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過敏性腸症候群

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過敏性腸症候群
アシュレー・コワルスキ、名誉理学士・自然療法医師

ハンプトンウェルネスセンター
1419 Carling Avenue Suite 209
Ottawa, ON K1Z 8N7

www.ashleykowalskind.com



過敏性腸症候群




過敏性腸症候群とは何か?

過敏性腸症候群(IBS: irritable bowel syndrome)は不規則な排便習慣と腹痛とを特徴とする胃腸障害です[1]。過敏性腸症候群には、便秘優性型IBS(IBS-C: constipation-predominant IBS)、下痢優勢型IBS(IBS-D: diarrhea-predominant IBS)、混合型IBS(IBS-M: mixed IBS)、そして非サブタイプ型IBSの4つのサブタイプがあることが分かっています。一つのサブタイプは他のサブタイプから完全に独立している訳ではなく、例えば、便秘優勢型IBSの患者さんたちは大概、人生の何らかの時点で下痢優勢型IBSも経験します[2]

過敏性腸症候群は人口の推定3-25%が罹患している慢性疾患で、女性における罹患率はその2-3倍です。この疾患は全ての年齢層で見られますが、症状は年齢が上がるにつれて衰えてゆくように見えます[3]。おおよそ30%の患者さんたちが、一年以内の症状の解消を報告していますが、しかし過敏性腸症候群に悩む人たちの70%では5年以内に症状が再発します[4]

Causes
原因

過敏性腸症候群には膨大な数の危険因子があります。過敏性腸症候群は、低胃酸症の結果として現れる可能性があります。低胃酸症は胃酸の生産が十分でない際に起こります。胃酸は食物の分解のために不可欠で、病原体の侵入に対する防御機構として働いています[5]。病原体は、胃腸管フローラおよび胃腸機能を変えてしまう胃腸感染の原因となりますが、これは感染後性IBSの原因であるかも知れません[1]

腸内毒素症も過敏性腸症候群の症状の原因となる可能性があります。腸内毒素症というのは、急性胃腸感染、抗生物質の使用、食事の選択不良、そして食物アレルギーや食物過敏症の結果起こる正常な腸管微生物叢の変化のことです[5]。正常な微生物叢の変化は小腸の異常増殖(SIBO: small intestinal bowel overgrowth)を引き起こしますが、その際には病原性細菌が善玉細菌の培養物を数で上回り始めます。過敏性腸症候群に悩む患者さんたちは、ビフィズス菌や乳酸菌のような善玉細菌の便中濃度が低く、そして病原性腸内細菌の濃度が高い傾向にあります。一般的に小腸では、結腸に存在する種類の細菌のレベルは低く、運動障害や胃酸欠乏のような問題は小腸の異常増殖を悪化させる可能性があります[1]

その一方で、軽度の炎症も過敏性腸症候群の症状に寄与している可能性があります。炎症は理論的には局所的な神経筋機能の崩壊をもたらします[1]。特定の炎症性メディエーターの放出はその近くの腸神経に影響を及ぼし、腸の機能や知覚に変化をもたらすと想定されています[6]。胃腸管の運動性の変化、内臓過敏、そして脳内伝達物質のアンバランスも過敏性腸症候群の症状に寄与する可能性があります[5]。心理学的な問題も、過敏性腸症候群との関連があります。ストレス、トラウマとなるような出来事、不安や抑うつは、しばしば過敏性腸症候群の最初の発病に先行し、その症状を悪化させます[1]。交感神経系の緊張および高いストレス指数は、過敏性腸症候群の患者さんたち全てで見られます[7]。過敏性腸症候群には遺伝的疾病素質もあるかも知れず、その場合には刺激に対する中枢神経系の反応に変化が起こります[1]

上述したように、硫酸塩が多く含まれる食事、動物性タンパク質が多く含まれる食事、そして単糖類・精製炭水化物が多く含まれる食事といった、幾つかの食事要因が腸内毒素症に寄与しています。硫酸塩が多く含まれる食事は、還元されて硫化物となります。硫化物は、おならや腹部膨満のような過敏性腸症候群の一般的な症状の原因となる有毒な硫化水素を生成する可能性があります。

更に、タンパク質は胃腸管上部で消化されない可能性があり、そうなると元々のタンパク質の形のまま結腸に到達します。このタンパク質は次に結腸の微生物叢によって発酵し有毒な化合物になります。タンパク質は、βグルクロニダーゼといった幾つかの酵素の機能を変化させますが、次にこのβグルクロニダーゼは腸内で有毒な物質の生産の増加を引き起こします。最後に、単糖類および精製炭化水素は食物の大腸通過時間を遅らせ、結腸での発酵を増加させて、粘膜の抵抗力を弱めます[5]

神経伝達物質のアンバランスも過敏性腸症候群に影響を及ぼす可能性があります。過敏性腸症候群患者では、セロトニンの合成および利用が減少しますが、これは腹痛に寄与する可能性があります。セロトニンの80%が胃腸管内に存在します[2]。セロトニン値が低いと、運動・知覚機能が変化し、便秘や下痢を引き起こします[1]。セロトニンは十分量で、蠕動運動や胃腸管分泌を担う受容体を刺激します。セロトニンには、腸-脳軸上の情報伝達を促進する働きもあります。下痢型IBS患者が一般に経験している下痢および切迫した便意は、過剰なセロトニン反応によって引き起こされる蠕動運動および分泌の増加が原因かも知れません[2]


Diagnosis Diagnosis 診断

過敏性腸症候群の診断は、臨床的にそして“要注意”症状の除外に基づいて、下すことが可能です。要注意症状には、血便、故意ではない体重減少、熱、そして寝汗といったものがあります[8]。過敏性腸症候群には同定可能な器質的原因は存在せず、信頼性のある診断マーカーは見付かっていません[2]。更に、過敏性腸症候群のための治療法はありません。発症とその酷さとを軽くするための治療が行われます[4]。過敏性腸症候群の患者さんたちの結腸の生検では、同定可能な炎症は何もないことが示されています。しかし、何人かの患者さんたちでは、炎症マーカーの上昇が示され、軽度の炎症の可能性が示唆されます[1]

過敏性腸症候群では、再発性の腹部不快感・腹痛、腸機能の変化、そして膨満やおならの症状が見られます[4]。次の基準(i) 排便を伴う胃腸障害、ii) 排便頻度の変化に関連する徴候、あるいはiii) 便の外観の変化に関連する徴候)のうち二つ以上が、過去3ヶ月間で少なくとも一ヶ月に3日以上見られなければなりません[3]。過敏性腸症候群の人は、緊張性頭痛、繊維筋肉痛症候群、胸痛、慢性疲労症候群、あるいは慢性骨盤痛のような全身症状にも悩まされるかも知れません[5]

過敏性腸症候群の根本原因を除外するために、ラボラトリー検査がしばしば必要となります。低胃酸症の疑いのある人たちには、胃検査の指示が出されます。尿インジカン測定は、小腸細菌の異常増殖が懸念されるかどうかを定めるのを助けるでしょう。一方で、腸の超浸透性が原因の一つである可能性があるかを定めるためには、尿中のラクトースおよびマンニトールの値が測定されます。食物過敏症や食物アレルギーもテストを行うべきでしょう。IgGおよびIgE抗体の検査はそれぞれ、そういった問題があるかを定める助けとなるでしょう[5]


ナチュラルな治療法 ナチュラルな治療法 食事の見直し
  1. 低硫酸塩食:腸内毒素症、そして過敏性腸症候群の症状を改善するために、少なくとも6-12ヶ月間、低硫酸塩食に従うべきです。これにより、腸が正常化し、毒素が排出される時間がもたらされることでしょう。硫酸塩の一般的な食物源には、保存料、甲殻類・貝、焼き菓子、白いパン、アルコール飲料、そして硫黄を含んでいるアミノ酸が多く含まれる食物(牛乳、チーズ、卵、肉、そしてアブラナ科の野菜)といったものがあります[5]
  2. 除外食:この種類の食事は、過敏性腸症候群に悩む人たちにとって極めて役に立つ可能性があります。患者さんたちは、決められた期間中一般的なアレルゲンを控えるよう、そしていったん特定の食物が同定されたら、以後それらのアレルギーあるいは不耐症の食物を控え続けるよう、指示を受けます[5]
  3. 低FODMAP(Fermentable Oligosaccharides, Disaccharides, Monosaccharides and Polyols)食:発酵性のオリゴ単糖類および二糖類、そして多価アルコール(糖アルコール)を抑えた食事は、過敏性腸症候群の症状に改善を示しました。これらのFODMAPSは一般に高い浸透圧活性を持ち、結腸細菌によってかなり迅速に発酵され、膨張、膨満、そしておならの症状を引き起こします。吸収されずに発酵したFOMAPSが原因で起こる管腔膨張は、過敏性腸症候群の多くの症状の基礎となります[2]
  4. 食物繊維は健康および胃腸管の正常な機能にとって必要不可欠です。食物繊維は胃腸通過時間を著しく改善し、ガンや病気の全体的なリスクを減少させます。食物繊維は過敏性腸症候群の症状を助けますが、腹痛を悪化させるようです。食物繊維は、過敏性腸症候群の症状や便秘を助けるものの、その一方では不溶性の食物繊維が過敏性腸症候群に何の効果もないことが示されました。特に便秘型IBSの治療には、水溶性食物繊維が最も治療効果が高いようです。水溶性食物繊維の食物源としては、亜麻仁を挽いたもの、オオバコの外皮、アカニレの粉末、オート麦のふすま、そしてペクチンといったものがあります[1]
  5. 液体の摂取(一日当たり2100-2600ml)も正しい腸機能のために重要です。十分に水を飲んでいない人たちでは、排便の頻度および便の重さが著しく減少することが報告されています[1]

生活習慣の見直し
  1. 運動は過敏性腸症候群の人たちの便秘を治療するのに効果的です。毎日の適度な運動によって胃腸通過時間を著しく加速することが可能ですが、これによって、より柔らかく頻繁な排便がもたらされます[5]。運動はストレス軽減にも効果的ですが、このストレスは過敏性腸症候群の症状の原因の一つであるかも知れません[3]
  2. ストレス管理も、過敏性腸症候群の発症および症状の重さを軽減するのを助ける可能性があります。ストレス管理の手法には、(ほんの数例を挙げると)誘導イメージ療法、深呼吸エクササイズ、瞑想、太極拳、そしてヨガといったものがあります。


サプリメント
  1. プロバイオティクス(一日当たり1億から60億CFUから始めて時間と共に徐々に増加させる):体に良い細菌は過敏性腸症候群を減少させます:病原性細菌の増殖および結合を抑え、上皮組織のバリア機能を改善し、そしてホストの免疫活性を変化させます[6]。プロバイオティクスは、多くの胃腸障害でも利用されています。プロバイオティクスの適切な菌株は、腸および結腸の微生物叢の乱れを正常化するだけでなく、有毒な発酵副産物を減少させます[5]。プロバイオティクスの利用はプラセボと比較して、過敏性腸症候群の症状の全体的な改善および腹痛の減少と関連があります[4]。プロバイオティクス微生物(ビフィズス菌および乳酸菌)はサプリメントや発酵食品(主にヨーグルト、ザワークラフト、そしてケフィール)に含まれています。過敏性腸症候群の治療で効能を示した、市販のプロバイオティクスの菌株には、Lactobacilli fermentumやLactobacilli plantarumといったものがあります[1]
  2. シンバイオティクス(Bifidobacterium longum 5×109 CFUおよびフラクトオリゴ糖2.5g)は、プロバイオティクスとプレバイオティクスとの両方を結腸に混合物として届ける効果的な方法です。この方法は、上部胃腸管を通してプロバイオティクスの生存率を改善し、末梢部におけるコロニー形成の成功を可能とさせることが知られています。シンバイオティクスには、届けられたプロバイオティクスおよび既に腸内に存在するプロバイオティクスの菌株の増殖および活性を刺激する作用もあります。便秘性IBSの患者さんたちは、シンバイオティクスを服用する際に腹痛の減少に加えて排便頻度の増加を報告しています[1]

植物薬
  1. 腹痛はしばしば駆風薬や鎮痙剤を利用することで治療します。ペパーミント(Mentha piperita)、ショウガ(Zingiber officinale)、コリアンダーの種(Coriandrum sativum)、そしてオレンジの皮(Citrus reticulata)は効果のようです[1]
  2. 心理学的苦痛は、抗不安薬、適応促進薬、そして神経鎮静剤の使用によって最小限にすることが可能ですが、これらの薬草は神経システムを支えています。Passiflora incarnateおよびセイヨウカノコソウ(Valeriana officinalis)は、不安を治療するのに使われる一般的な抗不安薬です。一方で、適応促進薬には、刺激性および弛緩性の主に二つのサブタイプがあります。刺激性適応促進薬には、イワベンケイ(Rhodiola rosea)、朝鮮人参(Panax ginseng)、そしてエゾウコギ(Eleutherococcus senticosus)といったものがあります。これらのハーブは、症状像の一部に疲労が見られる患者さんたちに対してより優れた選択肢です。その一方で、弛緩性適応促進薬は、不安や他の形での刺激過度が見られる場合に処方されます。これらの薬草のうちの幾つかには、アシュワガンダ(Withania somnifera)、チョウセンゴミン(Schisandra chinensis)、そしてマンネンタケ(Ganoderma lucidum)といったものがあります[1]
  3. もし炎症が見られるならば、これは通常は非常に軽く、ターメリック(Curcuma longa)、甘草(Glycyrrhiza glabra)、そしてカミツレ(Matricaria recutita)といった薬草で管理することが可能です[1]


結論 結論

過敏性腸症候群は、様々な要因から起こる慢性疾患です。過敏性腸症候群の厳密な原因ははっきりしておらず、治療は症状管理と生活の質の改善とに向けられています。診断は臨床的に下され、少なくとも2-3の基準(i) 排便での胃腸症状の改善、ii) 排便頻度の変化と関連する発症、あるいはiii) 便の外観の変化に関連する発症)を満たさなければなりません。現在のところ、過敏性腸症候群の治療法はありません。生活習慣と食習慣との見直しは、症状の軽減をもたらすかも知れません。サプリメントや薬を服用する前には医療専門家と相談して下さい。副作用およびサプリメントや薬との間の相互作用が有害であるかも知れません。