです。

ハーバードで行われたある研究によると、微生物叢は動的であり、食事を変えれば一日以内に大きく変化する可能性があることが明らかとなりました[8]。ですから、あなたの食べる食物はあなたが育てるバクテリアを決定付け、これらのバクテリアは様々な遺伝子を活性化する可能性があるのです。神経学者および「ブレイン・メーカー」の著者であるディビッド・パールムッターが述べているのは、“私たちは今、腸の健康および腸の機能-特に腸内バクテリア-が脳の発育…そして自閉症のような脳障害にどう結びつくのかを発見しているところなのです”[7]。子供の腸内バクテリアの構成は自閉症スペクトラム障害とそうでない子供との間では異なっています[9]。自閉症スペクトラム障害の患者さんたちの微生物叢を検査すると、クロストリジウム菌(Clostridium histoyticum bacterium)が多く、善玉菌であるビフィズス菌が少ないことが、健康な子供たちの微生物叢と比較して分かりました。ビフィズス菌はビタミン類を生成し、抗菌性を有しています。クロストリジウム菌種のバクテリアは毒素生産菌であることが知られており、これらの毒素は、炎症を引き起こし、免疫システムや脳に悪影響を及ぼす可能性があります。


propionic acid

生産される毒素のうちの一つはプロピオン酸(PPA: propionic acid)ですが、この酸は腸内で腸上皮細胞間結合を弱め、そしてプロピオン酸を含む外来物質が血流中に漏れ出し、これが全身を巡ります。これには”腸漏えい”という用語が付けられており、免疫反応のカスケード反応の原因となります。これは私たちの免疫システムは外来物質が進入する際には必ず活性化するためです。このカスケード反応には、炎症や細胞への損傷も含まれます。デリック・F・マクファーブ博士と彼のチームは、妊娠中のラットおよびこれらのラットから産まれた子孫にプロピオン酸高含有の餌を与えました[7]。月齢1-2ヶ月で、ラットの子供たちは自閉症スペクトラム障害の子供たちに見られるのと同様の発達障害を示したのです。

自閉症の子供たちの大半には、幼少期に少なくとも1、2の、帝王切開、人工乳、母体あるいは子供への抗生物質の使用、加工食品、非ステロイド抗炎症薬、ステロイド、そして様々な環境汚染物質といった微生物チャレンジの経験があります。抗生物質の影響について更に詳細に述べると、抗生物質が殺すバクテリアは選択的ではなく、良いバクテリアも悪いバクテリアも殺されます。抗生物質は私たちの微生物叢をシフトさせますが、その影響は様々である可能性があります。例えば、クリンダマイシンは4ヶ月のシフトをもたらす一方で、シプロフロキサンシンは微生物叢に最長一年影響を与える可能性があります[10]。フルオロキノロン類や、セファロスポリン類の幾つか、そして硫黄ベースの抗生物質のような様々な抗生物質は、命にかかわるような下痢を引き起こす可能性があります[7]。この情報の要点は、(抗生物質は必要であることから)皆さんに抗生物質を服用するのを思いとどまらせようというのではありません。そうではなくて、微生物叢に及ぼす可能性のある抗生物質の作用を認識し、私たちのシステムに起こるシフトを緩和するための対策を取ることが重要です。

私たちは私たちが食べる物によって規定されています。妊娠中および5歳までの幼児期に健康に良くない食べ物の摂取が高いと、行動上および感情上の問題の率が高いことが示されています[11]。良い食事を摂取することは非常に重要ですが、私たちが食べた食物から栄養を抽出するために、腸内に健康的な環境を確立することも同じくらい重要です。例えば、セロトニンとドーパミンとは気分と行動とを調節する主要な脳内伝達物質で、これらは腸で生産されます。ですから、もし自閉症スペクトラム障害の子供たちが胃腸に問題を抱えているならば、彼らがこれらの必要な脳内伝達物質を生産するのが困難となるでしょう。自閉症スペクトラム障害の子供たちでは、これら二つの脳内伝達物質の生産に必要とされるアミノ酸のレベルが低いことも分かりました。ですからこのような子供たちにとっては、これらのアミノ酸を含む多くのタンパク質を摂取することが極めて重要なのです。最後に、私たちはどのようにして、私たちの微生物叢にエネルギー源を供給し治癒させるのでしょうか?ヨーグルト、ケフィール、キムチ、ザワークラフト、ピクルス、昆布茶、発酵肉、発酵魚、そして発酵卵のような発酵食品を取り入れることにより、それが可能となります。これらの食品は数千年の間、伝統的な食事で用いられてきました[12]。健康的な微生物叢を支える他の重要な考慮事項は、私たちが摂取する食物が何処でどのように育てられたか、その成長の前後で何が起こったか、どれくらい早く消費するのか、どのように料理するか、といった視点での高品質の食事を確保することです。


microbiome

経口プロバイオティクスは、微生物叢内に善玉バクテリアを根付かせるために重要です。微生物叢に乱れのある人に対して用いられる、より積極的で慣例にとらわれない治療は便微生物移植(FMT: fecal microbiota transplantion)です。この方法は紀元4世紀以来利用されてきたもので、命にかかわる可能性のある抗体抵抗性を有するクロストリジウム・ディフィシレ感染のための一治療として考慮されています。自然療法医のマーク・ディビスは、便微生物移植は“潰瘍性結腸炎、クローン病、過敏性腸症候群、多発性硬化症、そして他の病態の人々にとって安全で効果が高い”ことを指摘しています[13]。便微生物移植では、ドナーからの健康的な糞便細菌叢を症状のある人へと移植します。これにより、他のどんな治療よりも迅速に微生物叢をリセットし再コロニー化させることが可能です。

2013年の時点でFDAは医師が便微生物移植を行うことを禁止しましたが、これはサンプル間での一貫性がなく、再現性に欠けることが理由のようです[13]。しかし、医師たちは患者に対して自宅でこれを行う方法を教えることが可能です。パールムッター博士は、自閉症スペクトラム障害の12歳男子を含む神経疾患の治療にこれを用いて成功を収めました。パールムッター博士は経口プロバイオティクスを使うことから始め、次に便微生物移植へと切り替えたところ、そこで行動に非常に大きな改善が認められたのです[7]。便微生物移植が自閉症スペクトラム障害の“治癒法”であるとは言いませんが、より馴染みのない治療法に光を当てたいと思いました。ここでは詳しく述べませんが、グルテンおよびカゼインを含まない食事法、高品質ビタミン・ミネラルのサプリメント、鉄、そして必須脂肪酸といった、自閉症を治療するために自然療法で用いられる他の重要な手順が存在します。どんな治療法でも始める前には自然療法医に相談することが重要です。


high-quality vitamin/mineral supplementation

結論として、私たちは体内に存在する数兆個の細菌である微生物叢を変化させることで私たちの健康に変化を与えることができます。自閉症スペクトラム障害の子供たちの体内に存在する微生物叢を変化させ、健康に良いバクテリアを促すことで、これらの子供たちの行動および健康を改善することが可能です。同様に、受胎から妊娠中を通して授乳までの母体の微生物叢を改善することによって、人口あたりの自閉症スペクトラム障害の罹患率を減少させることが可能かも知れません。帝王切開や抗生物質のような、私たちの微生物叢の課題を講じるような要因を避ける一方で、発酵食物のような微生物叢を構築し強化するような物を取り入れることが重要です。自然療法医の診察を受けて、あなたに適切な提案を受けてください。