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シチコリンとアルツハイマー病-概要

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シチコリンとアルツハイマー病-概要
by: Rochelle Fernandes, Msc, ND (cand.)


shelleyferns@gmail.com


Citicoline and Alzheimer’s Disease - A Review





背景

高齢化人口が極めて大きく増加しました。これと平行して、アルツハイマー病(AD: Alzheimer’s disease)の患者数が増加しました。アルツハイマーについて、a) 2008年時点でカナダでは5分毎に一人がアルツハイマー病の診断を受けている、b) アルツハイマー病の患者数は2030年には2008年の50万人からほぼ二倍の90万人以上になる、c) 痴呆の人たちに提供される非公式な介護時間は同期間で3倍以上になる、d) これが現在の財政を抑圧している159億ドルの負担(これは10年毎に倍になると予想されています)にそのまま跳ね返る、e) 診断後の平均余命は7年である、といった憂慮すべき傾向が発見されました[1]。アルツハイマー病に関連する経済的、治療上、そして社会的な負担は個人、コミュニティ、そして政府に重くのしかかるため、医療持続の必要性が、病気管理に加えて病気予防を標的とする治療介入の必要性の原動力となるでしょう。

1960年以前、老人斑と認知の衰えとの間の相関が分かるまでは、アルツハイマー病は通常の老化プロセスと関連があるとされていました[2]。アルツハイマー協会が1978年に創設され、アルツハイマー病の遺伝要素が19909年に確定し、そして最初のアルツハイマー病の投薬治療とワクチンが1997から1999年に現れました[1]。しかし最近の進歩にもかかわらず、予後は死に至ることは変わっていません。



病気の病理と原因

What are the roles of beta Carotene and Lycopene?

アルツハイマー病には幾つかの原因があり、生理学的、分子的、生化学的、環境的、そして遺伝的な観点から理解することが可能です。アルツハイマー病は腫瘍、脳血管障害(CVA: cerebrovascular accident)、そして頭部外傷の二次性合併症として発症する可能性があります。化学的原因には、低酸素血症と電解質のアンバランスといったもの、環境的原因には薬物と金属毒性に加えて栄養上の欠乏症といったものがあります[3]。

この疾患の発病機序に何が携わっているのかについての仮説は多く存在しますが、主に、生化学、遺伝、そして分子生物学の研究からの仮説が四つあります。コリン作用仮説では、興奮性アミノ酸活性の減少およびのアセチルコリンのニコチン酸・ムスカリンのレベル減少による皮質、錐体神経細胞の活性減少が原因で、シナプス前ニューロンの機能の変化が認知の衰えに関連し、アルツハイマー病が起こると提案されています[4][5]。アルツハイマー病の遺伝仮説では、染色体1,14,19そして21上の遺伝子に人口の0.1%の割合で起こる染色体優勢突然変異が原因であるとしていますが、これらの突然変異はアミロイド前駆体タンパク(APP: amyloid precursor protein)に加えてプレセニリン1および2(アミロイド前駆物体タンパクプロターゼ複合体に不可欠な)をエンコードした結果Aβタンパク小片の機能不全が起こりますが、これがプラーク形成に寄与します[6]。生化学仮説は、タンパク質の折り畳み誤り理論に基づいて構築されています。アミロイド前駆体タンパクは神経発達および修復に不可欠ですが、アルツハイマー病では、エンドソーム・リソソーム経路におけるβ/γセクレターゼによるアミロイド前駆体タンパクのタンパク質分解異常がプラークの沈着を引き起こします。最後の仮説は分子生物学です。プラークは構造的には双対らせん状フィラメント(PHF: paired helical filaments)あるいは直線状フィラメント(SF: straight filaments)と関連がありますが、これらに含まれる主要タンパク質は微小管にリンクしているタウと呼ばれるタンパク質(シグナル情報伝達および細胞骨格形成に必要不可欠な)です[7]。過リン酸化タウは、軸策細胞内コンパートメントよりもむしろ細胞体樹状突起へと再ローカライズし、微小管から分離して神経原線維のもつれを形成します[8]。これらの理論は、アルツハイマー病の起源および関連する分子病理学を明らかにすることから、理解しなければなりません。



診断と症状

初期の症状の一部には、短期記憶の喪失、集中できない、細かい運動の開始失効症といったものがあります。中程度の進行性疾患症状には、長期記憶の喪失に加えて発話、読書、そして区間視覚タスクが困難になるといったものが含まれます。末期症状は殆どの場合、妄想、攻撃性、抑うつ、無気力、そして失禁といったものです[9]。

アルツハイマー病の診断は、患者さんとその家族からの徹底的な病歴聴取、認知・神経学的検査、ミニ・メンタル・ステート検査(MMSE: mini mental-state exam)や脳電図(EEG: electroencephalogram)、脳イメージング(PET, SPECT, MRIそしてCT)および組織病理学検査(確認のため)によって下されます。国立神経疾患・脳卒中研究所のアルツハイマー病とその関連疾学会、そしてDSM IVは、アルツハイマー病の正確な診断方法の概要を纏めました[10]。これは、記憶、注意、知覚、言語、方向、問題解決、そして機能的・構造的能力といった臨床基準を評価するものです [11]。



治療法

アルツハイマー病の神経病理の特徴は、タウ蓄積による神経原線維のもつれおよびβアミロイドを含有する老人斑の有無です。現在、食品薬品局(FDA: Food and Drug Administration)が認可したアルツハイマー病の治療は、二種類の薬から構成されています。N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA: N methyl-D aspartate)受容体拮抗薬(メマンチン)がグルタミン酸塩の働き(記憶と学習のプロセスに携る)を調節するのと同時に、より一般的に利用されるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ACI:acetylcholinesterase inhibitors)(ドネペジル、ガランタミン、リバスティグミン)がアセチルコリンを増加させることによって、アセチルコリンシナプス前終末の劣化を帳消しにします[12]。アルツハイマー病の薬学的管理には幾つかの制限が存在します。これらの薬はせいぜい中程度のアルツハイマー病で効果は示すものの、6ヶ月後には効果が失われ、数多くの副作用があります。ですから、より良い疾病管理が早急に必要とされているのと同時に、安全性、有効性、そして予防の可能性を考慮しなければなりません。最近、アセチル-Lカルニチン、ビタミンE,Lフェニルアラニン、そしてシチコリンのような新しい治療薬を詳細に調査した幾つかの研究がありました[13]。

さらに幹細胞を利用した新出の治療法も存在します。幹細胞治療では、失われたニューロンを皮下あるいは静脈で投与したニューロンに置き換えることを試みます。複数種類の幹細胞およびこのアプローチのターゲットと成り得る複数種類のタンパク質が存在します[14]。治療に使えるかも知れない神経幹細胞(NSC: neural stem cells)、間葉幹細胞(MSC: mesenchymal stem cells)、胚幹細胞(ECS: embryonic stem cell)、そして多能性幹細胞(PSC: pluripotent stem cells)が存在します[15]。全体として、この治療は研究においては全く進展がありません。ですから、ナチュラルな治療法は、考慮すべきもう一つの好ましい選択肢です。



アルツハイマー病におけるシチコリンの役割

What are the roles of beta Carotene and Lycopene?

シチジン5’ 二リン酸コリン(CDP: cytidine 5′ diphosphocholine)としても知られているシチコリンは、リン脂質および神経伝達物質前駆体の形成に携わる他に例を見ない分子です。シチコリンは脳血管障害(CVA:cerebrovascular accident)後の治療において、神経機能および認知機能を改善させるという、相当の潜在性を示しました[16]。シチコリンは、脊髄損傷、神経伝達物質機能障害、神経性眼疾患、そしてアルツハイマー病への利用でも知られています。アルツハイマー病関連でのシチコリンの作用機構(MOA: mechanisms of action)は、神経保護的(膜保持)働きに対する神経化学的(アセチルコリン維持)働きといった、機能の素因を介することでより良く説明することが可能です[17]。シチコリンは細胞内のタウおよび細胞周囲のβアミロイドによるタンパク質異常蓄積を、細胞膜の流動性および正常性を維持することで除去しようとする、という仮説があります。シチコリンにはリン脂質の使用を控える作用があり、中枢神経内のアセチルコリンを合成するために利用する周辺に蓄積されているコリンが欠乏するのを妨げると考えられています[17]。

シチコリンはアルツハイマー病において有望かつ際立った治療法ですが、その理由はa) 生物学的利用能が高い(>90%)、b) 半減期が長い(呼吸器を介して56時間、腎臓排出で71時間)、c) 神経伝達物質の形成-十分なレベルのアセチルコリン前駆物質および細胞膜のためのリン脂質を維持する能力、d) リン脂質調整-腸内でのコリンおよびシチジンへの転換可能性、必要に応じて周辺組織への移動、そして脳内でのシチコリンへの再転換、そしてe) 生化学的可塑性-細胞の需要に応えるためのホスホリルコリン合成やベタイン酸化といったものです[13]。シチコリンは、500-2000 mgの服用量範囲で有効で、副作用は殆どなく、経口、静脈注射や筋肉内(IM: intramuscular)経路で投与可能なことが示されました[18][19]。人を対象として行われた有毒性についての研究では、経口投与(500-2000 mg)は特に副作用とは関連がないことが明らかになりました。平均期間が5日の静脈注射による500-2000 mgの投与では、20%未満の患者さんたちに胃痛、下痢、そして頭痛の副作用が見られ、心拍の変化を伴う高血圧症の血管症状が患者さんのおおよそ0.5%に現れました[20]。



結論

現在の研究分析によって、シチコリンは間接的ではあるものの、アルツハイマー病のアセチルコリン仮説およびβアミロイド・・タウ仮設を支持するような、効果的な治療薬であることが分かりました。シチコリンは病気の進行を止め、幾つかの場合では病気の退行と関係のあることが、研究で明らかになりました。しかし、疾病予防がそれと等しく妥当であるかどうかは曖昧です。シチコリンの利用には、a) 神経伝達物質の前駆体としてのコリン代謝産物、Na+/K+ATPアーゼ活性、そして糖質二重層安定のためのリン脂質合成といったものを増加させる多様な作用機構のレパートリーがある、b) 脳血管障害やパーキンソン病のような他の神経疾患にも良い、c) 副作用が最小限(頭痛と胃腸の不調)であるのに加えて低毒性プロフィールである、そしてd) EOADおよびLOADにおいて6週間1000 mgの経口服用量で良好である、といった多過ぎるほどの利点があります[18]。シチコリンはアルツハイマー病の素晴らしい候補薬ですが、これは細胞膜をターゲットとするためで、ですから受容体の結合、酵素の働き、そしてイオンチャネルの働きを調節します[19]。今後の研究の方向には、作用機構の徹底的な解明や臨床認知スコアの要素との相関が関わってきます。加えて、生化学的検査およびイメージングによって、中枢神経系ニューロン内分子の変化のより良い検査が可能となるでしょう。予防におけるシチコリンの検査は、リン脂質の代謝、ターンオーバー、そして体内に対する脳内での分布を詳細に評価することが必要となるでしょう。また、付加的治療効果の有無を知るために、シチコリンと従来の薬物(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)の併用効果について調査するのも興味深いでしょう。これらの問いへの答えが見つかるにつれ、病気の進行および退行の管理から予防へと重点が移ることでしょう。