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多嚢胞卵巣症候群における生殖能力について考察する ホルモンの相互作用

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多嚢胞卵巣症候群における生殖能力について考察する

ホルモンの相互作用
by: Carolyn Mercer, ND

Ottawa, ON
www.carolynmercernd.ca



多嚢胞卵巣症候群における生殖能力について考察する ホルモンの相互作用


多嚢胞卵巣症候群とは

多嚢胞卵巣症候群(PCOS: polycystic ovary syndrome)は排卵機能不全および(テストステロンおよび関連する男性ホルモンの過活性として定義される)高アンドロゲン血症によって起こる病態です。多嚢胞卵巣症候群は、生殖可能年齢にある女性たちのおおよそ10%が罹患しており、不妊症の良くある原因の一つです。しかし、多嚢胞卵巣症候群の女性たちはしばしば、甲状腺や副腎系のような他のホルモン軸でのよりわずかな混乱にも悩まされています。この記事では、これらの系が多嚢胞卵巣症候群に関連する不妊症に果たす役割について探求します。多嚢胞卵巣症候群の根底にある問題に加えてライフスタイルに基づいた治療法(これは多嚢胞卵巣症候群の女性たち全てにとって治療の第一選択となるべきです)ついて述べることから始めましょう。

多嚢胞卵巣症候群は最も良くある不妊症の原因の一つで、排卵機能不全と高アンドロゲン血症という特徴があります。多嚢胞卵巣症候群の特徴には、多毛症、無排卵(排卵の欠如)、卵胞の成熟停止をあらわす多嚢胞卵巣、肥満そしてインスリン耐性といったものがあります。男性ホルモンあるいは過剰のテストステロンがエストロゲンとプロゲステロンによる負のフィードバックを抑制するようです。多嚢胞卵巣症候群の女性の大半には、LH高値とFSH低値とが認められ、これも無排卵の原因となっています。肥満とインスリン耐性は直接的そして間接的にエストロゲンのレベルを上昇させ、このエストロゲンはテストステロンに変換され無排卵を悪化させます[1]

ライフスタイル修正は(単独あるいはクエン酸クロミフェンやメトホルミンのような排卵誘発剤と組み合わせて)、一般に多嚢胞卵巣症候群に悩む不妊症で無排卵の女性たちの病態管理のための治療の第一選択と考えられています。2014年のあるメタ・アナリシスでは、ライフスタイル介入(食事と運動)は、通常の治療単独と比較して、FSH、SHBG、テストステロン、アンドロステンジオンといったホルモンおよび多毛症スコアに有意な改善をもたらすことが分かりました[2]。別の研究では、等カロリー(総摂取カロリーが変わらない)の低血糖の食事法により多嚢胞卵巣症候群の女性たちのインスリン感受性が改善することが分かりました[3]。低血糖(GO: low-glycemic)食事法というのは、摂取時に迅速にブドウ糖に代謝されない食品を重用する食事パターンのことです。たとえば、玄米や昔ながらのオートミールは、マフィンやクラッカーのような他の小麦粉含有製品よりも低血糖です。もう一つの研究では、多嚢胞卵巣症候群の痩せた女性たちを対象として、食物摂取のタイミングがインスリン感受性に及ぼす影響を調査しました[4]。この研究では、沢山の朝食そして少量の夕食の摂取することは、少量の朝食そして沢山の夕食の摂取と比較すると、インスリン感受性が有意に良好となることが示されました。それと平行して遊離テストステロンおよび17-ヒドロキシプロゲステロンの低下に加えてSHBGの上昇(朝食優性の食事に関連する)も見られました。最後に、運動が多嚢胞卵巣症候群の女性たちのインスリン感受性を改善し、減量を支援することが示されました[5]


甲状腺障害の役割 甲状腺障害の役割

甲状腺障害は人間の生殖生理を妨害することが良く知られています。甲状腺機能の調節に関わっているホルモンには、視床下部で生産される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH: thyrotropin-releasing hormone)、下垂体で生産される甲状腺刺激ホルモン(TSH: thyroid-stimulating hormone)そしてT4(チロキシン)およびT3(トリヨードチロニン)として知られる2つの甲状腺ホルモンといったものがあります。これらのホルモンはヨウ素とチロシンから合成され、T4はT3に転換される可能性がありますが、T3はこの二つの中ではより強いホルモンです。甲状腺機能は、環境有害物質への曝露、遺伝、ストレス、栄養不足、自己免疫疾患、感染やコルチゾールのような他のホルモンのアンバランスからの影響を受ける可能性があります。多くの女性たちが、顕性甲状腺機能低下症や潜在性甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症そして自己免疫性甲状腺障害といった、生殖力に強く影響を与える可能性があるような様々なタイプの甲状腺のアンバランスを経験しています。TSH、T4、T3および甲状腺抗体をカバーした血液検査を行うことにより、甲状腺の健康を評価することが可能です。対照群の12%と比較して、甲状腺異常の人々の68%に月経異常が認められることが示されました[6]

まず、甲状腺機能低下症は、排卵を妨げることにより不妊症を引き起こす可能性があります。問題が存在することが示されている他の甲状腺機能低下症に関連する症状には、便秘、重い生理、体重増加、食欲の変化、昏睡病およびうつ病といったものがあります。OravekとHlavackaは、卵巣内にTSHおよびT3受容体が存在し、これらには卵子を成熟させる作用があるというエビデンスを提示しました[7]。甲状腺機能低下症は、排卵機能不全の原因となり、卵質と受精成功率を低下させるのに加えて黄体の発育不良を引き起こす可能性がありますが、黄体はプロゲステロンの生産を担っています[8]。プロゲステロンは胚盤胞の子宮内壁への着床を促す役割があるため、その低レベルは早期流産や着床失敗の原因となる可能性があります。甲状腺ホルモンのレベル低下は同様に、プロラクチンのレベルを上昇させ、サイクル後半を短縮させ低下したプロゲステロンレベルをさらに悪化させます[8]。興味深いことに、顕著性甲状腺機能低下症(TSH > 5.0)の女性たちだけでなく、潜在性甲状腺機能低下症(TSH > 2.5で定義される)の女性たちでも、妊娠頻度がより少ないことが分かりました[8]。しかし甲状腺のアンバランスの治療により、月経障害を改善し生殖力を回復させることが可能です[9]

自己免疫疾患は、甲状腺機能低下症の最も一般的な原因です。ですから、TSH、遊離T4に加えて甲状腺ペルオキシターゼ(TPO: thyroid peroxidase)のような抗甲状腺抗体の系統的なスクリーニングを考慮すべきです[10]。適切な場合には、欠乏を正すために各自の家庭医を通して甲状腺ホルモンの補給を行うべきです。甲状腺機能を高めるための補完療法には、グッグル(Commiphora mukul)、アヤメの根(Iris versicolor)そしてヒバマタ科の各種海草(Fucus vesiculosus)のようなものがあり、これらは全て、甲状腺機能低下症の治療に役立つ天然に存在する植物です。これらのハーブは異なるメカニズムを介して働くため、甲状腺、特に橋本甲状腺炎(甲状腺機能低下症を引き起こす自己免疫疾患)の症例での支援に、共働作用的に用いることが可能です。昆布(100-500mg/日)はヨウ素の供給源となり、ヨウ素を処理するホルモンを上方制御します。グックル(400-2400/日)は腺を刺激し、解毒を行います。亜鉛とセレンとは、T4をT3に転換するのに必要不可欠であることが示された微量元素です[11]。ストレス軽減と規則的な運動も、甲状腺ホルモンに対する細胞の感受性を改善するのに役立ちます。


副腎機能と生殖力 副腎機能と生殖力

副腎は生殖力に寄与するもう一つの主要な体内にある腺です。副腎は二つの腎臓の上に乗るような位置にあり、ストレスや炎症に反応してホルモンを放出します。より具体的に言うと、視床下部-下垂体-副腎(HPA: hypothalamic–pituitary–adrenal)軸が副腎上で集約されるのです。視床下部が副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH: corticotropin-releasing hormone)を放出し、それが下垂体を刺激して副腎皮質刺激ホルモン(ACTH: adrenocorticotropic hormone)が放出され、それが同様に副腎を刺激して様々なステロイドホルモン、特に注目すべきはコルチゾールおよび硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEA sulfateあるいはDHEAS)が生産されます[12]。コルチゾールは“ストレスホルモン”としても広く知られています。硫酸デヒドロエピアンドロステロンは、多嚢胞卵巣症候群で上昇すると見られている男性ホルモンの一つです。

副腎は、副腎皮質の外層および副腎髄質として知られる内層から構成されています。副腎皮質は、副腎皮質ステロイドおよび男性ホルモンの生産にあたっています。特定の皮質細胞が、アルドステロン、コルチゾール、テストステロンや硫酸デヒドロエピアンドロステロンといった特定のホルモンを生産します。多嚢胞卵巣症候群では男性ホルモンの増加が見られるため、ストレスや炎症が副腎皮質の働きを増加させることにより、さらにホルモンのアンバランスを悪化させる可能性があります[12]

副腎髄質は副腎の核で、副腎皮質に囲まれています。髄質は、エピネフリンやノルエピネフリンのようなカテコールアミンホルモンを分泌します[12]。これらのホルモンは攻撃・逃避反応の基本となる主要なホルモンで、構造的にはアミノ酸のチロシンに由来します。チロシンはT3やT4合成で使われるのと同じアミノ酸です。

ストレスへの暴露は、一部が副腎を介してホルモンに強い影響を与える可能性があります。高レベルのストレスの下では、(アドレナリンとして知られる)エピネフリンの放出が増加し、プロゲステロン分泌を抑制します。エストロゲンとプロゲステロンのアンバランスが、月経周期と排卵とに影響する可能性があります。高い情緒的ストレスは、コルチゾールを増加させ、このコルチゾールが体の主要な性ホルモンを減少させ、排卵と性行動を抑制します。コルチゾールのレベルは炎症、睡眠不足、情緒的ストレスそして免疫不全に影響され、時間の経過とともに燃え尽きあるいは“副腎疲労”が起こります[12]

高レベルのコルチゾールが生殖機能を抑制するのと同じく、低レベルのコルチゾールも同様な結果をもたらします。副腎疲労は、最初にストレス反応の一部としての副腎機能亢進、次に維持そして最後に燃え尽きといったプロセスの最終段階です。副腎機能亢進の急性期では、体が増加レベルのコルチゾールを生産(しかし自然にバランスを回復)するような適応反応が見られます。ストレスが長引くと副腎は“燃え尽き”、高レベルのホルモン生産を持続させることための力や資源が尽きてしまいます。これが副腎疲労と呼ばれるのです。この状態では、体は性ホルモンよりもストレスホルモンの生産を優先するようになり、ストレスホルモン生産へとシフトします。結果として、無排卵、黄体期欠損、多嚢胞卵巣症候群、免疫障害や甲状腺障害があらわれます[12,13]。このように、物理的あるいは情緒的といった様々な形のストレスに晒されることは、生殖機能に強く影響するようなホルモンのアンバランスを引き起こします[14, 15]

副腎疲労の自然療法的な戦略では、最適な副腎機能を回復させるのを助けるアダプトゲニックなハーブを使用します。イワベンケイは、ストレス反応系のバランスを保つと分かっている主な例で、妊娠中に服用しても安全です。一般に、視床下部-下垂体-副腎軸のバランスを保つためには、200-400 mg/日のイワベンケイ属のハーブを服用します。ある研究では、100 mgのイワベンケイ属のハーブを一日2回用いると、無月経を正し、正常な月経周期を回復させることが分かりました[16]。同様に、本来の副腎機能とホルモンのバランスとを取り戻すために自然療法医が使う他の多数のハーブや栄養素が存在します。


まとめ まとめ

ホルモンに関するこの議論で最も重要な部分は、ホルモンの相互作用の度合および一つ一つのホルモンが体の他の部分へどれくらい強く影響するかです。多嚢胞卵巣症候群は、多因性の病態です。この症候群の複数面をターゲットとする女性たちが利用可能な従来治療および補完両方が多数存在するようです。

多嚢胞卵巣症候群に対する自然療法の治療の第一選択には、食事とライフスタイルとに重点を置く低血糖インデックス(GI: glycemic index)食事法、運動や適切な場合には穏やかな減量といったものがあります。これらの治療法は、インスリン感受性を改善し、FSH、SHBG、テストステロンやアンドロステンジオン値を改善し、多毛症を改善することが示されました。このような変化が妊娠率を改善することが示されましたが、ある研究では、食事と運動のプログラムを始めて初期体重の5%の減量に成功した多嚢胞卵巣症候群の女性たちで10件の自然妊娠がありました[17]

多嚢胞卵巣症候群に関連した不妊症に対する従来の治療法には、クエン酸クロミフェン、メトフォルミンやアロマターゼ阻害剤といったものがありました。クエン酸クロミフェンは、エストロゲンとFHSとのレベルを調整し卵胞の成長、排卵や生殖成果を改善する薬物療法の第一選択と見なされています[18]。メトフォルミンはインスリン感受性の改善を助ける薬で、多嚢胞卵巣症候群の人々で排卵を改善することが示されました[19]。多嚢胞卵巣症候群のもう一つの従来治療はアロマターゼ阻害剤ですが、この薬剤はテストステロンをエストロゲンへ転換します。アロマターゼ阻害剤は、より多くのFSHの生産を引き起こし、卵胞をより良く成長させ、卵巣内に嚢胞を生じさせるのを防ぎます[20]。代替医学の視点からは、ジインドリルメタン(DIM: diindolylmethane)で肝機能を変える(エストロゲンが代謝される速度を上げる)ことによりエストロゲンの代謝を改善します。ジインドリルメタンは、エストラジオールとテストステロンとを結合させる性ホルモン結合グロブリン(SHBG: sex hormone-binding globulin)を増加させ、それにより性ホルモンの生物学的利用能を管理します。これは多嚢胞卵巣症候群に極めて好ましく作用します[20]。[20]

多嚢胞卵巣症候群を治療する際には、その原因となる異なる要因を認識することが重要です。別の女性では、別の理由が多かれ少なかれ相対的な重要性を持っています。ある女性では単純にインスリン耐性が主な問題です。過剰なテストステロンはインスリン耐性の副作用の一つです。内分泌専門医は、低血糖インデックス(GI: glycemic index)食事法と運動による減量に加えてメトフォルミンのようなインスリン抵抗性改善剤を処方するでしょう。補完医療の視点からは、クロム(200-1000 mcg)およびマグネシウムがインスリン感受性を増加させます[21,22]。甘草(7.6%のグリチルリジン酸と合わせた甘草3.5 g)のようなハーブがテストステロンを減少させ、ジインドリルメタンのような生産物がエストロゲンの代謝を助けます[23,20]。[23, 20]

多嚢胞卵巣症候群の女性には、副腎や甲状腺の低機能、あるいはホルモンかく乱化学物質に影響をより受けやすい人もいます。ヨウ素、カルシウム(100 mg/日)そしてビタミンD(100,000 IU/月)の補給は多嚢胞卵巣症候群の調整を助けることが分かりました[23,24]。ヨウ素は、甲状腺の調節を助け、それが間接的に排卵およびプロゲステロン生産を改善します。肝臓の解毒は、過剰のホルモンや内分泌かく乱化学物質の代謝を助けます。生物学的に同一のプロゲステロンは、脳内のLH分泌を下方制御し、体内でのエストロゲンおよびプロゲステロンの生産のバランスを取り、排卵を改善するために使うことが可能です[25]。この例は、体内での複数のホルモンシステムの相互結合性を示しています。多嚢胞卵巣症候群の女性たちは、しばしば甲状腺あるいは副腎機能のわずかなかく乱や、エストロゲン、プロゲステロンやテストステロンで特徴付けられる問題に悩まされます。これらのシステムを徹底的に評価し、必要に応じて治療を行うことが、多嚢胞卵巣症候群に関連する不妊症を正すのに必要不可欠です。