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心臓の健康に良い食事法の進化

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心臓の健康に良い食事法の進化
By: Erica Nikiforuk BSc, ND
White Lotus Integrative Medicine
18 Greenfield Avenue, Suite #201
Toronto, ON. M2N 3C8
www.whitelotusclinic.ca


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What is a “Heart Health Diet


パートI:心臓の健康に良い食事法とは何か?

“心臓の健康に良い“と見なされる食事の進化は、長い発展の過程を辿りました。例えば、低脂肪食事法、血糖指数(GI: glycemic index)食事法、地中海式食事法、低炭水化物食事法などがありました。それぞれに長所があるようですが、これは包括的な”心臓の健康に良い食事法“に従うのを紛らわしくしています。このシリーズでは、基礎的な最低ラインを定めることにより、これらの食事パターンとの共通点と相違点とについて吟味します。心血管の健康、糖尿病、そして減量のために最も一般的に推奨されている食事法の幾つかを見てゆくのと同時にそれぞれの健康上の成果と制限とを厳しく評価してゆきます。シートベルトをお締め下さい!

長い間、私たちは間違っていました。脂肪が問題であると思っていたのです。飽和脂肪とコレステロールとが心臓に悪いと何回も何回も耳にしました。“減量するためには高脂肪食品を避けなさい“と何年も説教されました。思い返せば、減量するために低脂肪食事法を支持するエビデンスは疑わしいものです(1,2)。低脂肪高炭水化物食事法はコレステロールと血糖レベル、心血管リスクに対してマイナスの影響すらあるかも知れず、特に糖尿病の人の心血管リスクを悪化させます(2)。今、私たちは”健康に良い脂肪“について知っています。

血糖指数(GI)食事法
食物の血糖指数(GI: glycemic index)という概念は、最初にデビット・ジェイ・ジェンキンス博士と博士のトロント大学の同僚とにより1980年代に提唱されました(3)。各種食品に、それらが代謝される際にブドウ糖レベル(血糖)を上昇させるその能力に基づいて順位を付けました。白砂糖を最高スコア(100)とし、他の全ての食品にはそれに対して相対的に値が定められました。タンパク質や脂肪の含有が高い食品は、分解するのにより長い時間がかかり、それゆえに低いGI値を持ちます。‘血糖負荷’(GL: glycemic load)は後に、各食品の糖上昇作用を更に精密に予想するために、一般的な分量に基づいて導入されました(4)。GLは、GIを単位分量中の炭水化物含有量で乗じて計算します。

GIの概念を応用するということは、健全な血糖レベルの維持を促進するために、第一に低GI食品を摂取し、それに加えて少量の食事をより高頻度取ることを意味します。健全な血糖レベルの維持は、糖尿病患者の主要な目的であるだけでなく減量したり大食を避けたりしたい人にも重要です。下記の表は、幾つかの一般的な食品とそのGI分類のサンプルです。

高GI食品(70以上) 中GI食品(56-69) 低GI食品(55以下)
白いパンまたはベーグル 全粒パン 大部分の野菜
白米 バスマッティ米または玄米 大部分の果物
多くの朝食シリアル オートミール 大麦
ジャガイモ パイナップル、レーズン 豆類、ひよこ豆類、レンズ豆類
パースニップ さつまいも 牛乳

GI食事法は多くの臨床試験のテーマとなりました。糖尿病患者に対する低GI食事法の効果(5,6,7)は、従来の糖尿病食と比較した際ですら(8)、終始一貫して報告されました。それとは対照的に、いくつもの大規模長期試験および学術誌に発表された総説において、高GI食事法は心血管疾患のリスクの増加を繰り返し示しました(9,10,11,12)。コックラン(訳者注:医療効果に関する最新情報を迅速に世界に提供する国際的非営利団体)の総説では、太り過ぎあるいは肥満の人々の間の減量のエビデンスが強調され、低GI食事法の被験者たちの体重と総脂肪量そして肥満度指数(BMI: body mass index)の減少が有意に大きいことが認められました(13)。低GI食事法のグループはカロリー数の制限がないときですら、同等あるいは従来のカロリー制限のある低脂肪食に従った比較対照調査グループよりも優れていました(13)。この総説では、血中脂質パラメターに対する低GI食事法のプラス作用についても注目されました。とりわけ、低GI食事法により、総コレステロール量と低比重リポタンパク質コレステロール(LDL-C: low-density lipoprotein cholesterol)レベルとが減少したました(13)。

GI食事法のエビデンスを概観しましたので、この記事の二番目のパートでは、心臓の健康のための“ゴールドスタンダード(至適基準)”として一般に引き合いに出される地中海式食事法にスポットライトを当てましょう。引き続きお読み下さい。



The Evolution of the Heart-Healthy Diet - Foods that work for weight loss, diabetes and cardiovascular disease

パートII:地中海式食事法

By: Erica Nikiforuk BSc, ND
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The Mediterranean Diet 地中海式食事法は長い間、心血管の健康のための“ゴールドスタンダード(至適基準)”として引き合いに出されてきましたが、これは南スペイン、イタリア、ギリシャの伝統的な食事パターンにインスパイアされた食事法です。この食事法では、果物と野菜、全粒の麦や穀物、魚、豆類、そしてオリーブオイルを多量に、低脂肪乳製品(大方がチーズとヨーグルト)と赤ワインを中程度の量、そして赤肉は少量、それぞれ摂取します(1)。

多数の臨床エビデンス全体を見渡すと、地中海式食事法は、血圧(2)や血中脂質パネル(2,3,4)の著しい改善およびアテローム性動脈硬化(“プラーク”)(3)や炎症マーカー(2)のの減少といった、数々の心血管パラメターに対する効果を示しました。同じく、糖尿病発症を防ぎ血糖耐性を改善する地中海式食事法のプラス効果も、全ての研究ではないにしろ(6)大半について書かれ(2,4,5)ました。この食事法は心臓発作後の患者の心血管の健康も改善し(7.8)、引き続き起こる心血管の大事による死亡のリスクを最大50%減少させる(9)ことを示しました。更に、地中海式食事法の心臓保護作用は、この食事法をやめた後ですら、そして体重が一部戻ったとしても(10)、多年にわたり維持されることが示されました。最後に、最近の総説では地中海式食事法を忠実に守ることにより、総死亡率(訳者注:原因を問わない死亡率)が低下すること分かりました(11)。

地中海式食事法は、2年間の介入で平均4.4kgの減量(10)を促進する(2,6,10)ことを示しました。カロリー制限のある地中海式食事法に従う参加者たちでは、調査終了の4年後になっても、低炭水化物食事法と比較した際に、より程度の高い減量を維持していることが分かりました(10)。この研究で注目すべきなのは、介入後に参加者の大多数(67%)が自発的にこの彼らに課せられた食事法を続けたことです(10)。

地中海式食事法の付加的効能の一つは、そのレプチンレベルを著しく低下させる効果です(1)。食後の満腹感を生む働きをするホルモンであるレプチンは、太りすぎや肥満の人々が減量する際の阻止要因の背後のメカニズムと関連があるとされてきました。レプチン抵抗性という用語は、高レベルのレプチンにより空腹のシグナルが“スイッチオフ”しなくなる状況を記述するのに用いられます。

最近のシステマティック・リビュー(訳者注:文献をくまなく調査し無作為化比較試験のような質の高い研究データを限りなく偏りを除いて分析したもの)では、地中海式食事法で良く摂取されている食品と心血管疾患との因果関係のリンクについて評価が行われました(12)。この研究による知見には、地中海式食事法の、特に野菜、ナッツ類そして一価不飽和脂肪を摂取することによる保護作用の強力なエビデンスなどがあります(12)。このリビューでは、乳製品による保護作用は弱い(12)とされた一方で、魚、全粒、アルコール、果物、そして食物繊維の心血管の健康に果たす役割を支持する中程度のエビデンスが注目されました。

さて私たちは興味の対象の食事法4つのうち2つ、低血糖指数(GI)食事法および地中海式食事法、を概観しました。このシリーズの第三のパートでは、議論の的である低炭水化物食事法に注意を向けましょう!



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パートIII:低炭水化物ダイエット

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The Low-Carbohydrate Diet 1990年代後半から2000年代前半にかけて、低炭水化物食事法は、その減量における印象的な結果により大喝采を得ましたが、それと同時に医療コミュニティでの議論も巻き起こしました。この食事法では、炭水化物摂取総量を一日あたりの総エネルギー摂取量の20%以下に制限しますが、その代わりに、動物性食品、魚、高脂肪乳製品、ナッツ類、種子類、そして油類のようなタンパク質と脂肪を多く含む食品が推奨されます。これは、当時推奨されていた典型的な高炭水化物食事法と全く逆の考えであったため、医療コミュニティから懸念の声が上がりました。

最初に、脂肪、特に飽和脂肪摂取を増やすことによる健康への影響に関して懸念の声が上がりました。次に、食事制限が厳しい場合にはこの食事法が潜在的にケトン症を引き起こすことから、多数の人々が慎重な姿勢を取りました。ケトン症というのは、体がエネルギー源として主に脂肪を消費する状態で、これは健康な人には良いのですが、I型糖尿病や長期のII型糖尿病のような血糖コントロール不全の人たちにとっては医学的非常事態に陥る可能性があります。これらの心配をよそに、低炭水化物食事法の人気は高まり続け、この食事法に関連する健康上の利点を支持する科学文献の量も増え続けました。2008年に米国糖尿病協会により、この食事法がII型糖尿病患者の短期的(最長1年までの)減量のための正当な戦略として認められ(1)、考えは少しずつシフトし始めました。

従来の低脂肪食と比べると、低炭水化物食事法はカロリー制限のないときでさえ、減量における著しい効果を誇っています(2,3)。

これは基本的に、低炭水化物食事法を行っていれば人は低炭水化物のものなら何でも自由に食べることができ、更に体重が減ることを意味するのです!これと同じ結果は、高炭水化物食や低脂肪食では決して見られませんでした。低炭水化物食事法の減量は、2年にわたるカロリー無制限の食事介入を受けた参加者で平均4.7kgと報告されました(3)。この数字は、もう一つのより短期間の研究結果と類似しています(4,5)。減量をもたらすことに成功した理由の一つは、食事量が制限されないときですら低炭水化物食事法が一貫して食欲を減少させ一日のカロリー摂取を自然に落としていったところにあります(5,6,7)。更にある調査では、低炭水化物食を摂取する人たちは低脂肪食を摂取する人たちと比べて、砂糖やデンプン質が多い食品に対する欲求が著しく減少することに注目しました(8)。

この減量促進の成功により、低炭水化物食事法は実に、血圧を低下させ、血糖コントロールとコレステロールのプロファイルとを改善するといった、心血管リスク因子を改善することも示されました(2,3,9,10)。II型糖尿病の患者を対象としたある調査では、低炭水化物食事法が血糖コントロールを改善し、参加者の大半が糖尿病の薬を減らしたりやめたりすることが可能であったことが示されました(11)。

しかし、別の長期的な研究の結果の全てが好意的という訳ではありません。長期的にこの食事法を用いると総死亡率(訳者注:原因を問わない死亡率)リスクが増加することから、低炭水化物食事法は短期的介入のみに留める必要のあることを示唆するいくつかの研究が、最近になって現れました(13,14,15)。低炭水化物食事法に対するなお一層の批判として、ある研究で確認された相当量のカルシウムの減少といったものがありますが、これは腎臓や骨に対する有害効果と解釈できます(16)。

このシリーズのパートIVでは、別の同じような大変人気のある食事法、旧石器時代食事法を吟味した上で、このシリーズで紹介した食事法全ての情報の最低ラインをまとめます。



The Evolution of the Heart-Healthy Diet - Foods that work for weight loss, diabetes and cardiovascular disease

パートIV:旧石器時代食事法

By: Erica Nikiforuk BSc, ND
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The Paleolithic diet 旧石器時代食事法を取りまく研究は、低脂肪食あるいは低コレステロール食に対して疑問を投じ続けています。この食事法は、人類が進化する大半の期間で常に摂取してきた食べ物をより正確に再現しているため、私たち人間の遺伝子に最も適している可能性があり、多くの“西欧的”疾患、中でも注目すべきは肥満、II型糖尿病そして心血管疾患に対して、主要な予防および治療となる可能性があります(1,2,3)。この食事法の背後にある論理は、農業の発展と食事に穀物が取り入れられてからの比較的短い期間に私たちの遺伝子が進化するのに十分な時間がなかったというものです(2)。

旧石器時代食事法は、赤身の肉、魚、果物、野菜、卵やナッツ類の摂取といったもので構成されます。全種類の穀物、乳製品、豆類とマメ科植物、塩、精製糖、加工油、清涼飲料水そしてビールは除外されます。研究の多くでは、卵(一日1-2個以下)、ジャガイモ(一日1-2個以下)、キャノーラ油やオリーブ油(一日小さじ1杯以下)やワイン(一日1杯以下)のような特定の食品目について制限量が認められています(3)。

旧石器時代食事法は、一貫して糖尿病(1,4,5)および健康な(6,7)人々両方の血糖コントロールを改善します。更に、旧石器時代食事法は、血圧を低下させ(1,5,6,7)、体重を減らし(1,4,6)、BMIを低くし(1,6,8)、レプチンレベルを低下させ(5)、血中脂質プロファイルを改善(1,7)します。脂肪細胞から放出されるホルモンであるレプチンは、太りすぎおよび肥満の人々の減量に対する抵抗の主要なメカニズムに関わっていることから、レプチンレベルに対する効果があるのは非常に重要な発見です(5)。穀物中の特定の成分が実際レプチン抵抗性を引き起こし食欲の調整を乱している可能性があることが提唱されました(5)。

減量については、旧石器時代食事法は、別の食事法と比べると、食欲の充足について一貫した改善を示しています(5)。食欲の充足は、旧石器時代食事法を地中海式食事法と比べると、20-30%改善することが報告されました(5)。カロリー摂取総量の自然な減少は、いくつもの研究において一様に注目されました(1,4,5,6)。この知見が示唆するものは、勿論、特に長期的な減量維においては、非常に大きいものです。ある研究で認められたカロリー摂取減少は、3ヶ月で約3.2kgの減量に相当するでしょう(5)。

面白いことに、旧石器時代食事法は、伝統的に推奨されている糖尿病食(1)および地中海式食事法(4)よりも、血糖負荷が低いことが分かりました。旧石器時代食事法と地中海式食事法との主な違いは、前者が穀物と牛乳の摂取はかなり低く、果物、野菜、ナッツ類と肉が高いことです(5)。旧石器時代食事法の限界は、乳製品全ての除外することによるカルシウム低摂取と、魚の高摂取による環境有害物質へのより大きな曝露の可能性です(3)。特に糖尿病患者たちに対する、食事でのタンパク質の高摂取の長期的効果は、今後の研究課題です。

まとめ
心臓の健康に良い4つの食事法についてのエビデンスを吟味することで、このシリーズは次の結論に達します。典型的な西欧的食事は、その栄養的構成が並外れて不良であり、体重増加、血糖調節異常、および心血管疾患リスクの増加で突出しています。非生鮮小麦粉製品や砂糖を含むような、比較的最近の人類の食事の進化は、私たちの遺伝子にはこれらの食品を消化する“準備”がないために、西洋的疾患が発症する元凶なのかも知れません。心臓の健康に良い、これら4つの食事法の中心にあるのは、高品質のタンパク源と良質の脂肪や油を取り入れることです。炭水化物が支配的な食事から、より高いタンパク質摂取に切り替えることは、心血管の健康にとって、少なくとも短期的に、効果があります。食事で摂取される脂肪の種類は食事中の脂肪総量よりもずっと重要です。地中海式食事法で奨励されている脂肪と油との組み合わせには、素晴らしい心血管保護効果があります。果物と野菜との摂取増加は、血糖調整、心血管の健康および減量に効果があります。慢性代謝疾患の予防と治療における、全体食品をベースとした食事アプローチを推奨するエビデンスには反駁することが不可能です。