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子宮内膜症の統合治療

日本語

はじめに&背景

子宮内膜症は、生殖年齢の女性において最も一般的な慢性婦人科疾患の一つで、衰弱を伴う激しい痛みが生じるだけでなく、生殖能力にも大きな影響を与える可能性があります(2)。

 

子宮内膜症は、子宮腔の外部に子宮内膜組織があることで定義されます(2)。この異常な位置にある組織は、毎月変化する女性ホルモンに反応して成長し、出血を引き起こす可能性があります(2)。これに対して免疫系が反応し、炎症や線維症が生じ、さらに痛みやその他の合併症が起こる恐れがあります(4)。子宮内膜症が最もみられるのは、卵巣や卵管などの骨盤内ですが、肺、胃、脾臓、腎臓などの子宮から離れた場所に生じることもあります(2)。その症状の重症度と種類は、子宮内膜症病変の位置や程度によって異なります。確定診断には手術が必要で、腹腔鏡検査と生検で確認されます(2)。このため、多くの場合、診断は症状に基づき臨床的に行われ、他の原因が除外されます。

 

子宮内膜症がどのように生じるかについては様々な理論がありますが、より一般的に受け入れられている理論の一つは、毎月、子宮内膜が脱落する際に、一部の組織が逆流する逆行性月経です(2)。免疫機能障害もかかわりがあるといわれ、子宮内膜症を患った場合、免疫系が異常な場所にある子宮内膜組織に対して、はるかに強烈な炎症反応を示し、正常な場合には除去されるこうした組織を取り除くことができません(2)。

uterus

 

子宮内膜症の正確な原因は未だに不明ですが、危険因子がいくつか確認されています。子宮内膜症の家族歴、初潮年齢が低い、月経周期が短い(27日未満)、大量の出血、月経出血期間が長い(7日を超える)場合、子宮内膜症の発症リスクが高まります(2)。また、動物実験により、ダイオキシンなどの環境毒素への暴露も原因となり、リスクが高まる可能性があることが示されていますが、この結論はまだ十分に確立されていません(2)。

 

従来の治療

 

子宮内膜症の原因に関する理解が限られているため、現在の治療法の選択肢はやや限られています。しかし、子宮内膜症が発症すると、生殖年齢の女性に影響を及ぼすことから、女性ホルモンがこの疾患の成長と悪化の主な原因であると考えられます(2)。経口避妊薬や他のホルモン類似体などのほぼあらゆる従来の治療は、エストロゲンレベルの低下やコントロールを目的としています。こうした薬物療法は、痛みやその他の症状を軽減するのに適度に役立ちますが、多くの場合、不十分で、望ましくない副作用を伴うことがあります(7)。また、妊娠を希望する女性には適していません。NSAIDなどの鎮痛剤が処方されることもよくありますが、他の長期的なリスクが起こる恐れがあり、常に有効であるとは限らず、一つの症状にのみに対処します。唯一「効果的な」選択肢は、子宮全摘術を含む手術ですが、もちろん、これには他の長期的な健康上のリスクや受胎能力への影響も伴います(2)。妊娠を希望する場合、保存的手術がよく用いられますが、一部の女性にとっては、必ずしも効果的または好ましいとは限りません。そのため、子宮内膜症のための他の治療法や管理法を見つけることが大切です。総合的な治療は、疾患に対して様々な角度から対処して苦痛を減らし、妊娠率を改善するのに役立つ可能性があります。

 

食事の役割

食事と子宮内膜症に関する研究の大半が、食事が子宮内膜症の発症リスクに対して与える影響に関するもので、実際に子宮内膜症を治療・管理するうえで、食事をいかに活用できるかについて研究されているわけではありません。しかし、同じ要素が重要であるといえ、子宮内膜症の発症要因になり得る食品は、子宮内膜症を悪化させる可能性もあります。データは限られていますが、トランス脂肪酸や赤身肉、アルコールの摂取量と子宮内膜症の発症リスクはかかわりがあるようです(6)。別の研究では、子宮内膜症を患っている女性は、患っていない女性と比べて、赤身肉やコーヒー、トランス脂肪酸を多く摂取している一方、野菜やオメガ3脂肪酸の摂取量は少ないことが示されています(8)。野菜や果物、魚油、そしてカルシウムとビタミンDが豊富な乳製品をより多く摂取することで、子宮内膜症の発症リスクが低下する可能性があるといわれています(6)。ある研究によって、IVF(体外受精)を経験している女性は、EPA(オメガ3脂肪酸)を多く摂取している場合、子宮内膜症を患う可能性が低いことが報告されています(5)。オメガ3脂肪酸が豊富な食品をはじめ、こうした食品を摂取することで、体内の炎症に対してプラスの効果があることが示されています(11)。そのため、食事療法は、子宮内膜症に伴う炎症を軽減し、痛みを管理するのに役立つ可能性があるといえます。

 

栄養補助食品

vitamin D

ビタミンD

ビタミンDは体内において様々な働きがあり、免疫系が適切に機能するための重要な栄養素で、特に子宮内膜細胞の炎症と増殖を調節する役割があることが示されています(4)。ビタミンD受容体とビタミンDを活性化するのに必要な酵素も子宮内膜組織内にあることから、子宮内膜症の発症と治療におけるビタミンDの役割について研究されています(4)。観察研究では、ビタミンD不足の女性は子宮内膜症になりやすく、ビタミンDを多く摂取している女性はリスクが低いことが示されています(4)。一般的にデータは、体内のビタミンDレベルが、子宮内膜症の発症と重要なかかわりがあることを示していますが、明確な因果関係を確定できるだけの証拠はまだありません(4)。子宮内膜症の治療薬としてビタミンDを用いた介入研究では、かなり複雑な結果が示されています。ある研究では、術後8週間で依然としてかなり痛みを感じていた女性に、週に5IUのビタミンDを注射しました(1)。24週間後、痙攣や骨盤痛の重症度において、ビタミンDとプラセボの間に大きな違いは見られませんでした(1)。ビタミンDには、痛みを軽減する以外の効果がある可能性があり、サプリメントの利用について判断する前にベースラインの状態についても考慮することが重要かもしれません。全体として、ビタミンDの子宮内膜症の治療に対する役割を判断するには、さらに多くの研究が必要ですが、ビタミンD欠乏症を改善することが子宮内膜症の予防に重要かもしれません(1)。

 

メラトニン

melatonin

メラトニンは、睡眠を促すホルモンとして最も知られていますが、この内因性ホルモンについての理解が深まり、強力な抗酸化作用や抗炎症作用、鎮痛作用があることも認識されています(10)。そのため、子宮内膜症に伴う痛みの原因となる炎症や酸化ストレスの軽減に有効か否かを確認することは役立つといえます。これについては、主に細胞や動物のみを用いて研究されてきましたが、ある40人の女性を対象とした人体実験で、有望な結果が示されました(10)。この研究では、8週間にわたって女性の半数に10 mgのメラトニンを処方し、もう半数にプラセボを投与しました。メラトニンを摂取したグループは、プラセボと比較して日々の痛みのスコアが39%、生理痛(月経困難症)が38%軽減しました(10)。また、睡眠の質が向上し、鎮痛薬「レスキュー」を用いなければならない可能性が80%減少しました(10)。

 

NAC +その他の酸化防止剤

別の有望な研究では、N-アセチルシステイン(NAC)を600mg、アルファリポ酸を200mg、ブロメラインを25mg、亜鉛を10mg含む製品について調査されました(7)。こうした化合物には強力な抗酸化作用があることが実証されていて、子宮内膜症に伴う骨盤痛の発症を妨げる可能性があります(7)。ベースライン時の平均ビジュアルスコア(ビジュアルアナログスケール)は6.68で、NSAIDを服用している患者の86.4%に、痛みの軽減がみられました。この86.4%の患者のうちの13.6%が、毎日NSAIDを服用していて(7)、その他の患者は、月経周期の約45日間、NSAIDを服用していました。3ヶ月後、平均疼痛スコアが4.55に減少し、疼痛管理のために毎日NSAIDに頼っていたのはわずか4.3%でした(7)。サプリメントを服用してから6ヶ月後に行われた最終評価では、平均疼痛スコアが3.52で、未だにNSAIDを毎日服用していたのは、1.3%のみでした(7)。この実験開始から6ヶ月間追跡された平均疼痛スコアの変化は、統計的に有意であるとみなされました(7)。疼痛スコアが最も減少したのは、実験開始時に最も痛みが激しかった女性でした(7)。

 

ビタミンC + E

resveratrol

ビタミンCEは抗酸化作用があり、子宮内膜症に伴う痛みの原因となる酸化ストレスと闘ううえで役立つ可能性があります。あるプラセボ対照試験では、手術前の8週間、毎日ビタミンC1000mg、ビタミンE1200IU与えました(9)。患者のうちの43%が日々の痛みが改善し、月経困難症(生理痛)が37%減少し、患者のうちの24%が性交時の痛みが減少しました(9)。また、腹膜の炎症マーカーも大幅に減少しました(9)。一方、プラセボでは、日々の痛みや性交時の痛みに変化はなく、月経困難症の改善はわずかでした(9)。

 

レスベラトロール

レスベラトロールは、主にブドウ、ワイン、ベリー類、特定のお茶、ピーナッツに含まれるポリフェノールで、抗酸化作用や抗炎症作用、抗腫瘍作用(抗癌作用)があり、子宮内膜症に伴う炎症や酸化ストレスと闘うのに役立つ可能性があります(3)。数多くの動物実験や細胞研究で、炎症マーカーを減少させることが示されています。臨床試験の数は限られていますが、特に経口避妊薬と併用した場合、いくつかの効果が示されています(3)。ある研究では、経口避妊薬が痛みの軽減に効果がない女性に、経口避妊薬と併用してレスベラトロール30mgを投与しました(3)。2ヶ月後、痛みのスコアが大幅に減少しました。対照的に、44人の女性を対象とした別の研究では、レスベラトロールと経口避妊薬を併用した場合と、経口避妊薬とプラセボを組み合わせた場合を比較したところ(3)、42日後、レスベラトロールにプラセボを超える効果はみられませんでした(3)。しかし、痛みに効果的なレスベラトロールの投与量と使用期間を完全に理解するには、さらに研究が必要です。

 

結論

結論として、子宮内膜症への統合的な治療として役立ち、慢性疼痛を管理するうえで役立つ可能性のある補足的な治療が数多くあります。 鍼や瞑想、マインドフルネスを用いた治癒も役立つかもしれません。必要に応じて薬物療法を用いながら、食事やライフスタイルを変更し、サプリメントを摂取することで相乗効果が生まれ、子宮内膜症にかかわる様々な要因に対処できるため、より安心感を持てます。また、少なくとも統合的な治療では、子宮摘出術などのより極端な治療法に切り替えて苦痛を緩和する前に、選択肢を持てます。

 

References

 

  1. Almassinokiani F., Khodaverdi S., et al. “Effects of Vitamin D on Endometriosis-Related Pain: A Double-Blind Clinical Trial.” Med Sci Monit. 2016 Dec 17;22:4960-4966.

 

  1. Davila G. “Endometriosis” Medscape. 2018 Jul.

 

  1. Dull AM., Moga MA., et al. “Therapeutic Approaches of Resveratrol on Endometriosis via Anti-Inflammatory and Anti-Angiogenic Pathways.” Molecules. 2019 Feb 13;24(4).\

 

  1. Giampaolino P., Della Corte L., et al. “Is there a Relationship Between Vitamin D and Endometriosis? An Overview of the Literature.” Curr Pharm Des. 2019;25(22):2421-2427.

 

  1. Hopeman M., Riley J., et al. “Serum Polyunsaturated Fatty Acids and Endometriosis”. Reprod Sci. 2015 Sep; 22(9):1083-7.

 

  1. Jurkiewicz-Przondziono J., Lemm M., et al. “Influence of diet on the risk of developing endometriosis” Ginekol Pol. 2017;88(2): 96-102.

 

  1. Lete I., Mendoza N., et al. “Effectiveness of an antioxidant preparation with N-acetyl cysteine, alpha lipoic acid and bromelain in the treatment of endometriosis-associated pelvic pain: LEAP study.” Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2018 Sept;228:221-224.

 

  1. Parazzini F., Vigano P., et al. “Diet and endometriosis risk: a literature review.” Reprod Biomed Online. 2013 Apr;26”4):323-36.

 

  1. Santanam N., Kavtaradze N., et al. “Antioxidant supplementation reduces endometriosis-related pelvic pain in humans.” Transl Res. 2013 Mar;161(3):189-95.

 

  1.  Schwertner A., Conceicao Dos Santos C., at al. “Efficacy of melatonin in the treatment of endometriosis: a phase II, randomized, double-blind, placebo-controlled trial.Pain. 2013 Jun;154(6):874-81

 

  1.  Sears B. “Anti-Inflammatory Diets” J Am Coll Nutr. 2015;34 Suppl 1:14-21.