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帝王切開 v.s. 自然分娩

Louise Wilson
BSc, ND

16 5月 2016
日本語

帝王切開 v.s. 自然分娩-早期曝露および後の健康上の影響

by Louise Wilson, B.Sc, ND

dr.louisewilsonnd@gmail.com


帝王切開 v.s. 自然分娩-早期曝露および後の健康上の影響

はじめに


非介入自然分娩であろうと、あるいは陣痛誘発や帝王切開であろうと、子供の誕生はワクワクし、かつ恐ろしく、圧倒的な経験で、これらの全てが人生の最初の一瞬にあるのです!計画通りに行かない誕生、お決まり通りでない誕生、そして幸運なことに帝王切開分娩(CD: caesarean delivery)のような処置が存在しますが、もし帝王切開がなければ分娩プロセスに伴われる悲しい結果に苦しむことになるでしょう[1]。自然分娩では母親や赤ん坊の命にリスクの可能性のある際に通常、帝王切開分娩が行われますが、一方でこの処置は自然分娩が可能である場合にさえも行われるほど広まりました[1]。現在のカナダの帝王切開率はおおよそ26%で、これは帝王切開出産の出現とその選択が高まったために、1990年代から45%の増加で、世界保健機関の推奨率である10-15%を超えています[1]。この処置が利用可能であることの重要性は疑いがありませんが、帝王切開の選択率の増加により、帝王切開で生まれた子供たちを有害で長期的な健康状態に陥らせ易くすることから、自然分娩と帝王切開との間の違いについての理解を深める必要性が高まっています。親は子供に最良の人生の始まりを与えたいと望みますが、子宮の内外での子供の発達と成長とを促す医学的および非医学的な異なる多くの推奨事項が存在します。これらの分娩方法の違いを理解すれば、推奨事項が良く定着し、子供の最適な健康の維持を助長するでしょう。


腸のフィーリング 腸のフィーリング

私たちの微生物の宿主である腸環境は、胃腸の健康から免疫、そして脳機能まで、一人一人の健康を形作っています[2]。幼児期には著しい生物学的発達があり、その発達は腸内細菌叢に大きく関与していることが知られています[3]。善玉バクテリアと病原菌とのアンバランスは、過多の健康上の悪影響を引き起こす可能性があることも知られています[4]。ですから、幼児期早期に適切な微生物に曝されて、その微生物が繁殖することは、宿主の現在および遠い未来の健康に不可欠です。新しい研究によって、胎児の腸のコロニー形成は早産期に開始されている可能性が示唆される一方で、一番最近の文献では、幼児の胃腸管は誕生時には元々無菌であり、分娩方法の違いは、後のバクテリアのコロニー形成に(保護的か病原性かの)影響を与えることが示唆されています[3,5]。自然分娩に関する研究の調査によると、この方法で生まれた赤ん坊たちでは、乳酸菌やバクテロイデスといった善玉バクテリア種のコロニー形成が優勢のように見えます[6]。これは帝王切開分娩で生まれた赤ん坊たちとの比較ですが、帝王切開の赤ん坊たちでは、通常皮膚や病院に生息しているブドウ球菌やアシネトバクターのような病原体となる可能性のあるバクテリアが混ざったコロニーが形成されていることが示されました[7]。更に詳細な研究では、帝王切開分娩で生まれた幼児たちは、自然分娩の幼児たちと比較して、バクテロイデス属のバクテリアが欠乏しており、エシェリキア属やシ赤痢菌が少ないことが示されました[8]。エシェリキア属や赤痢菌は通常は腸内に住む最初のバクテリアの1つで、他のバクテリアが腸に住むために居心地の良い環境を形成し、それを支えます[8,9]。これらの発見により、誕生直後の胃腸内に住む微生物の違いが示される一方で、より深い研究では、これらの差異が時間と共に明らかにされています。グロンルンドらは、帝王切開分娩で生まれた幼児の初期の腸細菌叢は、最長で生後6ヶ月の間、不安定な可能性があることを発見しましたが、更にサルミネンらによると、腸内細菌叢の違いは出産7年後にも見出すことが可能です[10,11]

この研究では、最初の直接曝露が腸の細菌叢に及ぼす影響が指摘されましたが、その一方で、幼児の微生物の発達には間接的な影響も重要です。体に良く栄養素が高く、免疫機能に不可欠である母乳は、腸内細菌叢の発達の重要なメディエーターでもあります。SIgAとして知られる母乳に含まれる抗体は、適切なバクテリアのコロニー形成を助け、幼児にとってより健康的な環境を作り上げることが示されました[12]。この抗体がないと、炎症性腸疾患(IBD: inflammatory bowel disease)の幾つかの兆候を含む、子供への長期的な影響が生じる可能性があることから、特に出産後数日間の母乳育児の重要性は際立っています。通常の分娩開始に先駆けて行われる帝王切開では、初期のホルモンのカスケードがなく、餌の供給に遅れが出る可能性のあることから、授乳は一般に遅れます[13]。帝王切開を行った多くの女性たちは最後には母乳育児を成功させますが、母乳育児を選択しない、あるいは選択できない女性たちにとっては、母乳の成長モデレーターの欠如は、帝王切開により既に乱されている子供の細菌叢の不調和を更に増長する可能性があります。


段階を定める 段階を定める

帝王切開分娩と自然分娩とでは胃腸バクテリアの定着に差異があることを、また胃腸管が幼児の健康や発育に大きな役割を果たすことが分かりましたが、ではこれらの異なる曝露の作用は何でしょうか?バクテリアのコロニー化の差異が、ひょっとしたら、免疫関連疾患のような後の深刻な健康問題の基礎を、人生最初の数分間で築いてしまうのでしょうか?誕生時のバクテリアへの曝露は、免疫認識のプロセスをスタートさせ、体が敵と味方とを区別するのを助けます。この差異を認識できないと、免疫システムが善悪を判断する能力が損なわれ、慢性炎、自己免疫、アレルギーや慢性疾患といった何らかの病気にかかり易くなります[3]。帝王切開分娩あるいは自然分娩で子供を産むように分けられたメスのマウスを用いたある研究では、異なる分娩グループ間の子供の腸内細菌叢の差異は、歳と共になくなることが分かりました[14]。しかし時を経ても異なっていたのは、2つのグループ間での免疫システムの不均衡で、自然分娩で生まれたマウスと比較して帝王切開分娩のマウスでは、制御性T細胞の値が低いことが分かりました。制御性T細胞は抗原認識において重要であることから、どのように生後早期の曝露が免疫機能に影響を与える可能性があり、そして一生を通してある特定の疾患への罹患することに大きく影響するかも知れないことを、このデータは示しています。膣分娩を帝王切開分娩と比較すると、アトピー性疾患は帝王切開後の幼児により多く現れるように見えます[15]。帝王切開は、喘息および食物アレルゲンへの過敏症の有意な増加率とも関連がありました[16,17]。帝王切開分娩で生まれた子供たちでは、セリアック病への罹患および胃腸炎による入院が有意に多いです[18]。これらの病態に加えて、この傾向に続くI型糖尿病の増加が見られ、メタ分析で幾つかの変数を制御すると、帝王切開分娩ではI型糖尿病が19%高いことが分かりました[19]


アクションプラン

では何をしたら良いのでしょうか?幼児の胃腸細菌叢と後の疾病との複雑な関連性についての研究はまだ新しく、自然分娩と帝王切開分娩との間の差異を打ち消すようなお決まりの戦略は現在のところ存在しませんが、将来、帝王切開後の新生児の治療となり得る幾つかの比較的シンプルな新しい方法があります。当該菌株種プロバイオティクス治療は、帝王切開分娩の場合に行うべき簡単な戦略でしょう。胃腸マイクロームや免疫機能に対するプロバイオティクス使用の有効性はスウォンジ・ベビーアレルギー予防試験によって明らかにされました[20]。この研究では、無作為二重盲プラセボ対照調査を用いて、新生児アレルギー予防としてのプロバイオティクス投与の評価を6ヶ月間および2年後に、行いました。毎日、妊婦(妊娠36週)たちに、100億CFUの乳酸菌(Lactobacillus salivariusおよびLactobacillus paracasei)およびビフィズス菌(Bifidobacterium animalis ssp. LactisおよびBifidobacterium bifidum)を含むプロバイオティクスのカプセル、またはプラセボを投与しました。子供が生まれた後、参加者の赤ん坊たちは毎日のプロバイオティクスのサプリメントを月齢6ヶ月まで行いました。(肌の過敏症で示される)アレルギー反応を月齢6ヶ月および年齢2歳の時点で評価しました。プラセボ群との比較では、プロバイオティクス群の幼児たちでは、肌の過敏症に57%の減少が見られ、プロバイオティクスが腸の細菌叢や免疫システムの発達に対して正の効果を及ぼしていることが示されました。前述した通り、母乳育児は新生児の腸に良い栄養を植え付け、健康的な免疫システムの発達を助けることから、健康的な腸のマイクロームを支えるのにも良い方法です[12,21]。不必要な抗生物質を避けるだけでなく環境曝露を最低限に押さえることは、更に病原菌の定住を抑えるでしょう[6]。母体の細菌叢を新生児に更に曝露させる直接のルートは発達段階にも存在します。現在、膣スワブを用いて帝王切開分娩で生まれた新生児たちへの善玉菌の”植え付け”を探求する研究があります。この研究では、帝王切開に先がけて母体の膣に当てておいたガーゼパッドを用いて、新生児の頭からつま先まで拭くことによって、これらの善玉バクテリアへの曝露を促します[22,23]。この手順に関する予備研究によって、帝王切開分娩で生まれた赤ん坊たちで、膣の微生物を一部回復することが可能であることが明らかにされていますが、長期的な有効性についての更に詳細な研究が必要であり、従来の医師会はこのような手順を支持していません[24,25]。新生児の現在および未来の健康に対する腸のマイクロームの重要性についての新しい研究が現れるにつれ、健康的な胃腸のエコロジーを発達させる目的の戦略が実用化され、この世界に生まれてくる方法についてほとんど選択肢のなかった子供たちの後の健康問題を減少させるのを助けることが、望まれています。

病院を後にする際に、この生まれたての赤ちゃんの沐浴、食事、そして一般的な世話についての大量の情報が両親に与えられます。しかし、帝王切開分娩と膣分娩とでの胃腸マイクロームの違いとなると、帝王切開に関連する長期的な健康問題についての情報は殆ど見付かりません。私たちが知っているのは、これらの小さな赤ん坊たちの免疫システムの発達が最初に接触するバクテリアによって影響を受け、この最初の接触は分娩様式によって決まると言うことです。生後早期の曝露と(免疫システムに関連するような)後の病気発症との因果関係が、研究によって分かり始めたところで、このような違いを減少させる目的の戦略を提供することは、歩き始めもしない赤ん坊が一生を通した健康に向かって数歩進むのに役立つことでしょう。