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鍼、妊娠、そして周産期の健康

Lei Gu
BSc, ND
https://www.marsdencentre.com
31 October 2013
日本語

鍼、妊娠、そして周産期の健康
By: Lei Gu Bsc, ND
Scarborough Naturopathic Clinic
211-1585 Markham Road
Scarborough, ON. M1B 2W1
www.naturopathscarborough.com


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Acupuncture and Pregnancy




パートI:鍼と妊娠

妊娠は素晴らしい知らせです。しかし、特に不妊と向きあってきたカップルにとっては長い旅路の始まりにしか過ぎません。不幸にも、全ての妊娠が穏やかな40週の船旅となることはありません。ある女性たちが膣出血(そしてそれから推定される切迫流産)のように大きなストレスと不安とを伴う深い懸念に直面する一方で、別の女性たちは重い吐き気や嘔吐に苦しみます。バランスの取れた食事や適度の運動といった健康的なライフスタイルによって、このような問題を最小限にとどめることが可能な一方で、ある女性たちには医療介入が必要です。補完医療の世界では、特に母子双方への副作用が最小限であることから、鍼は妊婦へ大きな恩恵をもたらすことが知られています。

全ての妊娠で切迫流産は最大の懸念事項です。切迫流産を経験するのは妊婦のおよそ20%で、最初に膣出血が起こります。切迫流産の大多数は染色体異常が原因で、その他の場合の原因の多くは良く分かっていません。膣出血に対する慣習的な医学的アプローチは、大方が単なる“慎重な経過観察”です。患者たちは、性交を断ち、床上安静、リラックスゼーション療法、心理カウンセリングのような主に対症療法による介入に期待をかけます。鍼は、安全性が確認され有望で確実な効果が示された、補完療法の選択肢の一つです。

切迫流産に対する補完代替医療(CAM: complementary and alternative medicine)による治療オプションの集合的効果に関するある調査では、この領域での鍼の効果を調査する更に多くのエビデンスが必要ではあるものの、少なくとも、鍼のホルモンバランス調整効果とストレス軽減効果とにより、臨床転帰(訳者注:治療介入の時間経過後の結果としての臨床状態)が改善しているように思われるという結論が下されました(1)。別の研究では、鍼が妊婦たちのホルモン・プロファイルに及ぼす作用が確認されましたが、この作用により膣出血が短縮しました(2)。プロゲステロン(黄体ホルモン)は、子宮の過敏症を軽減し妊娠維持を促すホルモンですが、低プロゲステロン・レベルが流産の一要因となる可能性があることから、鍼がホルモンレベルに及ぼす作用が切迫流産という転帰(訳者注:結果)を改善するのを部分的に助けるのかも知れません。

ホルモンレベルへの作用に加えて、鍼はそれ自体が子宮に作用する可能性があります。複数の研究で、自然流産について直接には調査しなかったものの、子宮筋腫、子宮内膜症糖の様々な骨盤・子宮疾患の女性たちおよび不妊の女性たちを対象に調査が行われました。ここでは、鍼がこれらの病状を改善し子宮への血流を増加させるという治療効果を示しました(3,4)。これらの研究は、鍼が流産のリスクを減らす、独立した非ホルモン的な方法を象徴しているかも知れません。ある調査では、定期的に月経周期の三周期間、鍼と灸(ツボの上に外部からの熱を加える手法)とによる不妊治療を受けた女性たちは、クロミッド(訳者注:排卵誘発剤の商品名)による治療のみを受けた女性たちと比べて、排卵率が改善しただけでなく流産率も低下したのです(5)。

パートIIでは、妊娠時に良くあるもう一つの懸念事項、吐き気と嘔吐、に対する鍼の役割について検討します。



Acupuncture, Pregnancy, and Perinatal Health - From pregnancy to post natal blues.

パートII:妊娠の吐き気と嘔吐
By: Lei GuBsc ND
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Nausea and Vomiting of Pregnancy しばしば悪阻を意味する妊娠の吐き気と嘔吐とは、妊婦全体の60-70%を冒します(1)。これらの症状は午前中だけに限られることはなく、一日中持続することもあります。吐き気と嘔吐とは通常、自己限定的で(訳者注:自然に治り)、16週目までになくなりますが、その苦痛に耐えるのは厄介です。より深刻な場合には、これが妊娠悪阻(妊婦が自分自身や妊娠のために必要な栄養のために十分な量の食物を経口摂取することができないほど重い吐き気と嘔吐)として現れる可能性があります。妊娠中の吐き気がどのように何故、起きるかについてのメカニズムは明らかになっていませんが、一部は、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG: human chorionic gonadotropin, 性腺刺激ホルモンとも言う)が脳内のある中枢と消化管とに及ぼす作用のせいであると考えられています(1,2)。

hCGホルモンは“妊娠ホルモン”と言えるホルモンで、最初の三半期で敏速に上昇します。吐き気がしばしばこの時期に比較的ひどい理由は、これにより説明が付くかも知れません。hGCホルモンの作用の一つに、胃内容排出の遅延がありますが、これが吐き気の素因となる可能性があります(2)。

数々の研究では、伝統的鍼治療は、妊娠中のおよびそうでない人々の双方で、無治療や偽鍼治療と比べて、吐き気と嘔吐との頻度と重さとを減少させる助けになることが示されました(3,4,5)。女性500人以上を対象としたオーストラリアの別の調査では、週一回の鍼治療を4週間続けることにより、無治療および偽鍼治療の両方と比べて、妊婦の吐き気と空吐きとの発生を著しく減少させたことが分かりました(4)。このような効果は2週目までという早い時期で確認されました。

それほど重くない吐き気と嘔吐とに加えて、妊娠悪阻に対しても、この病状に対する標準的な医療の付属的治療として行った鍼治療が効果を示しました(6)。韓国の小規模な調査では、妊娠悪阻に対してPC6と呼ばれる経穴一つを用いた調査を行い、この特定のツボへの鍼治療により嘔吐、ケトン尿症(妊婦が十分に食べていないという指標)および入院率を、無治療あるいはプラセボと比べて、減少させるという結論が得られました(7)。最後に、学術文献のシステマティック・リビュー(訳者注:文献をくまなく調査し無作為化比較試験のような質の高い研究データを限りなく偏りを除いて分析したもの)によると、鍼治療が妊婦に対して施される際に、その効能は吐き気と嘔吐のみに限らず、しばしば妊娠後期に現れる腰痛、逆子や陣痛の管理にも効果的であるということす(7)。

パートIIIではギアを入れ替えて、特に母体の健康という視点から出産後の回復支援における鍼治療の役割に話題を移しましょう。



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パートIII:出産後の母体の健康
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Maternal Health after Birth 正産期での健康な赤ちゃんの誕生は喜びに満ちた出来事ですが、多くの女性たちが新米の母親へと変わってゆく過程で、いくつもの難しい課題を体験します。これら課題は、身体的また精神的・感情的あるいはその両方の可能性があり、産後うつ病や授乳の難しさは良い例かも知れません。パートIVでは、母乳育児に関連する心配事について検討します。ここでは、産後うつ病で鍼治療が演じる役割について焦点を当てましょう。

産後うつ病は、10-15%の女性たちが体験します。これは、いわゆる単なる“心理学的疾患”を大きく超えたものですが、それというのも産後うつ病は、睡眠の質、エネルギーレベル、(きちんとした食事摂取や適度な運動の開始のような)母親が他の健康関連アクティビティに携わる能力といった健康に関する別の側面にも大きく影響するからです(1)。母親の栄養状態(2)そして母親の身体的活動(3)といった数々の要因により産後うつ病の発症リスクが増加します。産後うつ病になりそうな時には、この二点を考慮することが大切ですが、これらに加えて鍼治療は良い付属的治療の一つとなる可能性があります。それというのも、鍼治療は母親側で大量のエネルギーを消費する必要がなく、実際は母親の休息時間となるかも知れないからです。

鍼治療がうつ病の効果的な治療オプションの一つであることについて、多くの文献が存在します。それでは、特に妊娠に関連するうつ病に鍼治療はどれくらい効果的なのでしょうか?この疑問に関するエビデンスは有望です。妊娠中のうつ病患者61人を対象とした調査では、被験者を無作為に二つのグループに振り分けました。一つのグループはマッサージ療法の処置を受け、もう一つのグループは鍼治療を、共に8週間受けました。著者たちは、鍼治療を受けた患者たちはマッサージ療法を受けた患者たちと比べて、統計的に有意なより良い結果を示したと結論を下しました(6)。別の調査では、産後の大うつ病性障害に対する効果について、本物の鍼治療と偽の鍼治療とを比べました。患者たちは調査の開始時点では軽度の症状を示していました。この調査結果は、ベースラインと比較して鍼治療および偽の鍼治療の両方が、抑うつ的症状を軽減したことを示しましたが、鍼治療と偽鍼治療との間に統計的有意な違いはありませんでした。うつ病は心理学的障害であることから、偽鍼治療を受けるという、いわゆる“プラセボ効果”が予想以上に大きな影響を及ぼしたのかも知れません (7)。

パートIVでは、母乳育児関連の問題の助けとなる鍼治療の役割について検討します。引き続きお読み下さい。



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パートIV:鍼と母乳育児
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Acupuncture and Breastfeeding 十分な母乳を出したり母乳育児を成功させたりするにあたっての困難は、新生児の母親に良くある課題の領域です。この問題の源はしばしば、母親が十分な母乳を出すことができず、不安になって更にがんばってしまうことにあります。乳腺炎は別の良くある問題で、炎症、痛みを引き起こしたり母乳育児を困難にしたりします。このような問題を扱う際に鍼治療を思い出すことはないかも知れませんが、この種の問題には伝統的に鍼を行ってきた長い歴史に加えて、この領域について行われた驚くべき数の研究が存在します。パートIVでは、母乳育児にまつわる課題と乳腺炎とを改善するにあたっての鍼治療の潜在的な効果について検討します。

多くの母親が母乳の利点を理解すると同時に、母乳への挑戦が早々の卒乳という顛末に転じることがしばしば起こります。伝統的な体躯鍼治療および耳鍼治療は、母乳が十分に出ない母親の乳汁分泌を増加するという有望な結果を示しました(1,2)。新生児を持つ母親90人を調査した別の研究では、(週1回の助産婦による診察を3週間受けることにより)観察されている母親と、週2回の鍼治療を3週間受けた母親とを、授乳時間について比較しました。観察グループは産後3ヶ月までの間で母乳育児率が統計的に有意に低かったことから、良く起こる問題の幾つかを母親たちが避けたり克服したりするのを鍼治療が助ける可能性を示唆しています。

中国では、乳汁分泌不足のような状態を治療するのに、鍼治療と一緒に伝統的な漢方薬がしばしば使われます。中国の調合漢方薬は通常強くて不快な味がしますが、ある研究によると幸いなことに、母乳の少ない母親を治療する際に、漢方薬調合と鍼治療単独とは同じくらい効果的である可能性があるのです。

乳腺炎は、乳房の張り(乳汁分泌過多)、乳管閉塞、乳首皮膚損傷部からのバクテリア感染といった、数ある要因により引き起こされる胸の炎症と定義されています。乳腺炎は痛みを伴う病状で、母乳育児が上手くゆくのを妨げる可能性があります。乳腺炎の治療の選択肢は、バクテリア感染でない場合には保冷のような自宅でのケアに限定され、バクテリア感染の場合には抗生物質が処方される可能性があります。このことから、副作用のほとんどない安全で効果のある乳腺炎のための臨床介入が必要とされています。患者15人を対象とした中国の研究では、毎日の鍼治療により乳腺炎の症状が平均2.5日以内で完全に緩和したことが分かりました(5)。

要約すると、鍼は、婦人科および産後の広い範囲の問題に対する効果的治療法として用いることが可能です。これらの病状に対する鍼の効果をより良く説明するために、更に厳密な研究が必要とされているものの、鍼はほとんど副作用がなく、安全かつ効果のある治療オプションを代表している可能性があるのです。