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メトホルミン

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メトホルミン
糖尿病薬はガンと闘えるか?

By: フィリップ・フチョタス理学修士・自然療法医師 ボルトン自然療法クリニック
64 King St W, Bolton, ON L7E1C7
www.boltonnaturopathic.ca
info@boltonnaturopathic.ca



N-Acetylcysteine Little-Known Role in Mental Health


メトホルミンとは何か?

この号では、自然療法の出版物では聞き慣れない題目を取り上げましょう。処方薬メトホルミンの新しい抗ガン作用です。メトホルミンは糖尿病薬として最も良く知られており、一般にII型糖尿病および多嚢胞卵巣症候群(PCOS)のような糖尿病前症の第一選択の薬として使われます。腫瘍学を専門とする自然療法医の間でも、ガンの治療および予防におけるメトホルミンへの興味は次第に増えています。この記事では、この分野での認識を高めた初期研究に続き、提唱された抗ガン作用を説明する可能性のあるメカニズムについて概観し、最後に分野での臨床試験に基づくこの現在の臨床データについて見てゆきましょう。

メトホルミンは何よりもまず、高血糖治療薬かつインスリン増感剤です[1,2]。これは体内でインスリンの作用を改善し(血糖としても知られる)血中ブドウ糖の高値を調節することを意味します。このように、メトホルミンはII型糖尿病治療の第一選択です。II型糖尿病では、血糖を調節するホルモンであるインスリンの作用に対する感受性の喪失が見られます。正常な条件下では、インスリンは、食後時のような血糖上昇に反応してすい臓から分泌されます。インスリン受容体活性化によるシグナル情報伝達でカスケード状にイベントが起こり、血中からブドウ糖を取り込むために、細胞内でさらに多数のGLUT-4と呼ばれるブドウ糖受容体を細胞表面に動かします。最終結果として、血糖値が標準まで下がり、細胞内ブドウ糖がグリコーゲンあるいは脂肪として貯蓄されます。

II型糖尿病患者や、多嚢胞卵巣症候群などの糖尿病前症患者では、細胞表面上インスリン受容体がインスリンに対して適切に反応しなくなります。これにより、さらに強いシグナリングを作るために体がより大量のインスリンを生産し、血中インスリンレベルが上昇します。インスリンレベル上昇は、多嚢胞卵巣症候群のように他の部位でのホルモンバランスを悪化させる一因となる可能性があることから重要で、そしてこれはガン発症においても重要かも知れません(引き続きお読み下さい!)。糖尿病前症の初期では、減衰したインスリン感受性を克服し血糖値を正常範囲に戻すだけで十分かも知れませんが、これは糖尿病の進行と共に十分ではなくなり、インスリン受容体機能障害を克服するために十分なインスリンが生産できなくなります。この時点で、メトホルミンが処方される可能性があります。

メトホルミンは、肝臓酵素のAMP活性タンパクキナーゼ(AMPK: AMP-activated protein kinase)を標的にするという肝臓への作用を介し、間接的にインスリン受容体の反応性をあげることで血糖値を低下させます[1]。メトホルミンは肝臓のブドウ糖生産(肝臓でのグルコース新生)を減少させ、インスリン受容体発現にプラスの影響を及ぼします[1,2]。一般に、メトホルミンの安全プロファイルは良好で、最も良く報告される副作用は消化不良とビタミンB12レベルの低下です[3]。


ブドウ糖とガンのリスク ブドウ糖とガンのリスク

ガンと糖尿病との関連は、科学文献で十分に立証されている現象です。糖尿病患者はより高い癌発症リスクがあります。例えば、患者30,000人を対象とした日本でのある研究では、糖尿病患者の間でガンリスクの穏やかな上昇がありました[4]。9%というガンの総リスク上昇の傾向(有意ではない)が、糖尿病の男性の間に見られました。糖尿病の女性の間では、ガンリスクの35%の(有意な)上昇がありました。これは、肝臓ガン、胆管ガン、胃ガンそして喉頭ガンといった特定部位のガンでも有意でした。

もう一つの研究では、非メトホルミン糖尿病薬の投薬を受けていた糖尿病患者の間でガンリスクの上昇のあることが分かりました[5]。この研究は、各種糖尿病薬の新規ユーザーの患者10,000人以上が対象でした。たった5.4年の追跡期間の後で既に、メトホルミンの投薬治療を受けた患者たちと比較して、スルホニル尿素類の投薬治療を受けた患者たちでガン発症リスクが有意に高く、インスリンの投薬治療を受けた患者たちでガン死リスクが有意に高かったのです。これらの観察がスルホニル尿素類やインスリンの有害作用を反映しているのか、またはこれはメトホルミンによるリスクの減少を反映しているのか、はっきりしていません。

他のデータにより、結腸直腸ガン[6]、肺ガン[7]そして乳ガン[8]のリスク因子としての糖尿病の存在が確認されました。[8]

糖尿病にはガン治療の結果不良との関連性もあります。例えば、外科的治療(前立腺全摘手術)を受けた患者たちを対象としたある前立腺ガン研究では、より積極的ガン治療を受けたにもかかわらず、肥満男性たちで転移(ガンが遠くの部位に広がること)リスクが4倍だったのです[9]。別の研究では、診断時に糖尿病であることは、結腸直腸癌による死亡を独立して予測していました[10]

さらに最近明らかになったのは、メトホルミン投与を受けている糖尿病患者たちでは、ガン発症リスクが“同等者”(糖尿病の診断などの同じ様な特徴があるもののメトホルミン投与を受けていなかった患者たち)と比較して、より少ない可能性があることです。この作用のメカニズムは現在、活発に研究されています…。


メカニズム メカニズム

メトホルミンに抗ガン作用がある可能性を示す実験室ベースの研究は、ほぼ10年前に最初に現れました[11,12,13]。これらの研究は、メトホルミンがガン細胞の成長をAMPK抑制により抑えることを示していますが、AMPKというのはラパマイシンの哺乳類標的(mTOR)経路を抑制します。mTORタンパク質は細胞内のタンパク質の翻訳および発現、そして細胞増殖の調整のために重要です[11, 13, 14]

動物モデルでは、抗エストロゲン剤であるタモキシフェンと共に用いたメトホルミン治療が、乳ガン腫瘍の成長の抑制を増強することが示されました[15]。この作用はAMPK / mTOR / p70S 76経路に加えて、細胞死を引き起こすもう一つの細胞経路であるBax / Bcl-2アポトーシス経路への作用と関連があるとされました[15]

もう一つの潜在的な、でもそれほど徹底的に調査されていないメトホルミンの抗ガン作用は、そのインスリン低下作用である可能性があります。インスリンは、インスリン様増殖因子I(IGF-1)のような増殖因子を増加させますが、この増殖因子はガン細胞の装飾を促進する可能性があります[16]。2008年のある研究では、糖尿病ではない初期乳ガンであるもののインスリン値が45 pmol/L以上の女性たちを対象として、メトホルミンによる治療を評価しました[17]。残念なことにこの研究はガン治療の結果を評価するためにこの患者たちを追跡調査しませんでしたが、糖尿病はなかったにも関わらず、有意に低い空腹時血糖、インスリン感受性の改善そしてほとんど2kgの減量がメトホルミン(一日1500 mg)と関連することが示されました。

メトホルミンは、乳ガン患者のホルモンレベルを調整する可能性があります。糖尿病ではない乳ガン患者を対象としたある研究では、1500 mgメトホルミンを服用している女性たちはインスリンが25%低く、テストステロンが23%低く、そして遊離アンドロゲン指標が低かったのです[18]。もう一つの研究では、メトホルミンにより、非糖尿病性乳ガン患者たちのテストステロンおよびエストロゲンの両方が低下しました[19]。合わせると、mTOR経路へのメトホルミンの作用と組み合わせたこのデータは、この薬剤が非糖尿病患者にでさえ有用である可能性を示唆しています。多数の人々がインスリン耐性(糖尿病前症)、つまりインスリンレベルの上昇があるもののまだ診断基準は満たさないことを考えると、これは特に意味があります。


メトホルミンとガンのリスク メトホルミンとガンのリスク

メトホルミン抗ガン作用の最初のデータはBritish Medical Journal 2005年の研究からのものです。この研究では、11,000人を超えるII型糖尿病の診断を受けたスコットランド人患者のグループを分析しました[20]。メトホルミンの治療を受けなかった患者たちと比較して、メトホルミンの治療を受けた糖尿病患者の間では、ガンのリスクが低く、補正オッズ比0.77(95%信頼区間0.64-0.92)でした。これはメトホルミンの使用に関連するガンリスクが23%低いことを示しています。興味深いことに、高用量のメトホルミンの投与を受けた患者たちのリスクが平行して減少するという、用量反応曲線も見られました。

もう一つの研究では、前立腺ガンの診断に続くメトホルミンの使用累積期間は総死亡率および前立腺ガンによる死亡率と関連があることが分かりました[21]。同様に、糖尿病の結腸直腸ガン患者たちで、メトホルミン治療を受けていない糖尿病患者と比較して、高用量のメトホルミンの使用は、結腸直腸ガンによる死亡の、50%以上という、有意な減少と関連がありました[22]。もう一つの研究では、メトホルミンを服用しない糖尿病患者は、メトホルミンを服用している糖尿病患者および糖尿病でない患者たちと比較して、尿路上皮ガン患者のガン転帰不良により大きな関連があることが示されました[23]。糖尿病の乳ガンの女性たちでは、メトホルミン服用は生存率を増加させることが示されました[24]

これまでの臨床試験からの少量のデータが存在します。ある研究では、乳ガンの手術を受けようとしている糖尿病でない女性たちを対象として、細胞増殖のマーカーであるKi-67に対するメトホルミンの作用を評価しました[25]。この研究では、著しい効果は全体として見付かりませんでした。しかし、インスリン耐性のある女性たちのマーカーに注目すると、有意でないものの10%という著しいKi-67の減少がありました。インスリン感受性が良好な女性たちは、有意ではないものの11%増加しました。

もう一つの乳ガンのパイロット研究では、手術前一日1000gのメトホルミン服用と関連してKi-67の有意な減少があることが分かりました[26]。女性たちは無作為に、メトホルミン治療に振り分けられ、生検を受ける前2週間メトホルミンを服用しました。メトホルミン服用後、主要組織の増殖指標であるKi-67が、メトホルミンを服用した患者たち、とりわけ糖尿病ではない女性たちで有意に低くなりました。同様の効果がもう一つの調査でも確認されました[27]

現在進行中のある無作為二重盲検プラセボ対照試験では、糖尿病でない患者たちの前ガン状態の結腸直腸ポリープの予防に対するメトホルミンの能力を評価しています[14]。以前、同じチームが行ったあるパイロット研究は、糖尿病でない直腸異常腺窩巣(ACF: rectal aberrant crypt foci)(結腸前がん病変)患者26人を対象に行われました[28]。患者たちは無作為にメトホルミン一日250mgあるいはプラセボに振り分けられました。1ヶ月後、メトホルミン群では患者あたりACF数の平均に有意な減少がある一方で、対照群ではこれについて変化がありませんでした。それに加えて、細胞増殖の尺度である増殖細胞核抗原指数が、メトホルミン治療を受けた患者たちの正常な結腸組織内で優位に減少しました。

ガンのリスクやがん治療に及ぼすメトホルミンの作用に関するデータは、主に観察データに基づいています。無作為対照試験で抗がん作用を評価する多数のトライアルが現在進行中です[16]。さらに進んだ研究でもまだ答えの見つかっていない問題の1つは、糖尿病患者たちが経験するメトホルミンの抗がん作用は、糖尿病ではない患者たちにも等しく真実かどうかということです。