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腸と微生物叢:パーキンソン病への影響

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腸と微生物叢:パーキンソン病への影響
By: Maria Shapoval, ND

Integrated Healthcare Centre
1255 Sheppard Ave East
Toronto, ON, M2K1E2
mshapoval@ccnm.edu
http://ccnmihc.ca/practitioners/maria-shapoval



The Gut and Microbiota : Impacts on Parkinson's Disease




パーキンソン病は、年齢65歳以上の人口の1-2%が罹患し、ベビーブーム世代の人々が高齢化するにつれて、その懸念が増大しています。この病態には、歩行異常、ふるえ、筋肉の硬直、そして歩行・起立の困難という形で一般に見られる動作のスローダウンといった特徴があります。パーキンソン病は、神経変性運動障害と分類され、その原因や病理は複雑です。幾つかの疫学的調査により、殺虫剤、毒素、そして光害とパーキンソン病発症リスク上昇との因果関係が分っています。同時に、観察調査により、コーヒー摂取および運動の増加による保護作用があることが報告されています。遺伝子性素因は小さく、発病のたった20%です。

α-シヌクレイン

黒質内細胞のニューロン欠損に寄与することが分かっている幾つかのプロセスがあります。これらは、鉄沈着、酸化性ストレス、ミトコンドリアの損傷、そしてα-シヌクレインと呼ばれるたんぱく質の蓄積といったものです。α-シヌクレインは、神経伝達物質を含む小嚢が、シナプスに関与するための、細胞体から軸策までの輸送に携わっていると考えられています。パーキンソン病は、このたんぱく質が集積する唯一の病態ではありません[1]。このたんぱく質が病的に蓄積するという特徴のある病態の総称であるα-シヌクレイン症には、レヴィー小体病や多系統萎縮症といったものがあります。

The Gut and Microbiota : Impacts on Parkinson's Disease

運動症状に加えて、臭覚喪失、睡眠の乱れ、そして消化の不調といった非運動性異常も、パーキンソン病には含まれます。これらの表面上は無関係な症状に共通する犯人は、臭神経と消化管の迷走神経の内部にある末梢神経とに蓄積したα-シヌクレインです。ブラクは、パーキンソン病は腸から始まり、α-シヌクレインの蓄積が消化管の迷走神経を経て脳内に伝播するのではないかという仮説を立てました。実際、脳内における初期変性は迷走神経の細胞体から始まります。更に、運動症状に先がけて便秘症状が起こり、この仮説の重要性を高めています。パーキンソン病患者さんの消化管の微生物叢の観察データは、パズルのもう一つのピースを与えてくれます。パーキンソン病患者さんの微生物叢は、相当する年齢の健康な人のそれとは、構成および多様性という点で極めて異なります[1]。特に、パーキンソン病の患者さんでは、Christensella minuta, Catabacter hongkongensis, Lactobacillus mucosae, Ruminococcus bromii そして Papillibacter cinnamivoransに増加が見られます[2]。それと比較して、健康な対照群では、Bacteroides massiliensis, Stoquefichus massiliensis, Bacteroides coprocola, Blautia glucerasea, Dorea longicatena, Bacteroides dorei, Bacteroids pebeus, Prevotella copri, Coprococcus eutactus そして Rumino coccuscallidusといったバクテリアが認められます。

The Gut and Microbiota : Impacts on Parkinson's Disease

微生物叢が健康や病気に及ぼす大きな影響について分かるにつれて、今では微生物叢は“忘れられた臓器”であると考えられるようになりました。微生物叢は、食物の消化、栄養や毒物の生成、免疫システムの調整、血液脳関門の維持、そして神経システムにおける情報伝達に寄与することが分かっています。微生物叢は、痛みと消化管内の運動性に加えて気分に関わる神経ホルモンであるセロトニンの生産に影響を及ぼします。更に、微生物叢は、ニューロン間の新しい結合の発達を調節する脳由来の神経栄養因子の生産に加えて、それ自体がニューロンの新生も促す可能性があります。幼児期に微生物叢を取り除いたマウスの海馬には観察可能な変化が起こり、空間認識および物体認識の発達が良くありません。この微生物叢の変化がパーキンソン病の発症に実際どのように寄与するのかは、最近まで良く分かっていませんでした[1]。

微生物叢

ティモシー・サンプソンと彼のチームによる最近の研究で、パーキンソン病の病因における微生物叢の役割について詳細に調査しました。彼らは、微生物叢を含む糞便物質をパーキンソン病患者さんたちから集め、それをマウスの消化管に移植し、それを健康な対照群からの糞便物質移植と比較しました。パーキンソン病患者さんの微生物叢を移植されたマウスは、8週間以内に運動異常を発症しました。これらのマウスの糞便物質を集めて分析したところ、短鎖脂肪酸を生産するバクテリアの数が大きく増加していました。酪酸やプロピオン酸のような短鎖脂肪酸の増加もありました。神経自体を調べたところ、パーキンソン病ドナーからの微生物叢に対応するα-シヌクレインの集積が観察されました。これは、微生物叢がα-シヌクレイン集積を促す可能性があるという考えを支持します[1]。

更に、この研究では、これらの短鎖脂肪酸の働きを調査しました。マウスに短鎖脂肪酸高含有物を混合した餌を与えたところ、腫瘍壊死因氏α(炎症マーカーの一つ)、α-シヌクレイン集積が増加し、運動機能が低下しました。坑炎症剤を投与したところ、このプロセスに干渉し、たんぱく質集積と併せて運動機能障害が妨げられました。これは、微生物叢が大量の短鎖脂肪酸を生産することでα-シヌクレインの蓄積を促し、短鎖脂肪酸を中和することで運動症状発祥を妨げる可能性を示唆しています[1]。

短鎖脂肪酸およびそれらを生産するバクテリアの働きは、他の研究で矛盾する結果が報告されていることから、見かけほど明白ではありません。パーキンソン病患者さんから微生物叢を分離し、健康な対照群のそれと比較・分析しました。その結果、パーキンソン病患者さんの短鎖脂肪酸を生産するバクテリアの減少が示されています[3]。実際、この研究では、サンプソンのチームによって述べられた上昇とは反対に、酪酸およびプロピオン酸に統計的有意な減少が示されています。パーキンソン病患者さんのBacteriodetesおよびLactobacilliの減少は一貫して報告されていますが、一方、BifidobacteriumおよびEnterobacteriaceaは、サンプソンの研究と同様に増加が報告されています。短鎖脂肪酸は、血液脳関門の正常性促進と関係があるとされているため、結腸の健康だけでなく神経にも影響があることが分かっており、短鎖脂肪酸は腸神経システム内のニューロン活性に影響を及ぼす可能性があることが、幾つかの調査で報告されています。

The Gut and Microbiota : Impacts on Parkinson's Disease 食事と生活習慣

微生物叢の構成および多様性に影響する要素が多数存在します。抗生物質の使用後、消化管のバクテリアを回復させるために最長6ヶ月かかることが分かっていることから、本来、抗生物質は極めて大きな影響を及ぼします。抗生物質は、微生物叢の一部を取り去って他のバクテリアを繁殖させますが、これは、有害な病原バクテリアを取り除くことにより良い環境を作り出す、あるいは体に良い共生バクテリアを損なうことで炎症性の環境を促進する、といった二つの方向に細菌叢の構成を変化させる可能性があります。

環境汚染物質や毒素への曝露も、バクテリアの一つの属に有利に働くため、細菌叢の構成を変える可能性があります。ある種にとっては有毒と考えられる物質は、他の種にとっては栄養源となるかも知れず、その結果その種が増加する可能性があります。更に、バクテリアは自分自身の副産物を生産し、それが神経や免疫システムだけでなく消化管に住む他の生き物の健康に影響を与えるため、特定の種の増加は他の種の繁殖に影響を及ぼす可能性があります。殺虫剤は、パーキンソン病発病の危険因子と関係があるとされていますが、特定の科の微生物を破壊して微生物叢の構成を変える可能性があります。その一方で、殺虫剤を分解して、毒の作用から私たちを保護する能力があることが分かっているバクテリアも存在します。発酵乳酸桿菌および乳酸杆菌は、一般に使われている有機リン系農薬のクロルピリホスを分解します[4]。大腸菌も、かなり少量ですがクロルピリホスを分解します。パーキンソン病患者さんの微生物叢の構成の変化によって、健康な対照群の腸に存在する微生物叢により通常であれば排出されるはずの環境汚染物質や毒素への大量の曝露がもたらされるかも知れません。

あなたの食事は、微生物叢の構成の調節に関して最も重要な要素のようです。食事は、バクテリア源であることに加えて、バクテリアの増殖に必要とされる栄養素や基質を供給します。プレバイオティクスは、ほとんどが繊維、-善玉バクテリアの増殖を促す消化されない炭水化物-、で構成されています。パーキンソン病のリスクおよび保護因子に関する観察データは、コーヒーおよびブルーベリーの好ましい作用に加えて、乳製品の有害な作用についてのエビデンスです[5]。これらの食品は、ニューロンを保護し、坑酸化物質、栄養素をふんだんに供給し、そしてパーキンソン病に見られるような酸化性ストレスの増加をオフセットするような抗炎症作用を促すことで、運動機能に影響を与えます。そうは言っても、その消化管への作用を有することから、これらの食品も保護的と言えます。しばしば神経変性疾患に良いと言われる果物および野菜も同様に食物繊維含有が高く、主要なプレバイオティクス源となります。

微生物叢に影響を与える可能性のある要素は多様で、これらの生命体についての研究が進化するにつれ、それは増え続けます。これらの付加的要因のうちの幾つかは、地理的、性別、ホルモン、年齢、合併症等です。これらは免疫システムの働きに影響し、免疫システムはそれを受けて消化管に増殖するバクテリアに作用します。気分、不安、そして他の神経上の変化も、胃腸の働き、ですから微生物叢に影響を及ぼします。

結論

この微生物叢とパーキンソン病との間の複雑な関係の本質について私たちの理解が進む一方で、現在のエビデンスは微生物叢が根本的な問題である可能性を示唆しています。パーキンソン病患者さんの糞便物質の移植によりマウスの運動機能障害を引き起こす力は、パーキンソン病の病因が消化管にあるという仮説を補強します。ですから、パーキンソン病の治療法も消化管にあるかも知れないという仮説は理に適っており、ここが治療アプローチについて重要視すべき点かも知れません。