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ホスファチジルコリン-いろいろに使える薬

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ホスファチジルコリン-いろいろに使える薬
By: Philip Rouchotas MSc, ND
Bolton Naturopathic Clinic
64 King St W, Bolton, ON L7E1C7
www.boltonnaturopathic.ca
info@boltonnaturopathic.ca


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What is Phosphatidylcholine


パートI:ホスファチジルコリンとは何か?

ホスファチジルコリンは、殆ど知られていない、でも人間の健康で印象的なほどの広範囲の機能を持つ、興味をそそる栄養素です。ホスファチジルコリンは必須リン脂質の一つで、細胞膜の脂質二重層の重要な構成要素としての働きがあると同時に、重要なコリン源でもあり、組織のコリンの蓄えのおよそ95%に相当します(1)。コリンは、アセチルコリン(Ach: acetylcholine)のような脳シグナリング分子の前駆物質として働き、肝臓のコレステロール代謝を助け、心血管疾患の予測因子であるホモシステインのメチオニンへの転換反応のようなメチル化反応に一役買うといった、数々の重大な機能を持つことから、この物質は重要です(2)。

簡潔に言うと、コリンやホスファチジルコリンは、健全な肝臓機能と正常なコレステロール代謝の維持、心血管リスクの減少、健康な腸および記憶やメンタルヘルスといった脳機能の維持において、重要な役割を果たしている可能性があることを意味します。

人体でのコリン合成では、リン脂質ホスファチジルエタノールアミンをホスファチジルコリンに転換し(1)、次にホスファチジルコリンを分解することでコリンを得ることが可能です。その結果、コリンは1998年まで米国医学研究所により必須栄養素として宣言されることがありませんでした(3)。しかし、体内でのホスファチジルエタノールアミンからホスファチジルコリンの転換は非常に効率が悪く、食物からの摂取がなければ、人間は生理学上の十分量を満たすことができません(1)。

栄養素として、コリンは食物中にホスファチジルコリンとして存在しますが、このホスファチジルコリンは13%のコリンです(2)。コリンはレバー、麦芽、牛乳、ピーナッツ、魚、牛肉、卵(100gあたり680mgという最も豊富なコリン源)のような食品の中に見られます(2,3)。それに加えて、大豆レシチンはホスファチジルコリンと同義であるため、コリンを簡易に補給できる食物源となる可能性があります(2)。米国医学研究所は、コリンの目安量(訳者注:一日当たりの推奨量と似た概念で、データ不足などで推奨量が決定できない場合に別の方法で定めた基準量, AI: adequate intake)のレベルを、19歳以上の成人女性は一日425mg、成人男性は550mgと定めました。一日あたりの目安量は、3歳未満の子供で100-200mgの範囲、そして3歳以上の子供で200-400mgです(2)。それに加えて、人間がコリンを必要とすることは、葉酸などの他の栄養素の状態と相互依存しており、葉酸が不足している人の体はコリンをさらに多量に必要とします(2)。コリンは動物性食品中に多く含まれる傾向にあるため、特に菜食主義者は高い欠乏リスクにあります。

この記事の続きのパートでは、肝臓の健康、腸の健康、そして脳の機能におけるホスファチジルコリンの用途について検討しますので、引き続きお読みください。



パートII:ホスファチジルコリンと肝臓の健康

Part II: Phosphatidylcholine and Liver Health

By: Philip Rouchotas MSc, ND
Bolton Naturopathic Clinic
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Phosphatidylcholine and Liver Health パートIでは、コリンが肝臓でのコレステロール代謝に一役買っている必須栄養素であることを確認しました。コリン不足の食事を摂取している人は、脂肪肝や肝臓障害を発症することが示されました(1)。その一方で、コリンの補給により、脂肪肝による肝臓障害が軽減され、細胞中の脂肪蓄積が減少することが示されました。

コリンはコレステロール輸送に不可欠です。脂肪やコレステロールを摂取すると、それらは腸から吸収され、肝臓に送られてトランスポータータンパク質に“詰め込まれ”、そこから体の残りの部分に送り出されます。コリンは、コレステロールを肝臓から体の残りの部分へ運ぶ超低密度リポタンパク質(VLDL: very low density lipoprotein)として機能します(2)。ですから、体にコリンが不足していると、脂肪やコレステロールは肝臓に蓄積し、脂肪肝や肝臓障害を引き起こします。またコリンは、コレステロールの胆汁への溶解度を上げ、この経路からの排泄が増加します(1)。この胆汁溶解度への影響から派生して、コリンは胆石の予防にも効果があるかも知れません(1)。

食事からのコリン低摂取は、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD: non alcoholic fatty liver disease)の女性たちにおける肝線維症(一生残る障害)の増加と関連があるとされました(3)。複数の試験において、コリン補給は同じく非アルコール性脂肪肝疾患患者の肝細胞の正常性を改善することが示されました(4)。コリンに結合したオオアザミ(訳者注:一部の文化圏で、胃・肝臓・胆嚢障害など特定の医学的問題の治療に用いられてきた植物)の効果を評価した別の研究では、補給の結果、肝臓の酵素レベル、血糖コントロール、顕微鏡レベルの検査における肝細胞の特性が、それぞれ改善しました(5)。栄養状態がコリン不足である食事を摂取している患者たちが毎日コリンを補給すると脂肪肝が逆転することが示されました(6)。

ベタインは、ホモシステイン代謝においてメチル給体として作用する特別なコリン誘導体で、脂肪肝において治療的役割も果たす可能性があります。非アルコール性脂肪性肝炎(NASH: steatohepatitis)(脂肪肝の第二段階)患者を対象としたある試験的研究では、1年間のベタイン補給により肝臓の酵素レベル、脂肪沈着の度合い、炎症グレード、そして線維症のステージに目立った改善をもたらしたことが分かりました(7)。別の調査では、2.6gのホスファチジルコリンを補給することにより、卒中や他の種類の心血管疾患のリスクの重要な予測因子であるホモシステインのレベルを低下させることが可能なことを示しました(8)。

最後に、肝硬変および肝不全の患者を対象としたある調査では、6-8週間にわたる一日3回の350mgのホスファチジルコリンの補給は、合併症(脳障害と腹水)からのより良好な回復およびより低い死亡率との関連があるとされました(9)。

パートIIIでは、健康な腸機能の維持にホスファチジルコリンが果たす役割についてのエビデンスを検討します。



Phosphatidylcholine - A versatile medicine

パートIII:ホスファチジルコリンと腸の健康

By: Philip Rouchotas MSc, ND
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Phosphatidylcholine and Gut Health パートIで見たように、ホスファチジルコリンは細胞膜の構成要素として、そして膜の正常性を維持し、細胞間通信として働くといったことで、重要な機能を果たします。消化管の中では、バリアー機能と細胞膜の正常性の維持は特に重要です。数々の研究で、ホスファチジルコリンを潰瘍性大腸・結腸炎(1-3)および胃潰瘍(4,5)の治療として用いることに関する調査が行われました。これら両方の病状では、消化管の内膜の細胞の正常性が酷く損傷を受けており、激しい痛みと、潰瘍性大腸・結腸炎の場合には痙攣、下痢、そして出血が起こります。

ステロイド療法による効果が認められない潰瘍性大腸・結腸炎の患者60人を対象としたある調査では、12週間にわたる毎日4回の500mg(一日合計2g)のホスファチジルコリンの補給により、治療を受けた患者の50%において疾患活動性(訳者注:病気の進行度や症状、病気による機能障害の程度などの総称)が50%以上軽減したことが分かりました(1)。これは、同様の改善がプラセボグループの10%にしか見られなかったことと比較されました。それに加え、対照グループのたった10%と比べて、ホスファチジルコリンのグループの80%が病気を悪化させることなくステロイドの使用を中止することが可能だったのです。

二番目の調査では、ステロイド非依存性潰瘍性大腸・結腸炎の患者60人を調べました(2)。ホスファチジルコリン補給は、病気の寛解(訳者注:病気の症状が和らぐこと)率、内視鏡所見(訳者注:腸の内側の内視鏡と画像)そして生活の質スコアをプラセボと比べて著しく改善する結果となりました。

最後に、ステロイド非依存性の慢性的進行性潰瘍性大腸・結腸炎患者40人を対象とした三番目の調査が行われました(3)。この調査では、1日1gから3gまたは4gのホスファチジルコリン補給により、12週後の疾患の進行を著しく改善する結果となりました。これには、内視鏡所見の改善および腸粘膜癒合の改善が伴われました。注目すべきは、1gに比べると3gおよび4gの服用量は、寛解(訳者注:病気の症状が和らぐこと)を引き起こすことについて、より効果的でした。副作用は軽度から中くらいの腹部膨満と吐き気でした。

潰瘍性大腸・結腸炎に加えて、ホスファチジルコリンは胃の保護作用を示しました。動物では、ペクチン-レシチン錯体により胃潰瘍を治療することに成功しました(4)。人間では、アスピリンをホスファチジルコリン錯体として調合することにより、アスピリンの胃腸毒性が相殺されます(5) が、この胃腸毒性というのは潰瘍や腸出血という結果を招くことがあります(5)。これに伴い、炎症のマーカーは低下し、胃粘膜びらん数は標準的なアスピリン調薬で見られる数のほぼ三分の一へと減少しました。

パートIVでは、記憶や精神疾患予防といった健康な脳機能に果たすコリンの役割について検討します。



Phosphatidylcholine - A versatile medicine

パートIV:ホスファチジルコリンと脳の健康

By: Philip Rouchotas MSc, ND
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Phosphatidylcholine in Brain Health 脳内では、コリンは神経細胞膜の一部としてかつシグナリング分子の前駆物質として機能します。恐らくこれらの機能で最も重要なのは、細胞がお互いに信号を送り合うために使われる神経伝達物質の一つ、アセチルコリン(ACh)でしょう。AChは神経インパルスの伝達、筋肉のコントロール、そして記憶において重要な役割を果たします。ハーバードの精神科医たちは、脳内コリンとアルツハイマーや認知症のような神経変性疾患との関係を調査しました。

そのうちの主要な調査では、若者(20-40歳)と年配者(60-85歳)とで構成される参加者一群にコリンが経口サプリメントとして与えられました(1)。次に研究者たちは、血中コリン濃度おおび脳へのコリン取り込みを陽子磁気共鳴分光器(pMRS: proton magnetic resonance spectroscopy)と呼ばれる先端技術により測定しました。若者と年配者の参加者の血中レベルは同等でしたが、脳への取り込みについては若者の参加者で大きく増加(60%)した一方で年配者の参加者では大変小さい増加(16%)しかありませんでした。これは、記憶の衰えと老人性認知症との一要因としてコリンレベルの低下が結び付けられるだけでなく、とりわけコリン補給の効果が上がりそうな時間窓、人生の早い時期、が存在する可能性を示唆しています。

シチコリンとしても知られているCDPコリンという、わずかに形の違うコリンの補給は、年配成人の脳内でのホスファチジルコリン合成を優先的に増加させることが示されました(2,3)。結果として、シチコリンというコリンの形の、その記憶と認知障害に対する効果が更に研究されました。シチコリン補給により、老人性認知障害患者の言語記憶を含む記憶改善(4,5)および血管に関連のある軽い認知障害の年配患者の認知機能改善が示されました(6)。

最後に、コリンが発達における異なる時点で差別的に脳に取り込まれるという知見から、妊娠におけるコリン補給の役割に注目が集まりました。妊娠中のコリン補給は、子供の精神医学的あるいは神経学的疾患リスクを減少させるかも知れません。この問いはいまだに調査中であるものの、初期研究が行われ、そこでは第二三半期以降推奨量(パートI参照)の二倍のコリンを妊婦に補給しました。この調査では、コリン補給により統合失調症リスクの減少と関連した脳の発達パターンが引き起こされることが分かりました(7)。

まとめると、コリンやホスファチジルコリンは、肝臓の健康、腸の健康、神経学的健康といった人間の健康で様々な重要な役割を果たします。コリンは必須栄養素で、現在のところ十分な摂取量は一日あたり成人およそ500mgと定められています。