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認知の健康-ビデオゲームは脳を改善することができるか?

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認知の健康-ビデオゲームは脳を改善することができるか?
By: Maria Shapoval, ND

Integrated Healthcare Centre
1255 Sheppard Ave East
Toronto, ON, M2K1E2
mshapoval@ccnm.edu



認知の健康-ビデオゲームは脳を改善することができるか?


認知障害とは何か?

認知低下の人々が増加する中、認知の健康を支え、維持し改善するための持続可能なライフスタイル介入が必要です。運動は身体の健康を増進しますが、同様の理由で認知トレーニングに対するニーズが存在します。技術の進歩により、認知トレーニングのための新しく有望な媒体が提供されています。この媒体というのは、各自の必要に合うようにあつらえた個別トレーニング法の開発を可能とするような、仮想現実、ビデオゲームそして携帯デバイスの世界です。脳がもはや保持できなくなった内容を保存することができる仮想知能の可能性もあるでしょう。このリビューでは、認知エクササイズから、仮想現実を取り巻くリハビリテーションプログラムそしてアルツハイマー病の進行で障害が生じた機能を利用可能にするための専用のスマートフォン(“仮想知能”)まで、ビデオゲームのアプリケーションの背後にある研究を探求します。

アルツハイマー病は、年齢60-70歳の人々の1%そして86歳以上の6-8%が罹患していると見積もられています[1]。もう一方で、軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)はより軽度の形の認知低下ですが、65歳以上のうち10-20%が罹患していると推定されています[2]。これらの数字は人口の高齢化とともに増加すると予想されています。利用可能で効果的、経済的に持続可能でコンプライアンスを引き出すような、ライフスタイル介入へのニーズが高まっています。認知低下の兆候のいくつかには、軽度の物忘れおおよび論理的思考、処理速度そして注意、言語や空間視覚能力のような実行機能といったものの弱体化があります[2,3]。実行機能とは、計画する、組織立てる、戦略立てる、注意を払う、詳細を記憶し、時間と空間を管理するというような活動を行うために、過去の経験を現在の行動と結びつけるのを助ける精神機能の集まりを意味します。

軽度の認知低下およびアルツハイマー病や痴呆の広がりは、ベビーブーマーが歳を取るにつれ増加すると推定されます[4]。現在、認知低下の原因は、正常な老化(加齢に伴った認知低下)から、軽度認知障害(正常な老化と比較してわずかにより顕著な認知低下)および、アルツハイマー病、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏、脳血管疾患(たとえば血管性認知症)、薬の副作用(特に年配者での問題)、ガン、中枢神経系の感染、薬物濫用、HIV関連認知障害その他のようにより深刻な原因まで、幅があります[1]。新しく獲得した知識の記憶力の低下と一体となった言語記憶や実行機能の弱体化は、アルツハイマー病のより大きな兆候である一方で、精神病に関連する物忘れはむしろ痴呆の特徴です[1]。この文脈で精神病というのは、外的現実性の精神的喪失、感情や思考過程が損なわれることを意味します。

コンピューターや携帯デバイスがよりありふれたものになるにつれて、認知の健康に関するそれらのアプリケーションにより、比較的安価な、カスタマイズ可能で患者個別のニーズに取り組む有望な介入が提供されてきています。このような技術を定期的に使うことにより脳の健康を維持する助けとなることを示唆する予備的なエビデンスが存在します。最近行われた有望な研究からのエビデンスによると、毎日コンピューターを使うことと30-40%低い痴呆リスクとの相関が認められます[5]。年齢69から87歳の健康な男性合計5506人を6年間追跡調査しましたが、その結果としての痴呆の診断に興味が集まりました。コンピューターの使用というものは、インターネットの閲覧、電子メール、ワープロやゲームのようなアクティビティと定義されました。コンピューターの使用による好影響の度合いには、それが潜在的に閲覧コンテンツの質に依存しているために、幅がある可能性があるものの、経験というものはプラス効果があるように見える一つの単純な因子です。Smallらによるもう一つの研究では、熟練ユーザーの機能MRIの測定値を、インターネットに馴染みのない人たちの測定値と比較しました[6]。機能MRIでは、脳機能が携わる事柄に応じて脳の特定の部位が明るく表示されます。この研究では、定期的なインターネットの使用が意思決定および複雑な推論と関連する脳部位の活性化に相関がある一方で、不慣れなインターネット閲覧は読書と関連する部位のみが活性化することが分かりました。このように、年配人口が認知の健康を促進するための手段としてのコンピューターの使用を支持する何らかのエビデンスが存在します。それでは次に、コンピューターに基づく特定の介入のいくつかと、それらが認知機能に及ぼす影響について、より詳細に見ていきましょう。

ビデオゲーム ビデオゲーム

2012年のシステマティック・リビューでは、ビデオゲームとそれらの現在の治療効果の可能性の展望についての優れた概説が紹介されました[7]。概説では、年齢50-87歳の患者を対象として行われた8つの研究が網羅され、ビデオゲームの認知への効果が吟味されました。対象となったゲームは、ニンテンドーのWii’s Big Brain Academy, Rise of Nations,メダルオブオーナー、パックマン、ドンキーコング、テトリス、Atari: Break out、Crystal Castles、Galazian、FroggerそしてKaboomといったものです。これらを、毎週2から5時間、2週間から11週間行いました。最も大きな改善は、反応時間(エフェクトサイズ0.77; この場合、1.0に近いほど効果が高い)、処理速度(0.72)そして全体的認知(0.69)でした。全体的認知は、WAIS-R full IQおよびADAS-Cognitionと呼ばれる二つの質問票を用いて評価しました。より軽度の効果が実行機能(0.25)と注意(0.21)とに見られました。効果の程度は、調査対象のゲームにより様々でした。ここではBrain Academyを除いて、上述のゲームは認知機能の改善は本来の目的ではありません。

俗説とは矛盾して、Bootらの研究で明らかにされたように、典型的に“知的”と見られているゲームは必ずしも認知の改善をもたらしません[8]。平均年齢74歳の健康な参加者たちは、無作為に1) Brain Age 2(頭脳ゲーム) 2) マリオ・カート(アクションゲーム)の二つのゲームのうちの一つを60時間行うよう振り分けられました。参加者たちは、フランカー・テスト(選択的注意)、meaningful memory、Raven’s matrices(推論)、visual search(処理速度)他といった一連の認知テストを用いて評価されました。しかし12週間後、どちらのグループにも有意な変化は報告されませんでした。

どのタイプのゲームが最も認知に高い効果をもたらす可能性があるのかを定めるために、Oeiらによるある研究では、異なるいくつかの種類のゲームを大学学部生の単一グループで比較しました[9]。学生75人は無作為に、Memory Matrix (順番を再現する)、The Sims (人生シミュレーション)、action(シューティングゲーム)、match-3(Bejewelled 2、タイル合わせパズル)やhidden-object(視覚的に複雑な場面内で物体を見付ける)の五つのゲームのうちの一つに割り振られました。学生たちは、1日1時間週5日、合計4週間(合計20時間)、ゲームを行うよう指示されました。ゲーム介入の前後で、学生たちは、幅広い認知テストを用いて評価を受けました。これらのテストには、注意の瞬き、フィルター・タスク、視覚検索・空間記憶およびコンプレックス・スパンといったものがありました。調査の結果では、アクションゲームは注意の瞬きに著しい改善をもたらす(p < 0.001)ことが示されました。これは本来このゲームの特徴に特有である標的間での迅速な注意の切り替えが必要であることによるもので、それによりゲームの外に移すことが可能である注意切り替えが改善する結果を導いたと、研究者たちは推測しました。アクションゲームは、複数の物体を同時に追跡する能力であるフィルター・タスク、そして計算タスクと言葉のタスクとの組み合わせであるコンプレックス・スパンにも改善をもたらしました。その一方で、Bejewelled 2では視覚検索・空間記憶のみに肯定的な結果がもたらされました。Memory Matrixとhidden-objectは視覚検索・空間記憶のみ効果が見られた一方で、Simsは4パラメターのどれにも顕著な影響を与えませんでした。ですから、認知への効果は他のゲームからも引き出されるものの、アクションゲームが最も広い範囲の効果をもたらすようです。

視覚トレーニング 視覚トレーニング

潜在的にビデオゲームよりも娯楽性が低いものの、特定のスキルを改善するために作られた仮想現実(VR: virtual-reality)のトレーニングプログラムは、健康な高齢者の参加者たちおよびアルツハイマー病患者たちにとって、効果的な介入を既に提供しています。

Optaleらによるある研究では、健康な高齢者たちのいくつかの認知パラメターに対する仮想現実トレーニングの治療効果を明らかにしました[10]。この無作為対照試験には、言葉による物語回想テスト(VSR: Verbal Story Recall)により様々な障害を持つと評価された平均年齢80歳の36人が、参加しました。これらの参加者たちは、実験的グループあるいは対照グループのいずれかにに分けられました。対照グループは音楽療法を受けました。実験グループは二週間ごとに3つの聴覚トレーニングおよび仮想現実トレーニングの両方で構成されるトレーニングセッションを受けました。聴覚トレーニングというのは、三つの異なる物語(それぞれ異なるバックグラウンドミュージック)のオーディオ録音の聞き取りで、その一方、仮想現実トレーニングというのは、15秒のビデオクリップで示された眺望のロケーションへの正しい経路を、ジョイスティックとコンピューターとを使って、聴覚トレーニングで使われたものと同じバックグラウンドミュージックを聴きながら見付けるという構成でした。このトレーニングは3ヶ月間行われました。調査終了時には、このトレーニングがミニ・メンタル・ステート検査(MMSE: Mini Mental State Examination)(p = 0.014)、Digit Span test(短期言語記憶、p = 0.043)、物語回想テスト(VSR: Verbal Story Recall)(p < 0.001)、Phoenemic Verbal Fluency(p = 0.005)そして老年期うつ病尺度(p = 0.025)に著しい改善をもたらした一方で、対照群では機能の維持あるいは機能の喪失のどちらかが示されました。空間視覚処理および日常生活のアクティビティには何の変化も認められませんでした。

安全で統制されたトレーニング環境として仮想現実を利用して、Hofmannらはアルツハイマー病の患者たちの日常生活機能を改善するために、買い物介入を作り出しました[11]。買い物ルートのディジタル写真で作り上げられた仮想現実体験において、参加者たちは店の場所を突き止め、3つのアイテムを買い、そして“薬局に行くためにこの道を横切らなければなりません。何に気を付けなければなりませんか?”というような関連する10つの多岐選択肢問題に答えるために、操作を行わなければなりません。4週間にわたる12セッションのトレーニング後、間違いをおかす回数に有意な減少(p < 0.044)が報告されましたが、これはトレーニング後3週間維持されました。ミニ・メンタル・ステート検査への影響は何も認められませんでした。この研究が特定のスキルを改善する力のあることを明らかにしたものの、どうやってこれらの成果が現実世界の買い物体験へと一般化可能であるかを定めるのは困難です。また、この3週間のフォローアップをどれくらい超えてこの成果が維持されるのかも不明です。

新しい技術を応用する他の方法 新しい技術を応用する他の方法

ゲームや仮想現実の世界が進化するにつれ、それらの応用の世界も進化します。驚くことに、De Leoらによるケーススタディでは、アルツハイマー病患者の仮想メモリーと呼ばれるであろうものを発達させるために、スマートフォンの写真機能を利用しました[12]。参加者たちはアルツハイマー病の第4ステージの診断を受けた人々で、彼らは予めプログラムされたスマートフォンを与えられ、このスマートフォンを4週間、首にかけて過ごしました。このスマートフォンは、午前8:00から午後8:00の間、5分おきに写真を撮影するようプログラムされていました。画像は毎晩午前2:00に自動的にサーバーにアップロードされました。冗長あるいは質の悪い画像は研究チームにより破棄され、その残りでスライドショーが作られ、それを参加者たちに週一回見せました。そのビデオ閲覧の前と直後で、最近の出来事の記憶回想テストとリカート5段階満足度アンケートとが共に行われました。当然のことながら、スライドショー閲覧により記憶している出来事の数が増加しました。参加者たちは、スライドショーが記憶補助として非常に便利な道具であることについては、不賛成でしたが、誰に会ったかを忘れることが心配であるような社会的状況では特に、スマートフォンが記録を続けていることを知っていることで不安感が軽減されたことには、賛成しました。このスライドショーを通して自分が体験したことを家族と共有できたことは、もう一つの喜びでした。この装置は、参加者たちに不都合は生じさせませんでしたが、いくつかの技術的問題そしてスライドショーを振り分けるためのビデオエディターに大きく依存するという問題がありました。

この技術革新は一つの事例報告では終わりません。仮想記憶を作るためのもう一つの取り組みが現在実験段階にあります。もう一つのチームは、定期的にスケジュールされたリマインダーを日常アクティビティの支援の一方法として、痴呆の患者たちに提供する携帯電話ベースのビデオストリーミングシステムを開発しました[13]。馴染みのある親戚たちの顔を使うことにより、高いコンプライアンスを達成することを開発者たちは望んでいます。もう一つの潜在的なスマートフォンのアプリケーションは、迷子になったアルツハイマー病患者のいる場所を探し出すためにGPSコンポネントを用いることです[11]。最後に、Wiiのアプリケーションに加えて、FacebookやSkypeのような仮想オンラインコミュニティによる社会面へのプラス効果と認知への影響は、さらに探求できそうなもう一つの分野です。

課題と制約

諸々の技術革新の最中、こういった新技術に関する文献で二つの主な障害が確認されました。最も良く知られる一つ目のものは、コンプライアンスの課題です。それを遵守しない人を助けられる治療はありません。Bootらは二つの異なるニンテンドーDSゲーム介入を比較したある調査で、参加者たちの好みを調査しました[8]。この研究では、参加者たち(平均年齢74歳)は、60時間ゲームをするために、アクションゲームのマリオカートDSあるいはより知的なゲームのBrain Age 2(数独を含むいくつかの異なるゲームを選択可能)のうちのいずれかに無作為に振り分けられました。皮肉なことに、参加者たちは頭脳ゲームをより楽しいと採点し、指示(マリオカートの22時間と比較してBrain Age 2のゲーム時間は平均56時間)への遵守度がより高かったのです。参加者たちはマリオカートについて“ぼんやりしている”“完全に退屈だ”と述べました。しかし逆説的ですが、研究によると[8,9]、実行機能と反応速度とに関してもっとも高い効果を上げたのはアクションゲームです。二つ目の懸念は、コンピューターの人間工学に関連する有害なイベントです。デスクトップモニター、ジョイスティックそしてキーボードの使用について報告された副作用には眼精疲労と関節炎といったものがあり[8]、そして仮想現実を作り出すのに一般に使われる頭部装着型ディスプレーの使用については、吐き気、嘔吐、めまい、頭痛、方向感覚の喪失そして一時的な前庭・精神運動の障害といったものがありました[14]。全ての人に馴染みのあるもう一つの合併症の可能性は、ハードウェアやソフトウエアの不調という形の技術的制約によるフラストレーションです。これらの課題があるにも関わらず、Kueiderらによるあるシステマティック・リビューでは、これらの介入が認知の健康に関してもたらす全ての効果を参加者たちが享受するために、技術的精通の必要はないことが報告されました[7]

結論

技術の世界が革新を続けるにつれて、認知の健康の維持や様々な認知障害のリハビリテーションを援助するような新しい道具や取り組みが提供される可能性があります。各自のニーズと好みとは、効き目のあるビデオゲームや仮想現実を開発する際に極めて重要になりますが、このようなビデオゲームや仮想現実は、理想的には参加者たちを強い支援ソーシャルネットワークに結びつけつつ、彼らの認知機能を刺激するだけでなく、興味を保ち惹き付ける必要があります。