不安障害のための栄養療法と漢方薬
不安障害のための栄養療法と漢方薬
自然療法によるアプローチ
不安症は、非常に一般的なメンタルヘルス障害で、生活のあらゆる面に影響を及ぼす恐れがあり、金銭や人間関係、健康の問題など、様々な要因により生じる可能性があります。不安症の治療には、漢方薬やサプリメント、ライフスタイルの変更をはじめ、自然療法が適しています。
不安症の症状:[1]
- 過度の心配性
- 睡眠障害(不眠症)
- 筋肉の緊張(首/肩)
- 頭痛
- 倦怠感
- 動悸、息切れ
- 集中困難
- 胃腸障害やその他の心身症
不安症には、全般性不安障害、社会不安障害、パニック障害など、様々な種類があります。不安症の治療にまず選ばれるのは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬です。[2]その他、ベンゾジアゼピン、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(ノルエピネフリンなどのSNRI)、三環系抗うつ薬もあります。うつ病も非常に一般的な併存症です。
同じ症状が生じる他の疾患が数多くあるため、不安症を適切に診断することが重要です。こうした疾患には以下が含まれます:[3]
- 甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症
- 薬物依存症
- クッシング症候群
- 褐色細胞腫
- うつ病
- 統合失調症
- 不整脈
- 呼吸障害
- 心的外傷後ストレス障害
不安症の原因
臨床自然療法の観点からみれば、不安症は、甲状腺の機能不全(準臨床的)、ホルモンの不均衡、慢性の痛み/線維筋痛症、血糖値の不均衡、ビタミン不足などでも生じます。
Psychological
心理学的には、トラウマなどの幼少期の有害事象や、時間の経過とともに生じた思考パターンの変化により不安症が生じる場合があります。不安症には、全般性不安障害や特定の状況(対人関係やパフォーマンスなど)に対する恐怖などが含まれるため、幅広い用語かもしれません。より深刻な不安症はパニック障害で、生命に対する危機感を伴います。
炎症
医学的に注目されているのは、全身性炎症により不安症などのメンタルヘルス障害が生じる可能性がある点です。軽度の慢性炎症や炎症疾患(炎症性腸疾患、関節リウマチなど)に伴い、不安症やうつ病が生じることが多くあります。
こうした精神疾患に関する観点からみると、クルクミンなどの抗炎症作用がある薬草もメンタルヘルス障害に効果があります。
Endocrine
ホルモン異常や甲状腺疾患、副腎疾患など、特定の内分泌系の不均衡により不安症が生じる恐れがあります。
低プロゲステロンレベルやエストロゲン優勢、低エストロゲンレベル(閉経期)などのホルモンの変動が、不安症に伴い生じる可能性があることが、医学的および臨床的に証明されています。こうした症状は、月経前症候群(PMS)の特徴です。
臨床的には、床下部下垂体副腎皮質(HPA)系の機能障害、つまり「副腎疲労」や甲状腺機能障害に伴い不安症が生じる可能性もあります。
Nutritional
微量栄養素(ビタミンB、マグネシウム、鉄分)と特定の主要栄養素(タンパク質、体に良い脂肪)が不足すると、不安症が生じる恐れがあることが、研究および臨床的に報告されています。また、腸のマイクロバイオームが脳機能と相互作用することから、同様に腸の健康状態も不安症のリスクに影響を与えます。
漢方薬
パッションフラワー、バレリアン、レモンバーム、スカルキャップ、カモミール、カヴァなどのハーブが、不安症の治癒のために研究されています。
Passionflower and Kava
ある比較研究において、全般性不安障害の患者にパッションフラワーまたはベンゾジアゼピン(オキサゼパム30 mg /日)を1日あたり45滴与えたところ、不安が軽減されました。[4]グループ間に大差はみられませんでしたが、パッションフラワーを摂取したグループは、認知能力を要する作業をより支障なく行えました。パッションフラワーには抗不安、鎮静、鎮痛作用があり、不眠を伴う不安症に効果があります。[5]カヴァは、様々な不安症の改善や、多様な伝統文化において用いられています。ただし、高用量400 mg / 日以上服用すると、肝障害が生じる恐れがあるため、注意が必要です。
Lemon Balm
レモンバーム(セイヨウヤマハッカ)は、神経系に対して強壮、駆虫、鎮静、抗うつ、鎮痙作用があるといわれています。[6]こうした性質により、過敏性腸症候群(IBS)などの消化器系の苦痛を伴う不安症にも役立ちます。IBSは、腸が脳とつながっていることから、心の健康に影響を与えるといわれています。また、レモンバームには甲状腺の機能を回復させる効果もあり、甲状腺機能亢進症に伴う不安症に有効で、シロネやレオノチスとともに役立ちます。
Lavender
ラベンダーのサプリメントとアロマセラピーエッセンシャルオイルの両方が、不安症の緩和に役立つといわれています。ある研究では、経口ラベンダー製剤(シレキサン 80 mg / 日)を6週間摂取すると、ロラゼパムを0.5 mg / 日摂取した場合と同様に不安症が緩和されることが示されました。[7]
ラベンダーのエッセンシャルオイルは、術前や神経疾患に伴う不安やストレスの軽減に役立つことが示されているため、医療現場における利用について数多く研究されています。ラベンダーのアロマセラピーは、産後うつ病にも役立ち、全般性不安障害を大幅に改善できるといわれています。[8]
ラベンダーやその他のエッセンシャルオイルは、揮発性物質(リナロールや酢酸リナリル)の生理学的効果により、脳に急速に効果を与えるといわれています。ラベンダーを吸入することで、辺縁系が活性化されてGABA作動性神経伝達が促され、扁桃体や海馬の機能が改善されます。[9] GABAは抑制性神経伝達物質で、鎮静作用を集中的に促します。
アダプトゲン
不安症は副腎疲労や甲状腺の機能不全など、内分泌系の不均衡により生じる可能性があるため、アダプトゲンは不安症の治癒に役立ちます。
アシュワガンダ(ウィタニアソムニフェラ)には、神経系に対して強壮、抗炎症、鎮静効果があり、アダプトゲンとして役立ちます。[10]アシュワガンダのアダプトゲンとしての作用は、副腎や甲状腺の機能不全による不安症に有効です。
アシュワガンダの抗ストレス作用と抗不安作用に関する研究がいくつかあります。ある研究では、アシュワガンダには、心理療法に匹敵する抗不安効果があることがわかりました。アシュワガンダを摂取することで、ベック不安尺度(BAI)のスコアが56.5%減少した一方、心理療法では30.5%(p <0.0001)のみ減少しました。[11]その他、ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)でも同様の効果と大幅な減少が示され、毎日アシュワガンダエキスを240 mg摂取することで、朝のコルチゾール値も減少しました。アシュワガンダに抗不安作用と抗ストレス作用があるのは、アルカロイド、ステロイドラクトン(ウィタノリド)、サポニンなどの植物性化合物が含まれているためです。
パナックス種(朝鮮人参やキンクエフォリウム)は、神経系弛緩作用があるアダプトゲンです。ステロイドサポニンがグルタミン酸とセロトニンの再取り込みを阻止し、ジンセノサイドの中枢神経抑制作用によってバランスが保たれます。[13]
ただし、オタネニンジンは、人によっては刺激が強すぎるかもしれないことに注意してください。こうした場合は、アメリカ人参やシベリア人参を用いましょう。主に行われているのは動物実験で、人体実験は数が限られています。
食事と食物感受性
野菜や果物が少なく、加工された砂糖や脂肪が多い不健康な食生活を送っている場合、不安症や気分障害のリスクが高まります。[14]また、研究により、高糖質食によって脳の快楽物質ドーパミンに悪影響が及ぶといわれています。これは、不安症や抑うつなどの情緒不安定が、いかに「快楽を求める」という悪循環をさらに招くかを示しています。砂糖や加工炭水化物を摂取すると、まずエンドルフィンが急増しますが、時間の経過とともに、脳の快楽をつかさどる部分の機能が低下し、不安症や抑うつが悪化します。
メンタルヘルスを管理するうえで見逃されがちな食事療法は、タンパク質の摂取量を増やすことです。タンパク質が豊富な食品にはビタミンBが豊富に含まれ、健全な神経伝達物質の生成を促します。また、タンパク質に含まれるビタミンBには、血糖値を安定させる効果もあります。これは、炭水化物が多い食事により、血糖値が乱れている可能性が高い場合、重要です。食事でタンパク質に加えて、体に良い脂肪や全粒穀物を多く摂ることで、血糖値がより安定します。
タンパク質やビタミンBが豊富な食品は、脂肪の少ない動物性食品(卵、鶏肉、七面鳥、チーズ)、豆類、ナッツ/種子です。[15]
炎症と精神疾患のつながりから、食物感受性を軽減することで不安症を改善できる可能性があるといわれています。プロバイオティクスと同様に、食物過敏症に伴う炎症による腸疾患も、不安症や心の健康に影響を与える可能性があります。食物過敏症や過敏性腸症候群の研究では、食物過敏症を治癒することで、不安スコアが低下することが示されています。[16]また、食物過敏症がある場合、心身の反応(特に子どもの場合、行動や気分の変化など)にも影響が生じます。
一般的な食物過敏症を引き起こす食品は、乳製品、小麦、大豆、卵、砂糖、カフェイン、アルコール、柑橘類、ナイトシェード(ピーマン、ナス、キノコ、トマト、パプリカ、カイエンペッパー、白いジャガイモ)です。
サプリメント
Omega-3 Fatty Acids
観察研究では、オメガ3(n–3)脂肪酸レベルが低く、オメガ6(n–6)脂肪酸レベルが高いと、炎症やうつ病が生じやすくなることが示されています。臨床試験では、オメガ3脂肪酸を摂取することで、炎症レベル(インターロイキン-6)の減少と不安症の軽減が示されました。
ある比較研究では、EPA を1,200 mg / 日 、DHAを600 mg / 日 を摂取することで、プラセボと大差はなかったものの、52週にわたり不安スコアが改善されました。[17]ビタミンDとオメガ3脂肪酸の併用も、不安症の治癒に役立つ可能性があります。これは、多嚢胞性卵巣症候群を患っている女性に見られ、オメガ3脂肪酸2,000 mg / 日とビタミンD 50,000 IU(約4,000 IU / 日)を2週間おきに摂取したところ、うつ病と不安症の両方に大きな効果がありました。[18]心の健康に効果をもたらすには、EPAとDHAの比率が少なくとも2:1でなければならず、魚油を1 g / 日以上摂取する必要があります。
Probiotics
腸脳軸がここ数年注目されていて、心の健康改善に利用されています。動物実験で、特定のプロバイオティクス株により不安が減少することが示されていますが、人体実験では様々なプロバイオティクス株で同様の結果が示されていて、特にラクトバチルス・ラムノーサスが注目されています。複数の研究において、プロバイオティクスの摂取により、女性の感情処理能力が向上し、不快な経験をした健康な成人では、自己申告による気分の向上が示されています。[19]こうした向精神効果は、腸脳軸の双方向の神経、代謝、免疫経路により生じます。また、腸と脳のつながりは、胃腸病原体感染に伴い不安障害が生じる可能性があることでも示され、これは動物実験でも見られています。特定の微生物叢により、精神的苦痛や炎症が促進されたり、抑制性伝達物質GABAがより生成されたりする可能性があります。
Other Supplements
その他の注目すべきサプリメントは、ビタミンB、特にビタミンB₆、マグネシウム、マルチビタミン、GABA、L-テアニンです。栄養の偏った食事を摂っている場合、マルチビタミンが役立つかもしれません。研究により、特に月経前の不安症に対して、ビタミンB3を60 mg、マグネシウムを200 mg摂取すると効果があるといわれています。[20]
結論
様々なサプリメント、食事療法、ハーブ療法が、不安症の治療と管理の両方に効果があるといわれています。心理療法、運動療法、心身療法を組み合わせることで、不安障害を包括的に治療できます。
References
1 Mayo Clinic Staff. “Anxiety Disorders.” Mayo Clinic. · https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/anxiety/symptoms-causes/syc-20350961 · Posted 2018-05-04. · Accessed 2020-06-06.
2 Mayo Clinic Staff, op. cit.
3 Mayo Clinic Staff, op. cit.
4 Akhondzadeh, S., et al. “Passionflower in the Treatment of Generalized Anxiety: A Pilot Double-Blind Randomized Controlled Trial with Oxazepam.” Journal of Clinical Pharmacy and Therapeutics, Vol. 26, No. 5 (2001): 363–367.
5 Hearm, Sara. “Passiflora incarnata.” The Naturopathic Herbalist. · https://thenaturopathicherbalist.com/2015/09/13/passiflora-incarnata/ · Posted 2015-09-13. · Accessed 2020-01-14.
6 Hearm, Sara. “Melissa officinalis.” The Naturopathic Herbalist. · https://thenaturopathicherbalist.com/2015/09/13/melissa-officinalis/ · Posted 2015-09-13. · Accessed 2020-01-14.
7 Woelk, H., and S. Schlafke. “A Multi-Centre, Double-Blind, Randomised Study of the Lavender Oil Preparation Silexan in Comparison to Lorazepam for Generalized Anxiety Disorder.” Phytomedicine, Vol. 17, No. 2 (2010): 94–99.
8 Conrad, P., and A. Cindy. “The Effects of Clinical Aromatherapy for Anxiety and Depression in the High Risk Postpartum Woman—A Pilot Study.” Complementary Therapies in Clinical Practice, Vol. 18, No. 3 (2012): 164–168.
9 Koulivand, P.H., M.K. Ghadiri, and A. Gorgi. “Lavender and the Nervous System.” Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, Vol. 2013 (2013): 681304.
10 Hearm, Sara. “Withania somnifera.” The Naturopathic Herbalist. · https://thenaturopathicherbalist.com/2015/09/15/withania-somnifera/ · Posted 2015-09-13. · Accessed 2020-01-14.
11 Pratte, M.A., et al. “An Alternative Treatment for Anxiety: A Systematic Review of Human Trial Results Reported for the Ayruvedic Herb Ashwagandha (Withania somnifera).” Journal of Alternative and Complementary Medicine, Vol. 20, No. 12 (2014): 901–908.
12 Lopresti A.L., et al. “An Investigation Into the Stress-Releiving and Pharmacological Actions of an Ashwagandha (Withania somnifera) Extract: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study.” Medicine, Vol. 98, No. 37 (2019): e17186.
13 Lakhan, S.E., and K.F. Vieira. “Nutritional and Herbal Supplements for Anxiety and Anxiety-Related Disorders: Systematic Review.” Nutrition Journal, Vol. 9 (2010): 42.
14 Gibson-Smith, D., et al. “Diet Quality in Persons With and Without Depressive and Anxiety Disorders.” Journal of Psychiatric Research, Vol. 106 (2018): 1–7.
15 McMulloch, M. “15 Healthy Foods High in B Vitamins.” Healthline. · https://www.healthline.com/nutrition/vitamin-b-foods · Posted 2018-10-11.
16 Atkinson, W., et al. “Food Elimination Based on IgG Antibodies in Irritable Bowel Syndrome: A Randomised Controlled Trial.” Gut, Vol. 53, No. 10 (2004): 1459–1464.
17 Kiecolt-Glaser, J.K., et al. “Omega-3 Supplementation Lowers Inflammation and Anxiety in Medical Students: A Randomized Controlled Trial.” Brain, Behavior, and Immunity, Vol. 25, No. 8 (2011): 1725–1734.
18 Jamilian, M., et al. “The Influences of Vitamin D and omega-3 Co-Supplementation on Clinical, Metabolic and Genetic Parameters in Women With Polcystic Ovary Syndrome.” Journal of Affective Disorders, Vol. 238 (2018): 32–38.
19 Reis, D. “The Anxiolytic Effect of Probiotics: A Systematic Review and Meta-Analysis of the Clinical and Pre-Clinical Literature.” PloS One, Vol. 13, No. 6 (2018): e0199041.
20 Lakhan and Vieira, op. cit.