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運動中および回復期の急性炎症-自然療法的な視点から

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運動中および回復期の急性炎症-自然療法的な視点から

by Dr. Sarah King ND

Upper Beach Health and Wellness
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Toronto, ON
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upperbeachhealth.com



運動中および回復期の急性炎症-自然療法的な視点から


はじめに

急性炎症は組織の損傷に対する正常な反応で、一般に痛み、赤み、そして腫れが伴われますが[1]、これらは全て、体の動きを妨げます。ですから、この炎症がなくなってより快適に運動出来るようになりたいと願うのは自然なことです。しかし、炎症には意味があり、短期的には特定の役割があります。

筋肉や血管組織が損傷を受けると必ず、直ちに免疫システムが刺激され、血管を拡張し損傷部位への血流を増加させて白血球細胞を移動させます。損傷を解決するための手段として、炎症メディエーターが細胞から放出されます。しかし、再び怪我をして不完全な治癒・炎症が繰り返し継続する可能性は常にあります[2]。この炎症後の不完全な組織修復は、ガンを含む様々な慢性疾患の原因となる可能性があります[1]

運動や正常な“消耗”自体はある程度の炎症を引き起こします。プロスタグランジンのような炎症性メディエーターは通常、腱細胞の繰り返される動きによって生産されます。一例として、ウルトラマラソンを走ると足、脚や臀部の腱に炎症性サイトカインとプロスタグランジンとが自然に生産されます[3]が、この同じプロスタグランジンは怪我の開始時点でも生産されます。このメディエーターは、炎症プロセスを引き起こすのと同じくらい治癒も促させます。線維芽細胞とコラーゲン合成とによって組織を再構築するのも、炎症プロセスの一部分です。実際、炎症プロセスはもし組織が修復および回復するならば良いことです。しかし、付加的ストレッサーや炎症経路を促進する要素への暴露は、慢性的な問題を引き起こす可能性のある周期的慢性炎症状態において、特定の役割を果たしています[4]

体のストレス反応およびコルチゾール分泌は炎症の介在を助けます。低レベルのコルチゾールは直接、炎症性サイトカインであるマクロファージ遊走阻止因子(MIF: macrophage migration inhibitory factor)に作用する一方で、高レベルのコルチゾールはマクロファージ遊走阻止因子分泌を減少させます[1]。マクロファージ遊走阻止因子は、炎症性メディエーターであるシンクロオキシゲナーゼ-2(COX-2: cyclooxygenase-2)およびプロスタグランジンの上方制御に携わっています。

これは、運動療法とストレスの高い生活習慣との両方における回復が必要であることを表しています。これは、よく運動する人たちの大半に当てはまりますが、通常一日に一セッション以上のトレーニングを重ねるプロ運動選手には更にずっと困難です。それでも、肉体機能に適切な回復は必要不可欠です。しかし、特別なイベントや特定の季節のためにトレーニングを行っている人にとって“回復”は主観的なもので、追加のワークアウトをやり通すため、あるいは不快感を和らげるために、抗炎症剤がしばしば利用されます。


急性炎症 Acute Inflammation in Physical Activityand Recovery - Naturopathic Perspectives

水ぶくれやタコの視点から急性炎症を考えてみます。あなたはゴルフを始めてゴルフレンジに行きたいと思っているとします。あなたがゴルフボールを打つにつれて、手は繰り返しゴルフクラブの柄から摩擦を受けます。その日の終わりには、その摩擦であなたの手に水ぶくれが出来てしまっていることに気付きます。あなたは痛みから、この水ぶくれが治癒するのを待とうと決めるのです!これはつまるところ、赤み、腫れ、当該部位への体液の移動、触ることによる痛みといった炎症です。あなたは組織が回復するのを待ち、体液は次第に少なくなり、肌が下から再生します。あなたがシーズンを通してゴルフを続けるにつれ、あなたは初日のような水ぶくれにならないことに気付くでしょう。そして、繰り返し摩擦を受けたあなたの手全体に固いタコが形成されていることに気付きます。これらのタコは防護手段として形成されました。あなたの皮膚は経験上、あなたがその部位を継続して損傷するであろうことを“知っている”のです。肌は保護シールドのように厚くなります。このように、短期的な炎症は良いものです。重要なのは、組織が治癒するのを待つことです。組織が一旦怪我から回復したら、より強くなり、繊維素とコラーゲンとの堆積が増加すると同時に、下にある皮膚組織は再構築されます。

さて、ゴルフレンジでの初日の後、翌日もゴルフをしようと決心したと想像してみて下さい。あなたの手は痛み、ほとんど皮が剥けていますが、イブプロフェンのカプセルを数錠飲み、痛みをなんとかやりくりして打席に立ち、クラブを振り回しています。この場合に一番起こり得るシナリオは、水ぶくれが破け、組織がむき出しになり感染し易くなるというものです。それに加えて、あなたの手は出血し始めます。あなたがグリップを調整したために新たな水ぶくれが出来た可能性があり、その日の終わりまでには(そしてイブプロフェンが切れた後には)、練習開始前よりも更に酷い組織の損傷が更に酷く痛むことでしょう。

このプロセスは、多くの種類のストレスや怪我と照らし合わせることが出来ます。ストレス自体は実際には良いものです。あなたの体には短期的ストレスから回復する力があります。そのストレスになんとか対処して回復しなければならないことが、長期的にシステムをより強くします。しかし、人が慢性的にストレスを受け、働き過ぎ、休暇の時間が皆無で、瞑想やマインドフルネスのテクニックは用いず、継続的にストレスの高い人たちや出来事に曝されている際に、体はあなたが十分回復して新しく遭遇するストレスに対処できる程度に治癒するための主要栄養素やエネルギーを使い果たしてしまいます。


非ステロイド抗炎症剤(NSAIDs: Non-Steroid Anti-Inflammatory Drugs)

私たちの棚の中には炎症緩和に利用する、イブプロフェン、ナプロキセン、そしてアセチルサリチル酸(アスピリン®)といった製品が何ダースもあります。私たちは痛みを和らげるための鎮痛剤、そしてアルニカ、ジクロフェナク、温冷感覚誘発剤やその他といった大量の外用調剤薬を持っています。しかし、私たちは組織を強化しつつ治癒を促すために、これらの製品の利用方法について考えるべきかも知れません。

市販の(OTC: over-the-counter)抗炎症剤は一般に、アラキドン酸からプロスタグランジンを生産する際に使われる酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX: cyclooxygenase)を阻害することで効果を発揮します。幾つかの調査では実際に、このシクロオキシゲナーゼを阻害すると、コラーゲン合成を妨げて腱の治癒を損なうかも知れないことが示されました[3]。怪我は一時的に楽になるかも知れませんが、この特定の炎症経路は治癒プロセスに一役買っている可能性があります。

非ステロイド抗炎症剤は、炎症に対して最も良く処方されますが、炎症を促進する他の免疫メディエーターの生産を阻害しません[5]。変形性関節炎およびリウマチ性関節炎の患者さんでは、非ステロイド抗炎症剤は関節軟骨の分解を促進する可能性があります[5]。それに加えて、非ステロイド抗炎症剤には胃潰瘍や卒中や心血管系イベントのリスク上昇といった重い副作用があることが知られています[6][7]

全体として、痛みの軽減に必要とされる時間および部位が必ずありますので、それがあなたにとって正しい選択であるかを主治医と話して下さい。しかし、運動による毎日の消耗を管理し、非ステロイド抗炎症剤や鎮痛剤の定期的あるいは日々の利用を避けるための方法を理解することが重要です。筋肉痛の始まりの遅れを小さくするためのホームケアや自然療法が多く存在します。


炎症の解消:健康な組織の治癒

比較的高い強度の運動セッションやイベントの合間の回復は、体やその組織が物理的なストレスに順応するために必要です。運動選手はしばしば、冷水や抗炎症剤を患部に塗布して激しいトレーニングのスケジュールに順応します。冷水療法はトレーニングセッションの合間の回復時間を減少させるだけでなく、乳酸の蓄積を低下させて筋肉疲労や筋肉痛を軽減することも示されました[8]。これは活動が平均的な人にも応用できます。筋肉組織を治癒するために回復は必要ですが、短期的な冷湿布は運動後の痛みと筋肉痛とを軽減するのに役立つ可能性があります。

Acute Inflammation in Physical Activityand Recovery - Naturopathic Perspectives

水治療法、とりわけ温水と冷水とを交互にあてがうのは、受傷後24時間以上の過労、捻挫、打撲、そして腫れに対する素晴らしい治療法です[9]。シャワーや風呂の温度の寒暖を交互に変えると免疫システムの刺激よび治癒を促します[9]。一般的なガイドラインとして、部位や体を温・熱水(43°C以下)に三分間曝し、次に冷水に30秒切り替えます。これを3-6回繰り返し、(冷水は症状を悪化させることから、リウマチ性関節炎の場合以外は)必ず冷水で終了して下さい。他に、アルニカジェルおよびメンソール・カプサイシンを含む温・冷感湿布といった外用薬もあります。

フォームローラーは、組織をマッサージし筋肉痛開始が遅れるのを減少させることが示された筋肉痛を予防するのに有効な素晴らしい例です[10]。フォームローラーは理学療法士と一緒に、あるいは自宅で行うことが可能です。フォームローラーは非常に費用効果が高く、特定の筋肉群に圧力をかけるのに自身の体重を利用します。


クルクミンと関節炎

炎症は関節炎において非常に大きな役割を果たし、その痛みは、しばしば患者さんの運動する気をそがせます。関節炎は炎症の慢性的な形態であると考えられていますが、患者さんには運動や患部の動きに応じて急性疼痛の激発が起こりがちです。関節炎の人たちでは一般に、オメガ-3脂肪酸、レスベラトル、そしてクルクミンのようなナチュラルな抗炎症剤の長期的使用による恩恵が大きいでしょう[5]

クルクミンは伝統インド医学で数千年間利用され[5]、その抗ガン、抗炎症、抗酸化、そして肝臓保護作用は広く研究されています[1]。クルクミンは間質コラゲナーゼを活性化すると同時に、炎症性メディエーターを阻害します。クルクミンは体内の抗酸化物質の力を増大し、運動による酸化性ストレスを弱めます[11]

Acute Inflammation in Physical Activityand Recovery - Naturopathic Perspectives

リウマチ性関節炎の患者さんには、クルクミンは滑膜線維芽細胞の過形成を制御する可能性があることから、プロテクターそして抗炎症剤として働きます[5]。非ステロイド抗炎症剤の使用が確実な場合、怪我と医者の推奨によっては、クルクミンの併用により必要とされる非ステロイド抗炎症剤の容量が減り、クロオキシゲナーゼ阻害薬がより安全な濃度となるかも知れません [5]。非ステロイド抗炎症剤とは対照的に、クルクミンは胃腸に及ぼす副作用が全くないことから、これは胃の弱い患者さんにとっては更に関連性が高いでしょう[5]


結論

全体として、組織の治癒を促進する数多くの選択肢が存在します。筋肉の休息および回復は適切な治癒と正常な機能とに欠かせませんが、これはスポーツのパフォーマンスを最高にするためにも必要なことです。[12]。急性炎症は自己制御的なプロセスであり、非ステロイド抗炎症剤により当面の痛みの軽減がもたらされても、その常用は健康に良くないかも知れないことに注意するのが大切です。水治療法や冷水パックで痛みの軽減を行うと同時に組織を治癒させるような他の代替手段を探し、将来の怪我の予防対策に取り組むことには価値があります。これは運動後のフォームローラーの習慣、筋肉組織の水分補給のための十分な水分摂取、一週間のうちの休息、そしてオメガ-3脂肪酸源を含む全体食の食事摂取を行うことで達成可能です。