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生姜-月経困難症における抗炎・鎮痛剤

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生姜-月経困難症における抗炎・鎮痛剤

by Dr. Sarah King ND

Upper Beach Health and Wellness
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Toronto, ON
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upperbeachhealth.com



Ginger - Anti-Inflammatory and Analgesic in Dysmenorrhea




はじめに

生姜(Zingiber officinale)は、その嘔吐抑制剤としての働きで広く知られています。しかし、中国伝統医学では、生姜を筋骨格疾患の抗炎症剤として、2500年以上の間、使用してきました[1][2]。生姜は、ショウガ科に分類されますが、ショウガ科には、ターメリック(Curcuma longa)やガランガル(Alpinia galanga)のような他の多くの抗炎症ハーブが含まれます[3]。

研究者たちが、生姜の鎮痛性および抗炎症性をもたらす成分の調査を行ったところ、痛みに関連する医学的応用の幾つかの有望な結果が得られました。従来、西洋医学で生姜は痛みに対して処方されていませんが、生姜は症状が酷い、あるいは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:nonsteroidal anti-inflammatory drugs)や経口避妊薬の禁忌がある月経困難症の女性たちのための新しい治療法となる可能性があります。


生姜とβ-エンドルフィン

デンマークおよび米国で、関節炎通および運動後の筋肉痛(筋肉痛の開始の遅れ)における生姜の鎮痛剤としての利用について研究が行われました[4]。生姜の鎮痛作用は、そのβ-エンドルフィン(内因性オピオイド神経ペプチド)放出を促す能力に帰することが分かりました[2]。

興味深いことに、他の調査でも慢性骨盤痛におけるβ-エンドルフィンレベルについて調査が行われました。中国伝統医学(TCM:traditional Chinese medicine)の医師によって“うっ血”の診断を受けた複数男性では、β-エンドルフィンの血中濃度が著しく低いことが示されました[5]。中国伝統医学のうっ血の診断は、女性の月経困難症、子宮内膜症、月経出血中の凝血塊、そして鋭く重い拍動痛一般でも下されます。

月経前不快気分障害(PMDD:premenstrual dysphoric disorder)の女性を対象としてβ-エンドルフィン値の検査を行ったところ、月経周期の卵胞期および黄体期の両方で、β-エンドルフィン血中濃度が低いだけでなく、痛みや耐性の閾値が低いことが分かりました[6]。このように、β-エンドルフィンの低値には、慢性骨盤痛に取り組むにあたり、病態生理学的な意味があるかも知れません。


シクロオキシゲナーゼ阻害作用と抗炎症作用

6-ジンジェロールやジンジェルディオンのような生姜の根に含まれる成分は、シクロオキシゲナーゼ(COX: cyclooxygenase)およびリポキシゲナーゼのような酵素を阻害することが示されましたが、これらの酵素はロイコトリエンおよびプロスタグランジンの合成を阻害します[1][2][4][7]。生姜をリウマチ性関節炎[10]に加えて月経困難症[2][9][11]の患者さんに対して用いる際に抗炎症作用が見られるのは、このメカニズムによるものです。COXの薬学的阻害性は、何十年もの間、痛みや炎症に利用されてきました。最も有名なのは、関節炎に用いられるセレコクシブのようなCOX-2阻害剤や、COX-1およびCOX-2の両酵素を阻害するイブプロフェンおよびナプロキセンのような非ステロイド系抗炎症薬です。

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特定のショウガ抽出物であり、生姜をAlpinia galangaと掛け合わせたEurovita抽出物77についての研究では、サイトカイン、ケモカイン、そしてCOX-2といった物質が原因の炎症反応に関連する幾つかの遺伝子の誘導を阻害する作用が、この抽出物に備わっていることが示されました[9]。変形性関節症の患者さんが対象のある調査では、225 mgのEurovita抽出物77を一日二回、6週間服用したところ、プラセボと比較して痛みおよび強張りの有意な減少が示されました[10]。

補完的作用機構は、生姜の血液循環に及ぼす影響にあるかも知れません。効果的な抹消循環促進剤である生姜は、痙攣痛の緩和を助ける可能性があります[8]。これは中国伝統医学の理論と結びついており、中国伝統医学で血行の沈滞や停止は、深くて刺すようなズキズキとした痛みの原因とされています。ですから、中国伝統医学でも“血液や気のスムースな流れ”(中でも注目すべきは、月経出血に影響する肝臓の気と血流ですが)、と記述されているように、症状は血行の改善で和らぐかも知れません。


月経困難症における炎症

炎症経路の阻害剤、抹消循環のエンハンサー、そして効果の大きい鎮痛剤としての働きのある生姜は、月経困難症の代替治療あるいは補完治療として、是が非でも考慮されるべきです。

月経困難症の特徴は重度の月経痛ですが、ほとんどの場合、これは月経のある女性の最大50%で、月経の最初の数日に起ります[2]。とりわけ原発性月経困難は、患者さんが訴える痛みの原因であろうと思われる病態が何も特定できない際の診断です[4]。痛みは、子宮内膜内でのプロスタグランジンの生産増加[1]およびCOX-2活性増加によるものとされています。月経痛のない女性たちと比較して、月経困難症の女性たちでは、プロスタグランジンF2-aおよびE2に加えてロイコトリエンの値に上昇があることが、研究者たちにより発見されました[11]。炎症に関するこれらの物質の活性化も、痛覚感受性を上昇させる可能性があります[4]。

複数の研究によって、月経困難症は若い女性たちの学業、社会的活動、そしてスポーツ活動に影響する可能性のあることが示されました[11]。従来の治療法は、急性月経痛のための典型的な一次治療である、経口避妊薬あるいは子宮内プロゲスチン放出装置、そして非ステロイド系抗炎症薬です。イブプロフェン、ナプロキセン、メフェナム酸、そしてアスピリンといったものが効果を示しました[1]。そうは言っても、これらの治療法における月経痛緩和の失敗率は、20から25%です[2]。吐き気、消化不良、そして他の胃腸障害のような良くある副作用を理由として、これらの使用を避ける女性たちも一般的です[1]。


Tracking your Menstrual Cycles Demystified 月経困難症に対する生姜の有効性

原発性月経困難症における生姜の効能についてのメタ分析で取り上げられた複数の調査では、治療形態として、一般に乾燥生姜根茎パウダーが用いられました。これらの調合では、服用量に1000から1500 mgの幅があり、生姜の粉の重量は標準化されていましたが、ジンジェロールや他の構成成分の濃度についてはその限りではありませんでした[3][4]。それにも関わらず、生理痛に肯定的かつ統計的に有意な改善がほぼ全てに見られました。

ラナマらによるある二重盲プラセボ対照試験(2012)では、中度から重度の月経困難症の女性たちを対象として痛みの緩和に対する生姜の効能について調査が行われました[7]。治療では、乾燥生姜パウダーのカプセル1500 mgを、月経周期の1-3日目に毎日服用するというものでした。その結果、プラセボと比較して生姜は、痛みの継続期間および強さに有意な減少をもたらすことが示されました[7]。

生姜は、イブプロフェンやメフェナム酸と個別に比較しても、同様の有効率であることが、オズゴライら(2009)によって示されました[1]。中度から重度の月経困難症の患者さんたちは、上記三つの治療のうちの一つを受けるよう割り振られました。痛みの程度と疼痛緩和の満足度は、生姜のグループで62%、イブプロフェンで54%、そしてメフェナム酸で44%と、同等でした[1]。他のこの種の調査の大半ではVisual Analogue Scale(VAS)を採用しているのとは対照的に、オズゴライら(2009)は、痛みを原因とする日常生活における活動の制限に基づく尺度を結果測定法として用いました。

ジェナビら(2013)も、女性被験者たちの82%が生理痛の軽減に良いとした生姜療法の結果について肯定的でした[11]。これは、1500 mgを小分けにした服用量の乾燥生姜パウダーを、月経の1-3日目に服用するという治療法についての小規模な調査(n = 35)でしたが、知覚される痛みの変化はきわめて著しいもので、VASで3cmを超える減少がありました[11]。 これらの調査には制限があり、更に詳細な調査が必要とされています。多くの調査では、治療を月経1周期しかテストしませんでした。多くの女性が知っている様に、毎回の月経周期は多少異なります。つまり、痛みは周期毎に異なる可能性があります。食事や運動の要素も痛みや炎症に影響し、プロゲステロンおよびエストロゲンのホルモンレベルも同様でしょう。しかし、急性治療として、生姜は、非ステロイド系抗炎症薬に対する、より優れた安全プロファイルを持つ素晴らしい代替となるかも知れません[4]。グラッザナ(2005)は、薬がCOX阻害単独である一方で、生姜はCOXおよび5-リポキシジェナーゼの両方の酵素の二重阻害剤であることから、痛みと炎症に対するより良い治療効果がある[9]とすら提唱しています。

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このメカニズムによって生姜は、非ステロイド系抗炎症薬の貴重な付加療法となります。これは、補完作用が非ステロイド系抗炎症薬の働きを高め、その結果、薬の服用量を減少させるためです。


安全性、使用法、そして服用量

生姜の安全プロファイルは、同等の薬剤のそれを凌ぐものですが、服量ということになると、何時もの通り制限があります。人を対象とした薬学試験によると、大量の生姜、12-14g、を服用すると血小板凝集能が減少し、その結果、抗凝固薬の働きを高めます[8]。そうは言っても、この調査では、治療群とプラセボ群との間に出血時間の差異がなかったことが報告されています[8]。

乗り物酔いや船酔いのための、一般的な一回分の乾燥生姜パウダーの服用量には1-2 gの幅があります[12]。中国伝統医学では、乾燥生姜の妊娠中の服用量は最大一日2gです[8]。 変形性関節症の患者さんたちでは、一日340-1020 mgの生姜抽出物によって症状に著しい減少が見られましたが、これはジクロフェナクと同等の有効性であることが分かりました[1][3]。これらの知見や上で検討した調査に基づくと、急性生理痛に対して乾燥パウダーを、何回かに分けて、一日1-2g用いるのは合理的でしょう。月経1-3日目以外の慢性骨盤痛の他の病態に対する一日あたりの服用量の効能の評価については、更に調査が必要とされるでしょう。

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結論

痛みに対する生姜の有望な側面は、非ステロイド系抗炎症薬の必要性を軽くする、あるいは完全に無くすることです。更に生姜は、月経不順や他のホルモンのアンバランスが見られないにも関わらず合成ホルモン療法を用いなければならない女性たちの救いとなる可能性もあります。

生姜による治療は一般に、急性および慢性痛の両方を軽減することにおいて、抗炎症薬に匹敵する、あるいはそれ以上であることが示されました[3]。これは、非ステロイド系抗炎症薬の副作用に耐性がなかったり、それらの使用が禁忌であったりする女性たちにとって、安全で効果的な代替手段を提供するでしょう[1][12]。それに加えて、非ステロイド系抗炎症薬と併せて使用する際に、生姜は炎症経路における作用機構が類似していることから、非ステロイド系抗炎症薬の服用量を減少させるのにも役立つ可能性があります。 乾燥根茎パウダーの調合を、ジンジェノール(これは非ステロイド系抗炎症薬と同様の、プロスタグランジン合成を阻害すると考えられている活性成分)のような特定の化合物の標準化抽出物と比較し、結果の差異を徹底的に調査するような研究が更に必要とされています[1]。